第43話 ミーシャ
「待て!」
私はニュークロップへ向けてクロスガンを打ったが当たらなかった。
「ユーリ!」
ユーリはよろよろと仮面の男の前に進み出ていた。
「ユーリ!危ない!」
私は急いでユーリの腕をつかむと思いっきり後ろへと引いた。一瞬の差でユーリのいた空間を鋭い剣撃が走る。
「ユーリ!しっかりして!」
「ミーシャ!ミーシャ!私だよ!ユーリだよ。」
「ユーリ!」
私はユーリを後ろに下げると魔刀を抜き、仮面の男の前に立ちはだかった。う、すごい圧を感じる。私の額にはドッと汗が吹き出た。
「でやー」
私は気合いを入れると魔刀に魔力を乗せて仮面の男に切り掛かった。だが、私の必殺の一撃はこともなく、仮面の男にいなされた。
「まだだ!」
私は魔刀を手放すと腰に挿していたクロスガンを抜き放ち、仮面の男へと放った。完璧なタイミング!私は勝利を確信した。
「そ、そんな。」
仮面の男は私が放った光弾を剣で弾き飛ばしたのだ。まるで攻撃が来ることがわかっていたかのような所作。仮面の男は光弾を弾くとそのまま流れるような動きで私へ剣を振り下ろした。やられる!
「ユーリ!」
私へ振り下ろされた剣はユーリが刀で防いでいた。
「ミーシャなの?」
仮面の男はその問いには答えない。凄まじい乱打をユーリへと繰り出した。ユーリはその攻撃をかわしきれない。ユーリの腕が頬が脇腹が切られる。
「ユーリ!避けて!」
私の言葉にユーリが反応した。ユーリは右側へと大きく身体を傾けた。仮面の男はそのユーリの動きを予期していた。ユーリが傾けた身体に向けて剣を水平に振るった。
「えい!」
仮面の男の動きを私は見逃さない。一瞬の隙をつき、クロスガンを仮面の男へと乱射した。仮面の男の剣筋が乱れる。だが、私の攻撃は、
「だ、だめか…」
クロスガンの光弾は一発が仮面をかすめたが、他はことごとくかわされていた。弾がかすった仮面から男の右目が見えた。その目の暗さに私はゾッとした。
「なんて生気のない目なんだろう…」
ユーリは仮面の男の目を見て、わなわなと震えていた。
「ユーリ!」
私の絶叫にユーリはかすかに頷いた。
「あいつは心を読めるかもしれないが同時に二人以上の心は読めないようです。不本意ですがこのまま足止めしてサーラさん達を待ちましょう。サーラさんの気配がこちらに向かってます!」
ユーリは再びかすかに頷くと魔力を刀に込め始めた。あれはダメだ!全然、サーラさんを待つ気が無い!!
「意図を読んでも避けられないくらいに特大な魔力をぶつけてやる!」
「ちょっと!ユーリ!」
ユーリは刀を一旦鞘に納め、それから居合の型を取ると仮面の男に向けて抜き放った。ユーリの刀から光の刃が放たれて仮面の男に迫る。仮面の男は慌てずに剣を前方に構えると魔力のこもった一撃を光刃に向かって振り抜いた。魔力と魔力がぶつかり合う。
「ぐっわー。」
魔力のぶつかり合いが治った時、ユーリと仮面の男はお互い傷だらけになり対峙していた。そこへサーラさんが大鎌を構えて飛び込んできた。
仮面の男はそれを見ると躊躇せずにニュークロップが破壊した窓へと身をひるがえしていた。その動きは隙がなく、私もサーラさんも反応する事ができなかった。
「ナルミさん、無事ですか!」
遅れて部屋に飛び込んできたミットフィルさんの問いに私は頷いた。ミットフィルさんの後ろには気配は感じないがマムもいた。
「良かった…皆んな無事…」
そう思った時、ユーリが床へ倒れこんだ。
「ユーリ!」
私は急いでユーリの元へと駆け寄った。良かった、息はある。でもユーリの身体は傷だらけだった。サーラさんがユーリを抱き上げた。
「外にいる魔法士にヒーリングしてもらいます。」
「マム、魔道具はあそこの棚にあります。ミットフィルさん、マムのことお願いします。」
私もユーリを抱えて駆け出したサーラさんの後を追った。
◇
「ああ、ナルミ。サーラも…」
親衛隊の魔法士にヒーリングを受けたユーリは程なくして目を開けた。
「大丈夫ですか?」
「うん。」
ユーリが短く答えた。
「サーラ。あの仮面の男はミーシャだよ。」
「そ、そんな…。だってミーシャは…。ユーリの見間違えじゃないの…?」
サーラさんは不安気にユーリへと問いかけた。
「いや、あの目はミーシャだ。それにニュークロップがいた。あいつは仮面の男のことをミーシャと呼んだよ…」
サーラさんは何も言わなかった。ただ、大鎌を握った右手がわなわなと震えていた。
「ユーリ、私達は撤収する。後のことはヨームに連絡する。」
サーラさんはそれだけを言うと踵を返した。私はその後ろ姿に黙礼した。
「ユーリ…。ユーリの気持ちはわかりません。ユーリとサーラさんがどんな過去があったのか?わからないからです。でも、今は…ユーリ、今は私の相棒です。自己犠牲的な行動はやめてください。お願いします。」
私はそっとユーリの手を取った。
「ミーシャなんだ…あの仮面の男はミーシャだった。」
ユーリはボソッとそう呟くと頭を振った。
「ナルミ、ごめん。ちょっと驚いたけど、もう大丈夫。そう、大丈夫だ。」
ユーリはおもむろに立ち上がった。
「いつまでも過去に囚われていられない。とにかく、『死の商人』は私が潰す。」
そのユーリの決意は私に痛いほど伝わってきた。
「ユーリ、『私達が潰す』ですよ。ユーリの想いは私の想いです。」
私はユーリの背中に静かに手を添えた。
「うん、ありがとう。ナルミ。」
ユーリの背中はかすかに震えていた。
◇
程なくしてマムとミットフィルさんがこちらにやって来た。
「サーラ隊長から帰還命令が出てますので、私はこれで失礼します。」
「ああ、わかった。後片付けはヨームにお願いしてあるとサーラに伝えておいて。」
「はい、かしこまりました。魔道具は回収してマムへ渡してあります。では、失礼します。」
ミットフィルさんは私達に敬礼すると親衛隊の方へ戻って行った。
「ありがとうなのにゃ。これで私達の一族は救われる…」
「うん、良かった。でも200年暮らした家を出なきゃならなくなったね…」
「それは構わないにゃ。大部分は情報部に雇ってもらえることになったし、私以外はグレイ様にも引き続き雇ってもらえることになったにゃ。だから私は何も心配してない…」
ユーリと私は顔を見合わせた。
「え?マム。私以外はって…。マムはどうするの?」
私の問いにマムは神妙な面持ちでこちらを見つめた。
「ぜひ、"アグリーデーモンズ"に加えていただきたいにゃ!」
ユーリが惚けた顔をした。
「ち、ちょっとマム…」
「お願いしますにゃ。お二人の強さに惚れたにゃ!何卒よろしくお願いします!」
ユーリと目があった。私はそっと頷く。
「うん、マム。あなたの気持ちはわかった。だけどね、ひとつだけ看破できないことがあるの。」
「そ、それはなんですか?すぐに改めるにゃ!」
ユーリは大きく息を吸うと吐き出すように言った。
「私達は『ラブリーエンジェルス』だ!!」
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