第52話 襲撃

橋の警備にあたっている特殊作戦室チームのリーダーはカンネだった。私は堂々とカンネと対峙する。


「ミシマ分室上級騎士ナルミ・ジェイドです。この橋は親衛隊のチームも共同で警備にあたります。親衛隊のチームリーダーは私が担います。」


 ビシっと敬礼を決めてやった!


「なっ!お前が上級騎士だと!しかもなぜ親衛隊のチームを率いている?」


 カンネは怒鳴るように私に言ってきた。私はカンネにわたしの身分証とミットフィルさんにもらった通達をカンネに突き出した。


「な!バカな!」

「事実です。この橋は私達も警備にあたります。分担を話しあいたいのですが。」


 カンネの歯ぎしりが聞こえてきた。ぐぎぎぎ。


「ミギ!!こちらのお嬢さんの相手をしてやれ!私は警備計画を見直す!」

「待ってください!死の商人が暗躍しています。この橋を狙ってくる可能性がある。連携してください!」


 カンネは振り返りもせずに正門側へ行ってしまった。


「はあ…」


 私も特殊作戦室やカンネには思うところがある。でも恐るべき敵が襲ってくる可能性があるのだ。大事の前の小事だろう!くそ!!

 なおもカンネを追いかけようとした時、サッと腕を取られた。


「な、何を、、」


 "する"と言いかけた私は言葉を飲み込んだ。


「ミギ、ダルリ!」

「ちょっとちょっとナルミさん。こっちへ。」


 私は橋の端へとミギに引っ張られて行った。


「ナルミさん。ユーリさんが捕まったって聞いて心配してたんです…」


 うーー、君達とその話をしている場合じゃない。ユーリでも勝てない敵が来るかもしれないのだ!


「それよりも橋の警備についてカンネと話がしたい!」


 ミギとダルリは顔を見合わせていたが…


「ナルミさん。その話は私達が聞きます。大きな声では言えませんが…。今、このチームはカンネがチームリーダーとなっていますが機能していません。カンネからは特に指示もなく、人員を適当に配置しているだけですから…」


 何!!あいつ!何をやっているんだ!!


「カンネはゴマスリと腕力だけでのし上がってきたようなやつです。何も考えちゃいませんよ。」


 そんな事はわかっているんだ!ラーシャを考え無しに斬り捨てようとしたやつだぞ!だが今は強大な敵から王城を守らないとならない。


「実質、このチームを動かしているのは僕達です。親衛隊、いやナルミさんが連携してくれるなら心強い。それで何が起こっているのですか?」


 え?そうなの…。


「ならば詳細を聞いてほしい。」


 私はミギとダルリに詳細を語った。ユーリとサーラさんのこと。死の商人のこと。そして恐るべき敵、ミーシャのこと。


「なるほど。わかりました。確かにレセプションを狙うのはあり得る話だ。」

「祭りの期間だ。よそ者が王都に潜入していても目立たない。正門を突破したらレセプション会場まで一直線だ…。だがこの警備を突破できるか??」


 ミギとダルリは考えこむ。


「武闘大会でユーリと戦いましたよね?ユーリとサーラさんがここの突破を図ったらどうですか?」

「止められないな…」


 そ!そういうことだよ。


「ミーシャは襲って来ないかもしれません。でも対策はしておきたい。ミーシャは同時に連続攻撃を行うのが効果的です。ただし、私達じゃ勝てません。足止めをして陛下を逃す時間を作るのがここの役目だと思います。」


 ミギとダルリは頷いた。


「それでは段取りを決めておきましょう。」



 

 

 夕方になった。レセプションの開始まであと15分ほどだ。今まで不審な事はなかった。

 カガリさんとアカネを中心に王都近郊の魔力の動きを探っているが不審な点はないらしい。祭りは盛り上がっている。王城の外からは人々の楽しそうな歓声が聞こえてくる。歌が聞こえてくる。

 このまま、何もなければ良いなあ。私達の取り越し苦労なら良い。だが嫌な予感を拭う事はできなかった。季節は秋だというのに私の額には汗が滲んでいた。それはミギとダルリも同じようだった。この場で能天気なのはカンネだけだ。

 レセプション5分前。通信機に話しかける。


「ミットフィルさん。陛下は移動されましたか?」

『はい、護衛10名とバルコニーへ移動中です。』


 2分前。


 緊張感が橋の警備についているチームを襲う。何なんだ?この感覚は?

