第47話 孤児院
その後がまた大変だった。ユーリがしょんぼりしているのだ。
「ナルミはミットフィルと付き合いたいの…?」
ボソッとこんな事を聞いてくる。
「うーん、私も実は自分の気持ちがよくわかんないのです。確かにミットフィルさんはカッコいいし、優しいし、とても素敵だな、って思います。
お付き合いをするとなっても別に嫌じゃないですし…」
「そうか…でも、ナルミが取られちゃうみたいで嫌なんだよね…でもでもナルミの幸せを邪魔してるみたいでさ…」
「いえ、そんな事はありません。特殊作戦室を追い出されて不安だった私に希望をくれたのはユーリです。
私はここの仕事、いいえ。ユーリと仕事をする事が楽しいし、幸せなんです。へへへ、ユーリが嫉妬してくれてうれしいですよ。」
ユーリはそれを聞いて照れ隠しなのだろう、舌を出して私に言った。
「嫉妬じゃないし!でも私もナルミと仕事ができてうれしいよ…」
へへへ、何だかうれしいなー。
「わかりました、ユーリ。ユーリがちゃんと認めてくれるまでミットフィルさんとは付き合いません。でもいつかは認めてくださいね…」
「うん、わかったよ。」
ユーリはいつものようにニカッと笑った。
「にゃにゃ!ナルミはミットフィルと番にならないのかにゃ!子孫繁栄は一族の大事な務めにゃ!」
び、びっくりした!マム、どこにいたんだ…
「ああ、猫獣人にとって子孫を作ることはとても大事なことですからね…。でも私はしばらくは誰とも番になりませんよ。」
マムはブツブツと何か言っていたが、結局は納得したようだった。
はあ、私に彼氏ができるのは当分先だな…
◇
祭りの2日前。私達は院長先生にご招待されて孤児院へ来ていた。ある商人が孤児院へ新しい勉強用の机を寄付してくれたそうだ。今、使っている机はとても古い物らしいからとてもありがたい話だそうだ。しかも勉強に使っていた教室も内装を新しく快適にしてくれたらしい。
魔石をはめ込んだ部屋は夏は涼しく、冬は暖かく快適な温度で勉強できるらしい。子供達のために何て貴徳な人だろう。でもその商人は匿名であることを条件に寄付をしたのだそうだ。本当に世の中には素晴らしい人がいるものだ!
祭りの当日は新しい教室の落成式だそうだ。今日は落成式に先立ってささやかながら夕食をご馳走してくれるらしい。
ユーリとアカネは珍しく二人ではしゃいでいた。
「孤児院の皆んなにはちゃんと勉強して世の中で活躍して欲しいからね!」
「うん、ユーリちゃん!私も皆んなには幸せになって欲しい。本当に良かったよ。」
孤児院へ向かう途中、ユーリとアカネはとても楽しそうだった。
「孤児院の皆んなもお祭りの時にお店を出すんだって。」
「え?そうなの?何を売るの?」
「これから寒くなるでしょ、皆んなでマフラーを編んだんだって。院長先生がとても出来が良いと自慢してたよ。」
確かに私も見せてもらったが、色とりどりに編まれたマフラーはとても上手にできており、暖かそうだった。
「ああ、あのマフラーを売るんだ。私も買おうかな。」
ボソッと呟いた私の一人言にユーリが反応した。
「うん、良いねー。3人で買おうよ。あ、カガリにもプレゼントしようかな。」
孤児院に着くといつものように子供達が出迎えてくれる。
「ユーリ姉ちゃん、ナルミ姉ちゃん!いらっしゃい!」
「アカネちゃん、久しぶり!見て見て!皆んなでお祭りの屋台に貼る絵を描いてたの!」
「よ!相変わらずユーリのお尻はでかいなあ。」
ゲンジがユーリのお尻を撫でながら言った。
「ゲンジは相変わらずだなあ。」
ユーリはゲンジを捕まえると頭をグリグリする。
「痛い!痛い!ユーリはとってもスタイルが良い!た、助けて!」
楽しそうな二人を横目に私は皆に院長先生のところへ案内するようにお願いした。
「ナルミ姉ちゃん!こっちだよー。」
「ほら、ユーリ。行きますよ。」
子供達に案内されて、改装された教室へ行くと院長先生と、先生方が黒板を前に雑談をしていた。
「あ、ユーリさん、ナルミさん!アカネも!」
私達に気がついた院長先生達が手招きしていた。
「どうですか?とても明るくて良い環境でしょ?」
先生達は口々に喜びを伝えてきた。今まで古い教室で頑張ってきたのだ。
「院長先生、良かったですね!落成式が楽しみですね!私達は警備のお仕事で出席できないけど、無事に式ができる事を願っているよ。」
「ありがとう、ユーリさん。このお祭り期間は本当に楽しみなの。新しい教室の落成式に子供達が自主的に計画したマフラーの販売!本当にうれしい…」
院長先生、先生達。本当にがんばっているからなあ。
「本当に素敵な教室ですね。ここで勉強できるのが待ち遠しいですね!」
先生達は私の言葉に少し涙ぐみながら大きく頷いていた。
「ユーリちゃん、ナルミちゃん。」
その時、遠慮がちにアカネが私達に声をかけてきた。
「どうしたの、アカネ。」
「うん、何だかこの教室って変な力が働いてないかな?」
私は周囲の魔力を探ってみる。うーむ、変な感じはしないが…。ユーリを振り返ってみるが、ユーリも同じく首を振っていた。何も感じないらしい。
「そうか…、ユーリちゃん達が感じないなら私の気のせいかな…」
「でもアカネが感じているなら何かあるのかもしれないね。注意しておくよ。」
アカネはしばらく首を傾げていた。
「私の気のせいかもしれないな…。二人とも変なことを言ってごめんなさい。」
「いえ、何事も注意してしすぎることはないからね。ましてや明後日から祭りが始まるからね。」
ユーリも私もアカネの表情に少し気になるところがあったが…。
「さあさあ、皆さん。今日はささやかですが、料理を用意してます。孤児院の子供達が用意したんですよ。是非、三人には味わってほしいそうです!食堂へいきましょう。もう準備ができているはずですので!」
私達は院長先生に促されて食堂へと赴いた。
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