第54話 ユーリの気配

ユーリがレセプションの開始の鐘を聴いたのは王城まで後5分の距離だった。


(あと少し!)


 正門が見えて来た時に魔力の爆発が起こった。


(ナルミのクロスライフルだ!相手はミーシャだな!)


 ユーリは正門をくぐり抜けた。幾人かの兵士が倒れているのが見えた。そして二度目の光の砲撃。ユーリはミーシャにその光の濁流がぶつかるのを見た。


(よしよしよし!ナルミ、すごいよ!サーラもいる!大丈夫、ミーシャは抑えられる。)


 ユーリはナルミの砲撃でミーシャに深いダメージが与えられた事を確信していた。そして、


(魔獣!)


 魔獣を抱えた二人の賊が国王へと走りよるのが見えた。そのうちの一人は再び放たれた光弾により粉砕される。


(もう一人は私が!)


 ユーリはホバーボードを建物の壁を伝わらせて高く舞い上がらせると壁を蹴り上げてもう一人の賊へと迫った。


「でやーっ」


 気合い一閃。ユーリは賊を魔獣の魔石ごと両断した。


「ふう。間に合った。」


 ユーリが着地した先にはミットフィルに防御された国王がいた。


(魔獣が爆発しても国王は無事だったな。でもミットフィルは大怪我したかもな…)


 国王は突然現れたユーリに驚いた様子を見せたがすぐに平静を取り戻した。


「ユーリ。また助けられたな。これで三度目だ。」

「国王陛下がご無事で何よりです。」

「何だ、その他人行儀な口の聞き方は!お前にはそのような態度をとってほしくないものだな。」


 ユーリは苦笑すると口調を改めた。


「うん、バール。無事で何より。私の相棒のところに行かなきゃならないからまた後で来るよ。」


 ユーリはそう言い残すと踵を返して走り出した。正門後ろの橋へと。



 

 

 私はユーリが賊を両断した事を確認するとクロスガンを抜き、サーラさんの隣に立った。もうクロスライフルを構えて魔力を放つ力は残ってなかったからだ。

 ミーシャも刀を構えてこちらに相対している。ミギとダルリも剣を抜き、私に倣ったがその体は二人とも傷だらけだった。


「ミーシャ。」


 サーラさんが呟くように名を呼んだ。そこへユーリが駆けつけて来た。


「サーラ、その通りだ。ミーシャだ。」


 ユーリも刀を構えた。ミーシャはそれを見ると少しの躊躇もせずに橋の下の堀へと飛び込んだ。誰も動かなかった。いや、動けなかったのだろう。ユーリはサーラさんの肩に手を置くと黙って刀を鞘に戻した。

 そして私の側へと歩んで来た。


「ナルミ、ありがとう。」


 ユーリのその言葉で私は手にしていたクロスガンを取り落とし、しゃがみ込んでしまった。うーん、もう動けない…


「な、何ですか?ユーリ?」


 私はユーリにいわゆる"お姫様抱っこ"をされるとバルコニー前の広場に連れて行かれた。


「ミットフィル、魔法士にナルミのヒーリングをお願いしたい。」


 すぐに一人の魔法士が私の所へ来てヒーリングをしてくれた。


「ありがとうございます。ユーリ。もう一人で立てます。」


 私はユーリから離れるとほっーと息を吐き、立ち上がった。うん、大丈夫だ。そして私はそこに一人の男性がいる事に気がついた。その男性を何気なく見て私は驚いた。


「こ、国王陛下!」


 私は急いで片膝をついた。


「バール。私の相棒を紹介するよ。ナルミ・ジェイド上級騎士。」

「ほう。ユーリに相棒と呼ばれるとはな。ナルミ、お前には助けられた。礼を言う。」

「いえ、もったいないお言葉です。」

「バール。あなたもあまり無茶はしないでね。まあ、私に言われたくないだろうけど…」

「ははは、確かにユーリには言われたくないな。ではナルミ。また会おう。」


 国王陛下はそう言うとミットフィルさん達に警護されながら王城の中へと入っていった。


「ユーリ!国王陛下とお知り合いなのですか!あんなに親しげな口を聞いて怒られないのですか?」


 ユーリは不満気な顔をして私を見た。


「そうなんだよ。丁寧に話すと怒られるんだよ。理不尽だよね…」


 そ、そうなんですか?いったいユーリって何者??


「そんな事よりナルミは強くなったね。あの砲撃はびっくりしたよ。ねえ、サーラ。」


 私達の後ろにはサーラさんがいた。


「ええ、正直驚いたわ。やっぱりナルミ。あなた親衛隊に来ない?楽しいわよ。」

「ダメだ、ダメだ!ナルミは誰にもやらん!」


 それにしてもサーラさんはどうしてここに?


「ああ、途中でガーマント共和国の使者を名乗っていた奴に殺されそうになったのよ。パスを調べたら偽物っぽいし、通信も妨害されてたから急いで戻ってきたの。」

「サーラさん。そのおかげで助かりました。ありがとうございます。」

「いえ、お礼を言うのは私の方。陛下を守ってくれてありがとう、ナルミ。」


 それを聞いたユーリがサーラさんに問うた。


「サーラはいつの間にナルミを呼び捨てで呼ぶようになったの?」


 そういえば、そうだな。


「まあ、ユーリの相棒ですからね。呼び捨てで良いかな。それじゃあ、私はミットフィルと合流するわ。じゃあね。ユーリ、ナルミ」


 はあーー、何か疲れたな。そういえば、何でユーリがここにいるんだろう?


「そういえば何でユーリはここにいるのですか?」

「うん、聞いてよ!ナルミ!アカネがね…」


 ユーリの言葉はアカネに対する驚きと信頼に満ちていた。




 

「完全に失敗だ。ミーシャと精鋭10名が居ながら失敗とは…。えーい、ユーリとサーラを完全に封じる事ができなかった…。現状をニュークロップ様にお知らせしなければ…」


 祭りの喧騒が届かない腐敗臭に満ちた路地裏に男はいた。黒い不気味なマントを羽織った取り立てて特徴の無い男だった。

 男は通信機を取り出すと操作をし始めた。


「おかしい。通信ができない。なぜだ?」


 男は焦りながらカチャカチャと通信機を操作する。


「お困りのようだにゃ?」


 男は急に声をかけられてひどく慌てた。


「こ、これはその…」

「誰と話ているのかにゃ?」

「お、お前には関係ない。」

「ニュークロップ。」


 男は大いに動揺した。この小柄な女は何者なんだ。


「そ、そんな奴は知らない!」


 男は絞り出すように声を出した。


「そうかにゃ。」


 マムは音もなく男の後ろへ滑り込むと男の口を押さえて首筋を持っていた短刀で切り裂いた。鮮血が吹き出し、男はその場に倒れこんだ。


「カガリさん。終わったにゃ。後始末をお願いにゃ。」


 マムは男を一瞥すると暗闇の中に溶け込んで消えた。


▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️


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