 そして、レセプションが始まる。開始を知らせる鐘が鳴り響く。歓声。

 私達は刀を抜き、最大限に警戒する。


「王国の建国から100年。王国はここまで発展した!」


 国王陛下の朗々たる声が正門まで響く。その時だった。カガリさんから通信が入った。


『来ます!正面!!』


 カガリさんの絶叫だった。突然に正門が弾け飛ぶ。


「来た!各員、取り決めた段取り通り!遠巻きに足止めを優先!」


 仮面を被った長身の男。正門は破壊され、正門を守っていた兵士が倒れている。ミーシャの後ろには10名ほどの賊が続く。祭りに紛れて王城まで接近したのだろう。それぞれがバラバラに仮装していた。


「何だ!お前らは!」


 カンネが剣に魔力を込めてミーシャに斬りかかる。ダメだ!段取りが無茶苦茶だ!!私はミーシャの気をそらせるためにクロスガンを乱射したが当たらない。


「うおおおー。」


 大きな声をあげてカンネがミーシャに剣を振り下ろした。カンネの剛力から振り下ろされた一撃は相当な威力だ。

 だがミーシャはその一撃を身体を傾けるだけで避けた。ユーリの動きに似ている。バランスを崩したカンネにミーシャの刀が振り下ろされた。


「この!!」


 カンネを救ったのはミギとダルリだった。カンネが両断される直前にミギがカンネの襟首を掴み、後ろに放り投げる。ダルリが魔法を付与された盾でミーシャの一撃を喰い止めた。


「ダルリ!ダメ!盾から離れて!」


 私の声にダルリが反応する。盾はミーシャの剣撃を逸らすことには成功した。しかし、盾は両断され、その両断された盾の死角からミーシャの次の一撃がダルリを襲う。もう!!

 私は武闘大会でもらった魔刀を振るい、ミーシャの刀を防ぐ。


 パキン!

 ミーシャの刀は防げた。ダルリも無事だ。でも私の魔刀は根本から折れていた。


「ちっ!」


 私は魔刀を放り投げるとクロスガンを乱射しながらバックステップでミーシャの間合いから離れる。カンネは腰を抜かして座りこんでいた。あの役立たず!!

 ミギとダルリは体勢を整えて私の側で剣を構えている。この間にミーシャの後ろにいた賊は橋を警備していた騎士に踊りかかっていた。あの賊も強い。だがかろうじて騎士達は賊が橋を突破することを防いでいた。


「全員、全力で賊を足止めして。この仮面の男はミギ、ダルリ、私で相手する。」


 私は大声で指示を出す。騎士達は良く動いていた。賊を良く足止めしている。私達がここで足止めしている隙に親衛隊が国王陛下の身の安全をはかれればいい。


「な!」


 思わずミギとダルリを見てしまった。ミーシャは刀にとんでもなく多量の魔力を込め始めたのだ。


「ナルミさん。あれはダメだ。止められない!」


 ミギが叫ぶ。でも、そんな事は私もわかっている。ユーリの魔力よりも多量、強力、そしてとても禍々しい。私は急いでクロスライフルを引き抜く。全力。全力の魔力を込めてミーシャを狙う。躊躇はしない。


「いけーー。」


 トリガーを引く。光の濁流がミーシャを襲った。しかし、光の濁流はミーシャには届かない。ミーシャが放った黒い波動とぶつかり飛散した。


「ぐあああ!」


 橋へ魔力の粒子が弾け飛ぶ!橋の上の騎士、賊へ魔力の暴発が襲いかかった。その間に賊が二人、騎士の間を擦り抜けて広場へと抜けた。だが私は動けなかった。全力の魔力を放った反動で身体が硬直していた。

 そこへミーシャが迫る!剣撃が来た。でも私は動けない。ミーシャが持つ剣の黒い刀身がやけにギラついて見えた。


▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️


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