第48話 魔獣の鼓動

祭りの1日前。もうすぐ夜になる時間。カガリとアカネは大規模な空間認識魔法を行使していた。王都で変に働いている魔力を探っているらしい。

 異常な魔力の流れはマムがすぐに確認へ走る。すでに今日だけで3組の犯罪グループを潰して親衛隊へと引き渡している。


「いやー、これは楽で良いわあ。」


 思わずでたユーリの本音に反応したのはアカネだった。


「ユーリちゃん、暇なら王都の見回りをしてきてよ。」

「ユーリ様、アカネの言う通りです。お二人はトラブルホイホイですので、空間認識魔法に引っかからない案件を探せるのではないですか?」


 む、む。カガリさん、なんて事言うの…。まあ、否定はしないが…


「まあ、そうだね。ナルミ。祭りの様子も気になるし、王都の観光がてら散歩しようか。」

「ユーリちゃん、散歩じゃなくて警備だよ。お仕事ですからね!」

「はーーい。」


 ユーリは気のない返事をしていたが、装備をテキパキと身につけだした。私もいつもの装備を身につけてユーリに従う。


「それじゃあ、行ってきますね。」


 カガリさんとアカネに見送らせてユーリと一緒に王都を巡る。王都は祭りの前の何とも言えない活気に溢れていた。至るところで祭り用に飾り付けがなされて、いつも煌びやかな王都は増してキラキラしていた。


「ユーリ。この祭りの前の雰囲気って楽しいですね。」


 ユーリと私は完全にお散歩の様相だった。屋台の準備を覗いたり、大道芸の練習を見学したり…。

 その時、ユーリと私は奇妙な気配を撒き散らしながら街を進む男に気がついた。何だ?あの嫌な感じは!


「ユーリ?」

「ナルミも気がついた?あの気配…、魔獣ににているね。」


 男は派手な赤いマントを羽織り、とても目立っていた。その所作は隙があり、強そうな感じはしなかった。が、とても嫌な感触があった。


「気配としては魔人化じゃない。魔獣そのものの気配だ。ナルミ、人気のないところで制圧するよ。あ

 いつ、弱者を装っているけど、強い。念のため、カガリ達にサポートをお願いしよう。ミットフィルにも報告をしておくよ。」


 ユーリはそう言うと通信機を操作した。


「そう。王城から街道を通って王都から北へ向かっている。うん、カガリが捕そくしている。マッパーで追跡可能だ。わかった。なるべく殺さないで捕まえるよ。でも自信がない。手加減できないと思う。」


 ユーリは短くミットフィルと話をしていた。

 男はどんどんと王都を離れる。私達は男とかなりの距離をとっている。だが男の足取りはマッパーで追っている。


「もう少ししたら人気のない場所に出ます。仕掛けますか?」

「うん、そうしよう。ミットフィル!聞いての通りだ。やるよ!カガリ、念のため伏兵を探索して!」


 ユーリと私はマッパーを確認する。


「伏兵の心配はいらないようですね。」

「よし、行くよ。」


 ユーリと私は抜刀して男に駆け寄った。ユーリが男の右手を狙って刀を振るった。だがユーリの振るった刀の先に男の姿は無かった。でもこれは想定内!私はクロスガンを抜くと魔獣の気配のする方向へ光弾を乱射した。

 ユーリの見立て通り!男は闇の魔法を使う。影に潜み、幻影で姿を惑わす。しかし、魔獣のような気配は消せてない。


「ぐあー」


 奇妙な声を出して肩口から血を滴らせて、男は姿を現した。


「なぜ、俺の位置がわかる?」


 ユーリはその問いには答えずに一気に男との距離を詰めると男の腹を狙って刀を水平に一閃した。男はまた空気に溶け込むように姿をくらませながらユーリの一撃をかわす。

 だが肩口を射抜かれている男に敏捷さはない。しかもユーリは見えている。ユーリはニ閃目を回転しながら水平に振るう。この攻撃は完全に男を捉えた。腹を強打され、男は動かなくなった。




 

 ほどなくして親衛隊からミューさん以下五人の隊員がやってきた。


「お疲れ様です。こいつですか?」

「そうです。そしてこれです。」


 私は首筋を掴んで身動きを封じていた30cmくらいの虫型の魔獣を示した。蜘蛛みたいな見た目で気持ち悪いが我慢我慢。


「ありがとうございます!ナルミさん、その魔獣はこちらに。」


 ミューさんは小さな檻のような入れ物を指し示した。うえー、早く入れちゃおう。檻に入れた魔獣をミューさんはしげしげと見つめる。

 その間に男は他の隊員にがんじがらめに縛りあげられていた。


「ナルミ…、ミューって変な物が好きなのかな?マムが使っていた人形とかさ。」

「いえ、古代の魔法に興味があるのです。」


 ユーリの言葉が聞こえたのか、ミューさんが答えた。


「これも古い魔法です。人為的に作り出した魔物。魔力を体内に蓄えて爆発させることができます。」


 うん、これはラーシャを助けた時に遭遇したなあ。でもこいつには核となる魔石が無いように思えるが…


「魔石が無いですね…」

「いいえ、魔獣として存在するならば必ず魔石はあります。巧妙に隠匿されてますね。強力な防壁のような物ですからこの魔獣が爆発しても大した威力にはならないでしょう。魔法をレジストできる者なら簡単に防御できると思います。でも…」


 ここでミューさんは言葉を選んだ。


「魔法に耐性の無い者に対しては非常に有効かと。これを同時多発的に爆破したら王都は大混乱に落いるでしょうね。」


 ユーリは魔獣を睨みつけていたが、すぐにカガリさんに連絡を取り出した。


「カガリ、聞いての通りだ!この魔獣の発する気と同等な魔獣が王都にいるかどうか?探れるかな?」

『はい、可能です!少々お待ちください。』


 しばらくしてからカガリさんから通信が入った。


『お待たせしました。魔獣の位置をマッパーに示しました。ご確認ください。』


 マッパーに王都の地図が示され、多くの光点が灯った。


「いち、に、さん…、15箇所か…」

「ユーリ、これ!」

「あ!」


 それは孤児院の場所を示していた。


「こ、こんなところにも!!」


 ユーリの握られた拳が怒りでブルブルと震えた。


「ユーリさん、ナルミさん。この魔獣は連動しています。同時に確保した方が良いでしょう。

 何かが起こる可能性があります。ミットフィル副隊長に手配をお願いして同時に確保しましょう。」

『ユーリ様、ナルミ様。幸い魔獣は爆発に必要な魔力を貯め込んでいません。しかし、ミュー様の言う通り、微弱な魔力を共有して連動しているようです。

 爆発は私の見積もりだと明日の昼から夕方にかけて貯め込んでいる魔力は爆破点に達すると思われます。』

「わかった。すぐにミットフィルと合流しよう。カガリ、悪いけどアカネと一緒に親衛隊本部まで来てくれないかな?」

『かしこまりました。それでは後ほど。』


 私達はまだ動かない男に水をぶっかけて無理やり起こすと嫌な予感を抱えながら親衛隊本部へと急いだ。


▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️


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