第49話 罠
「本当にありがとうございます。ここで先手を打てるのは非常に大きい。」
「いや、ミットフィル。お礼にはまだ早いよ。」
「はい、その通りです。ミュー。王立軍の他の部隊と連動してチーム編成を。明日の朝8時に各箇所の魔獣の確保を同時に行う。あと、魔法局にこの魔獣を確保するために魔法封じの檻を取りに行かせろ。魔法局への連絡は私が行う。」
ミットフィルさんの指示で親衛隊が規律良く動く。
「ミットフィル。お願いがある。孤児院は私達に任せてほしい。」
ミットフィルさんはユーリをジッと見つめていたが諦めたのか、口を開いた。
「ユーリさんとナルミさんには万が一に備えて本部に待機してもらおうと思いましたが…。わかりました。孤児院はお任せします。」
ユーリは微妙な表情をしていたが黙ってミットフィルさんに頭を下げた。
「ミットフィル様。親衛隊の魔法士を紹介ください。改めて王都の魔力を探ろうと思いますので。」
カガリさんとアカネは親衛隊本部を見渡していた。
「はい、親衛隊の魔法士にはカガリさんの指揮下に入るように指示を出しておきます。サルテ!!」
ミットフィルさんに名を呼ばれた背が高くヒョロっとした男性が近づいてきた。
「カガリさん、親衛隊魔法士の責任者、サルテです。サルテ、これから祭り期間が終わるまで親衛隊魔法士はカガリさんの指揮下に入る。全員へ通達するように。」
サルテさんは頷いた。
「はい、ではカガリさん。メンバーを紹介しますのでこちらへ。」
カガリさんとアカネはサルテさんに従って親衛隊本部の魔法士達が忙しく働いている一角へと行った。
「さて、ユーリ。明日の朝まで時間があります。後はミットフィルさんとカガリさんに任せて休ませてもらいましょう。徹夜で作戦行動するのは得策とは言えませんからね。」
私はミットフィルさんへ仮眠室を貸してもらえるようにお願いした。とりあえず、私はユーリを休ませて落ち着かせたかった。ユーリの過去の話は知っている。ユーリが子供達に特別な感情を抱く事も知っている。だがユーリには無茶をして欲しくなかった。
「ナルミが私に言いたいことはわかっているよ。そうだね。休ませてもらおう。明日は忙しくなるからね。」
私はユーリが素直に従ってくれた事にホッとした。
「では仮眠室へ案内します。誰か、お二人を仮眠室へお連れして。明日は5時に起こしますね。」
私はミットフィルさんの心遣いに感謝した。
◇
「ユーリ、私…嫌な予感がするんです。」
仮眠室のベッドにユーリと一緒に横になりながら、私は不安を口にしていた。
「うん、何だろう…。ひとつひとつの出来事が仕組まれているような気がするね。」
「はい、周到に準備された罠のような…。でも予感です。確証はありません。」
ユーリはしばらく黙っていた。
「わからない…。でも私達が動かないと犠牲になる人達がいる。それは看破できない…」
「そうですね。明日は早いです。寝ましょう。体力を回復しなくちゃ。」
「うん、ナルミ。おやすみ。明日もよろしくね。」
◇
次の日、朝5時に見習い騎士に起こされた。
私達は手早く装備を整えて会議室へと赴いた。
会議室にはミットフィルさんをはじめ、親衛隊メンバー、王立軍の各部隊、カガリさんを中心に魔法士の集団が集まっていた。私達が会議室へ入ったのを確認してミットフィルさんがその場の全員へ声をかけた。
「それでは作戦についての確認をします。ここには15班を編成しています。各班には王都に潜んでいる魔獣を同時に確保してもらいたい。
この魔獣は微弱な信号を発してお互いに連動しています。密やかに素早く。連動する間を与えずに確保します。
各班に一つずつ魔法障壁を付与された檻を配りますので魔獣を確保次第、この檻へ閉じ込めてもらいたい。」
そこまで話すとミットフィルさんは全体を見渡した。
「疑問点はありますか?」
「魔石を破壊すれば良いだろ。なぜこんなに回りくどい方法を取る?」
質問したのはカンネだった。
「はい、魔獣の魔石は巧妙に隠匿されています。位置を探って魔石を破壊するのは不可能と判断しました。」
「それはお前の判断だろ!俺は魔石を探れるかもしれない。魔獣を見てみなければわからんだろ!!」
「先程も言いましたが魔獣は連動しています。しかもまだ解析がすんでいない未知の魔獣です。魔石の破壊に失敗したら何が起こるか?わからない。それが魔獣を捕獲する理由です。」
カンネ、お前はラーシャに取り憑いていた魔獣の魔石を破壊しようとしないでラーシャを殺そうとしたじゃないか!
そんなお前が魔石の位置を探れるとは思わない!その発言はミットフィルさんに対する嫌がらせだろ!
「この作戦の指揮官は私です。作戦に不満があるようであれば、チームを編成し直しますので申し出てください。」
ミットフィルさんは有無を言わさぬ態度でカンネの嫌がらせを一蹴した。カンネは舌打ちをすると腕を組んで黙った。
「皆さんへの指示、サポートはミシマ分室のカガリさんを中心とした魔法士チームにお願いします。各班には通信機を配りますので活用ください。」
ミューさんがテキパキと説明して通信機を各班に配る。私達は波長を調整しているので自前の通信機を使う。
「各魔獣は情報部の"陰"が目視確認済みです。見た目に罠がないであろうことは報告を受けていますが、油断無きように。」
マム!いないと思ったら猫人族の陰と一緒に行動しているんだな…
「それでは皆さん、よろしくお願いします!」
ミットフィルさんの言葉で各人が会議室を後にする。私達も会議室を出ようとした時、ミットフィルさんに呼び止められた。
「ナルミさん、お気をつけて!」
「はい、行ってきます。」
これだけの会話。でも私は元気がでた。嫌な予感も無くなった。ミットフィルさん、がんばってくるよ!!
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