第51話 予感

王城は厳戒態勢だった。正門で誰何されるがラブリーエンジェルスだと言うとすんなりと通してくれた。そのまま、親衛隊の本部へと急ぐ。


「ミットフィルさん!」


 本部に入るとミットフィルさんが王城の警備について指示をしているところだった。


「ああ、襲撃があると思った方が良い。王立軍の師団にも協力を要請しておけ。ああ、頼む。」


 私は通信を切ったミットフィルさんの前に進み出た。


「ナルミさん!ご無事で!」

「ミットフィルさん。ユーリが封じられてしまいました。」

「はい、これは何かあると思って良いでしょう…ユーリさんは何とおっしゃってますか?」


 ミットフィルさんは近くの隊員へ目で合図をした。その隊員は場を離れようとした。


「いえ、人払いは結構です。逆に皆さんに知ってほしい。ミーシャが来ます!」


 ミットフィルさんは難しい表情を浮かべた。


「報告書は読みました。ユーリさんとサーラ隊長と行動を共にしていた人物で、その…、心を読むことができると…」

「はい、その通りです。そして対人戦だとユーリでも勝てません。」


 ミットフィルさんの目が大きく見開かれた。


「本当ですか?」

「はい、勝機があるとするとユーリとサーラ隊長の同時攻撃…」

「ユーリさんが封じられたのはミーシャが何かを仕掛けてくるため…ユーリさんが邪魔だったのか…という事はサーラ隊長が不在なのも…」

「はい、ユーリは全部が仕組まれていると考えてます。」


 ミットフィルさんは深く息を吸うとミューさんを呼んだ。すぐにミューさんが駆けてきた。


「祭りの中止は国王陛下に進言できたか?」

「はい、宰相殿を通じて進言していますが…」

「ミットフィル殿、ちょうど良かった。その件だ。国王陛下から祭りの中止は無いと返答があった。」


 慌てて本部へ入ってきた憲兵隊のマリングス隊長から国王陛下の返答を聞いたミットフィルさんはまた難しい顔をした。


「ああ、マリングス殿。我々は困難な道を辿らねばなりませんね。」

「その通りです。王都は憲兵隊を総動員して警備に当たっている。非常事態だ。今の時間をもって王都の防衛は我々憲兵隊が引き継ぐ。

 百周年記念行事に参加する各国の要人を含めて重要人物の警護も近衛騎士団総動員で行っている。親衛隊には全力を持って陛下の安全を確保してほしい。」

「かしこまりました!親衛隊!聞いての通りだ!今より親衛隊は国王陛下の警護に注力する!各員、取り決め通り、配置を確認・実行せよ。」


 ミットフィルさんの号令で親衛隊が規律良く動き出す。


「魔法士はこのまま憲兵隊と連携。カガリさん、王都の防衛、陛下の警護。どちらの指揮もお願いしたいが如何か?」


 カガリさんは事もなげに答えた。


「はい、かしこまりました。ただし、アカネを私の副官として権限を与えてください。」


 カガリさんの言葉にミットフィルさんとマリングスさんは大きく頷いた。


「了解だ。アカネさんには親衛隊魔法士チームの副官と同等の権限を祭り期間中限り与える。」

「ありがとうございます。ふふふ、いつものユーリ様の無茶なお願いに比べたら、造作も有りません。」


 ふあああ、カガリさん…。どんだけユーリに無茶振りされてるんだろ…


「ナルミさん。しばらくの間、私の補佐をしていただけませんか?」


 ミットフィルさんの言葉に私はすぐに頷いた。


「はい、喜んで!」

「ではこれから国王陛下の警護にあたります。ついてきてください。」



 

 

「襲撃はありませんでしたね。」


 私達はユーリが封じられた混乱に乗じて襲撃があるものと予測していたが…


「はい、敵の狙いは単なる陛下の暗殺ではないのかもしれません。」


 私達は国王陛下の私室の隣の部屋で待機している。今、国王陛下のお側にはミューさんと親衛隊副隊長のミッダーさんが付いている。そして王城は親衛隊員で囲まれていた。

 この体制で敵が襲撃をかけるのって難しくない?ユーリとサーラさんが不在なのってどのくらい意味があるのかしら??


「ナルミさん。カガリさんからです。」


 私はすぐに通信機を操作した。


「ナルミです。カガリさん、何かありましたか?」

『魔獣の解析が終わりました。魔獣を操っている魔法には"死の商人"の魔法士が使う魔法に特有な揺らぎがあります。間違いなく"死の商人"が暗躍しています。』


 死の商人!ユーリの予想通りだ。ならばユーリとサーラさんが不在の時にミーシャが出てくる。二人がここにいない今、死の商人の狙いはミーシャを効率的に使う事。それしかない。


「ミットフィルさん、聞いての通りです。ミーシャが出てきます。」

「はい。」


 死の商人がミーシャに襲撃させるのに都合の良いタイミングはいつだ??考えろ、私!!


「死の商人の目的は紛争を起こして利益を得る事です。この厳戒態勢を取っている王城を衝撃して陛下を暗殺できたら、それこそ死の商人の売る"商品"のアピールにならないでしょうか?

 死の商人は子供達を小さい頃から訓練して紛争地域に売っていると聞きます。」


 ミットフィルさんは私の言葉に頷きながらジッと壁越しに隣の陛下の私室を睨みつけていた。


「今日の夕方に各国の要人を迎えてレセプションがあります。そこで陛下は王国の今後を見据えた演説をする事になっています。

 もし、ナルミさんの言うように"商品"をアピールするなら、このレセプションが効果的なように思います。」


 確かに各国の要人が見ている中でこの警備体制を崩して国王陛下を弑虐できたら…。とんでもなくその"商品"の優秀さをアピールできるではないか…。


「ミットフィルさん、場所はどこですか?」

「王城の広場です。陛下は広場の前のバルコニーから演説を行います。」


 私は王城の広場を思い浮かべた。正門から正面に位置する広場。その途中には堀があり、幅が10mほどの橋がかかっている。何かあった時は橋で防衛ラインを構築する造りになっている。


「ミットフィルさん!私は正門に通じる橋で待機します。何かありましたら通信機で指示ください!」

「はい、それが良さそうですね。親衛隊から10名を橋の警備につかせます。」

「今、橋の警備にあたっている部隊はどこですか?連携します。」


 ミットフィルさんは言いにくそうに答えた。


「特殊作戦室です。」


▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️


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