第50話 囚われたユーリ

 ユーリと私は孤児院へ来ていた。今日は新しい教室の落成式だ。準備のために先生と子供達が忙しそうに働いていた。


「ユーリ、まずいですね。教室から魔獣の気配がします。」

「カガリ、マムは孤児院のどの位置で魔獣を確認している?」


 程なく通信機からカガリさんが返答してきた。


『北東の建物。教室の屋根裏です。』

「ナルミ、建物外から天井を吹き飛ばして。私が飛び込んで魔獣を確保するよ。」


 ユーリはそう言って刀に手を伸ばした。

 時間は7時50分。私は背中のバッグからクロスライフルを取り出すと魔力を込めた。


「ユーリ、光弾を撃ちます。破片が子供達に当たらないように防壁をはりながら飛び込んでください。」

「ナルミは難しいことを言うね…」

「ユーリならできるでしょ?」

「まあね。」


 教室では先生と子供達が落成式のために教室を飾りつけていた。敵がどういう監視手段を取っているかわからない中で子供達を避難させる事はできない。子供達が怪我をしないようにユーリ!頼みましたよ。

 7時58分。本部からの通信で全員に準備の確認を取っている。


「L班、準備良し!」


 Lはラブリーエンジェルスの頭文字。私達の符牒。


『C班、準備完了にゃ!』


 あれ?通信機から聞こえてきたのはマムの声。あいつ、会議室にいたか?相変わらず猫人族の気配はわからないなあ…。そんな事を考えていた。

 7時59分。ユーリが魔獣確保用の檻を手に取った。本部の通信がカウントダウンを始める。

 8、7…

 私はクロスライフルを構える。ユーリは刀を抜き、魔力を込めた。

 5、4、3…

 私はクロスライフルのトリガーに指をかける。

 2、1、0

 クロスライフルから光弾が放たれる。その光弾は教室の窓をぶち破り、天井を破壊した。

 同時にユーリが飛び込んで天井から落ちてきた魔獣を檻に叩き込む。そして、魔法障壁!天井の破片から子供達を守っていた。さすがだな!と思った時だった。

 魔獣が大量の魔力を集め出した。蜘蛛の形をした魔獣が膨れ上がり、檻を破壊した。そして…、


「机が!」


 教室に配置されていた机から印が浮かび上がり、魔力が暴走する。


「あ、ユーリ!」


 私は教室の窓から吹き飛ばされていた。あの印は教室を封印するための封呪だ!!


「ユーリ!」


 私はすぐに飛び起きるとユーリを助けようと教室へ飛び込もうとしたが、


「ダメだ!入れない…」


 教室に施された封印はとても強力だった。


「でも、この程度なら!」


 私はクロスライフルを構えた。


「ナルミ!待って!」


 教室の中ではユーリが魔法をレジストしながら先生と子供達を守っていた。


「ナルミ、ダメだ。魔獣が爆発する!」


 魔獣は魔力を蓄えてパンパンに膨れ上がっていた。


「ちくしょう!!ユーリ、大丈夫ですか?」


 私の問いかけにユーリが答える。


「私は大丈夫、あの程度の魔獣の爆発ならレジストできる!でも子供達までは守れない。やられた!足止めされたよ。」


 ふと気づくと通信機からカガリさんの絶叫が聞こえていた。


『ユーリ様!ユーリ様!返事をして!!』

「カガリ、私は大丈夫。何が起きた?」


 ほー、っとカガリさんが嘆息した。


『はい、確保に動いていた魔獣からユーリ様がいる孤児院の魔獣へ魔力が転送されました。莫大な魔力です。』

「はー、やられた。カガリ、私は孤児院の教室に子供達と一緒に封じられている。無理に脱出すると魔獣が爆発する。私一人なら何とかなるが子供達を守れない。何か良い方法はないかな?」

『良かった…。はい、その魔獣は魔力の供給が絶たれていますのでそのうちに無害になります。』

「どのくらいの時間がかかる?」

『はい、一日ほどかと。』


 ユーリは怖い顔をしていた。一日。ユーリは一日動きが封じられる事になる。


「ユーリ!狙いは王城でしょうか?」

「そうだと思う。最悪を考えるならば陛下の暗殺…」


 でもユーリを封じても他にも強い騎士はいる。そんな事があるのか?


「ミーシャが出てくる!ミットフィル!すぐに王城の警備を固めて!最大級にだ!」


 ユーリが通信機に怒鳴る。


「ナルミ、これは仕組まれた罠だ。この時期にサーラが王都を離れたのも、孤児院に寄付があったのも、昨日私達が魔獣を見つけたのも!全て私とサーラを封じてミーシャに何かをさせるためだ!」


 私はユーリとミーシャの戦闘を思い返していた。あれは!ミーシャは!きっとユーリとサーラさんが二人で相手をしないと勝てない。


「ユーリ、私はミットフィルさんと合流します。ユーリ、無茶はしないで!」


 私はクロスライフルを背中のバッグに仕舞うと走り出した。


「ナルミ、あなたこそ。無茶はしないで!」


 後ろからユーリの声が聞こえた。私はユーリの声を背中にホバーボードを背中のバッグから取り出して飛び乗ると王城を目指して疾走した。


▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️


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