祭りの後先
第44話 出世と依頼
「ユーリとサーラか…。これからの計画を進めるには邪魔な存在だ…」
ニュークロップは側に控える黒いマントを羽織った魔法士に声をかけた。豪華な内装が施された薄暗い部屋だった。
壁には古い大きな世界地図が貼られており、この豪華な内装には不釣り合いな雰囲気であった。
「はい、あの二人は戦闘に長けているだけではありません。この国の中央ともつながり、国の組織を動かすことができるところが厄介です…。」
ニュークロップは深く頷いた。手元のワイングラスを見つめると吐き出すように言った。
「祭りの夜が迫っている。アルバルトン公爵家から手を回すことも、影を使うこともできなくなった。忌々しい…」
「ニュークロップ様。数日だけでも罠を仕掛けてあの二人を足止めしようと存じます。」
ニュークロップは暗い笑みを浮かべた。
「もし、足留めできるならそれに越したことはない。ユーリとサーラはお前に任せる。」
「御意。」
黒いマントの男は一言を告げると部屋から音もなく退出した。
「さて、本命の謀を進めるとしよう。ラムダ!」
ニュークロップが声をかける部屋の暗がりから小柄な男が音もなく現れた。
「ラムダ。祭りが近い…」
ニュークロップのつぶやきにラムダは表情を変えることなく、静かに頷いた。
◇
「おはようございますにゃーー」
ユーリと一緒に朝ごはんを食べるために食堂へ降りるとパンにかじりついているマムがいた。
「マム…、普通に馴染んでるなあ…」
アカネがマムにパンのおかわりを差し出しながらマムの事をジトっとした目で見ていた。
「マムさん…。こんなに小さいのにすごく食べるんです。それに気配を感じないから突然現れてびっくりします…」
「それはごめんにゃ。でも気配は消してないのに変だにゃ?」
猫人族は敏捷性と隠密性に優れた種族だ。マムは自分で意識しないで気配を絶っているのかもしれないなあ。
そういえば武闘大会の時にサーラさん達が一回戦で猫人族と戦っていた。ミットフィルさんが気配を読めず、敏捷な猫人族を狙撃するのに苦労してたな…
「そういえば、マム。武闘大会で猫人族の戦士に会いましたよ。とても良い動きをしてました。」
「ミャアとミマムだにゃ。王立軍の憲兵隊にいるにゃ。私達とは種族が違うけど知り合いにゃ。強かったでしょ?優勝したかにゃ?」
「ああ、あいつらサーラに瞬殺されてたな…」
「にゃにゃ!ユーリさんもそうだけどサーラさんもすごいにゃ!あいつらを瞬殺って…」
マムは口を開けて絶句していた。
「まあ、仕方ないですよ。二人とも『化け物美女』ですから…」
私とマムは見つめあって頷き合った。
「確かにその通りにゃ…」
そんな私達をユーリはジトっとした目で睨んでいた。
「ふん!マムの歓迎に『ミハルの店』で美味しいものをご馳走してあげようと思っていたけど、やめた!!ナルミにもご馳走してあげない!!」
プンプンと怒っているユーリに私とマムがすがりつく。
「あーん、ユーリ。冗談ですーー。」
「そ、そうにゃ。ユーリさんの強さを讃えてただけにゃー」
イチャイチャしだした私達にカガリさんが冷たい声で言い放った。
「片付かないから、早く食べてください。それに副室長がお話があると先ほどから待ってますよ。ふん!楽しそうにしちゃってさ!!」
カガリさん…、後半に本音がダダ漏れです…
◇
ユーリと二人でご飯を食べた後、ヨームさんの机がある部屋へ行った。ヨームさんは一生懸命に鼻毛を抜いているところだった。
「ヨーム、忙しそうだからまた後にしようか?」
「いやいや、待ってください。とっても重要なお話なんです。」
ヨームさんは慌ててユーリを引き留めにかかった。
「まあ、聞くだけ聞いてあげるよ。で?何?」
「はい、二つありまして…」
ヨームさんはそう言うと紙を取り出して私へ渡した。
「ヨームさん、これは?」
「はい。特殊作戦室への配属通知です。アダルマン室長のお名前での通達です。ナルミさんはα班班長、上級騎士へ任じられるそうです。」
私は複雑な思いを持ってユーリの事を見た。ユーリは…
「ヨーム、ダメだ。」
「はい、わかってます。ただ、こちらに関しましてはミシマ室長よりナルミさんの意志を確認するように言われております。」
ヨームさんは真剣な表情で問いかけて来た。そんなの、私の答えは決まっている。
「謹んで辞退させていただきます!」
私は力強く、堂々と答えた。隣でユーリがいつものようにニカッと笑った。ヨームさんも深く頷いた。
「かしこまりました。それではこちらをお受け取りください。」
ヨームさんはそう言うと新しい紙を取り出し、私へと渡した。
「これは?」
「はい、ナルミさんへの辞令です。ナルミさんを情報部ミシマ分室付け上級騎士に任じるという内容です。」
私はどうして良いかわからず、ユーリの方を見て助けを求めた。
「ナルミ!やったね!上級騎士になればアダルマンも手出しできないからね!ナルミが嫌になるまで私の相棒でいてよ!」
「はい、でも良いのでしょうか?私は上級騎士に相応しいのですか?」
「何言ってるの!アカネやラーシャを助けたのはナルミ、猫人族の件だってナルミがいなかったらどうなっていたか…」
「そう言っていただけると嬉しいのですが…」
「ナルミは魔力コントロールだって剣技だって上級騎士として見劣りしないよ。だってナルミ、カンネに勝てるでしょ?」
私はちょっとだけ考える。確かに。
「はい、負けないと思います。」
「そう言うことだよ!」
「ありがとうございます。ヨームさん。その辞令、謹んでお受けします。」
ヨームさんは笑顔を見せると私に辞令を手渡した。
「ナルミさんが上級騎士になりましたので、これからお二人は情報部特別チームとして任務に当たって頂きます。コードネームはラブリーエンジェルスです。」
特別チーム。国を守るために自由な行動を保証されたチームの呼称だ。上級騎士以上の階級者で構成される。その権限は多岐に渡る。その分、義務も多くなるのだが…
ユーリはニカッと笑って言った。
「お、良いね良いね。気が利いてるよ。」
「それでは二つ目のお話です。ラブリーエンジェルスのお二人には特別チームとして来週に開かれる建国100周年記念祭の際に王都の警護にあたっていただきます。」
うーー、なんか私達を働かせるために特別チームに任命したのではなかろうか??
「親衛隊と連動していただきたいのですが、サーラ殿は不在です。」
「なんで?陛下の警護は親衛隊でしょ?隊長がいないでどうするのよ…」
ヨームさんは両手を挙げて、不遜に答えた。
「何でもこの時期に隣国のガーマント共和国の式典に招かれたそうですよ。」
何でこんな時に?ちょっとだけ違和感を感じたが次のヨームさんの言葉でそんな事は吹き飛んでしまった。
「ミットフィル副隊長がこの期間は責任者になりますので、打ち合わせをお願いしますね。」
「え!ミットフィルさん!」
思わず黄色い声をだしてしまった…
「ちょっと、ナルミ。私が認めないとミットフィルと付き合っちゃダメだからね。」
私は口を尖らせてユーリへ言った。
「そんなんじゃありませんよーーだ。」
「ふん、楽しそうにしちゃってさ!どうだか?」
「まあまあ、と言う事で後はお願いします。」
ヨームさんはそう言うと自分の机に戻り、居眠りを始めた。ヨームさん、疲れているのかな?
▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️
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