第41話 昔話
「よし、先ずはグレイ様に説明が必要だな。マム、姿が消えた護衛の兵士は生きている?」
「はい、監禁していますが健康ですにゃ。」
「それは良かったわ。それで?ユーリ、どうするつもり?」
「猫族は一族丸ごと情報部に引き取ってもらおう。お化け騒ぎは…、魔力溜まりのせいにしよう!」
「そ、そんなにうまくいきますか?行方不明の兵士はどうするんです?」
「記憶をすり替えよう。カガリにお願いするよ。魔力溜まりの影響で混乱して屋敷を飛び出し、近隣の村で匿われていた!というのはどう?」
「…」
「大丈夫だよ。なんたって親衛隊隊長が証言するんだ。どうとでもなるよ。」
サーラさんはやれやれと言いたげに肩をすくめた。
「それよりも…だ。死の商人から魔道具を取り返さないとならない。どうするか…?」
「死の商人の潜伏先はわかっているにゃ。我々は影です。これぐらいの情報収集は得意とするところにゃ。しかし、」
マムは悔しそうな表情を浮かべた。
「私達では勝てないやつがいる。仮面の男。攻撃が当たらない。まるで心を読まれているようだったにゃ…」
「心が読まれる…」
ユーリとサーラさんが顔を見合わせた。
「心当たりがあるのですか?」
私の問いにはサーラさんが答えた。
「いえ、心当たりはないわ…」
ちょっとだけ気になるなあ…
「とにかく、サーラもいるんだ。なんとかなるだろ?」
「ええ…。親衛隊を中心に強襲部隊を編成するわ。ユーリとナルミさんも手を貸してくれるのよね?」
「はい。もちろんです。ねえ、ユーリ。ユーリ?」
「あ、ああ。カガリにもサポートをお願いするよ。それよりも心を読むやつがいるのか…」
ユーリのつぶやきは少しだけさみしさがあり、私は心に引っかかった。
◇
私達がミシマ分室に戻って来たのは深夜前だった。
「おかえりなさいませ。ユーリさん、ナルミさん。首尾はいかがでしたか?」
「ああ、ヨーム。まあまあだよ。」
「と、言いますと?」
私はヨームさんに事の経緯を説明した。
「という訳でして…。グレイ様には『魔力溜まり』の影響ということで報告しています。行方不明だった兵士も保護しています。」
「ナルミさん、ありがとうございます。で、これからどうするおつもりですか?」
ヨームさんはちょっとだけ逃げ腰になりながら私達に尋ねてきた。
「大丈夫だよ、ヨーム。今回は親衛隊が猫人族の身元を引き取ってくれるそうだから。あとは『死の商人』を強襲するのだけど…」
「はい、ユーリ様。このカガリにサポートはお任せください。」
「うん、ありがとう。カガリ。」
カガリさんはその言葉を聞いて嬉しそうにモジモジしていた。
「でも仮面の男は大丈夫そうなの?話を聞く感じだと強いんでしょ?」
アカネが心配そうに聞いて来た。
「そうなの。ユーリ、心が読まれるってユーリの魔眼みたいな感じで攻撃を先読みできるってことでしょ?もしかしたら魔眼よりももっと先までの攻撃も読まれて予測されると思うんだけど…」
「そうだね。もし本当なら厄介だね。まあ、でもそんな奴がそうそう居てたまるか!」
ユーリが少しだけ声を荒らげて言った。
「ユーリ…」
「ああ、ごめんごめん。何でもないよ…。親衛隊の準備が整ったらサーラから呼び出しが来るから今は休もう。きっと、強襲は明け方だよ。皆んな、準備をお願いね。」
◇
「ユーリ、心を読む男に心当たりがあるんですね?」
私はベッドで横になりながら、隣のベッドのユーリに話かけた。
「うん。私とサーラが死の商人から逃げだした時に囮になって私達を逃してくれたミーシャ。彼が心を読む事ができた。でもミーシャは死んだ。あんな能力を他の奴が持てるとは思わない…。きっと心が読めるというのはマムの勘違いだよ。」
「そうだったんですね。」
そうか、だからサーラさんも微妙な反応だったんだな…
「私はミーシャには全然敵わなかった…ナルミの言う通り、ミーシャは私が見える未来よりも数手先の攻撃も読んでいた。そりゃそうだよね。心が読めるんだもの。攻撃の意図も丸わかりだったよね。」
ユーリの声はちょっとだけ震えていた。
「ねえ、ナルミ。そっちに行っても良い?」
「え?構いませんよ。」
ユーリは自分の枕を手に私のベッドへ潜り込んできた。
「へへへ。ちょっとだけ…ね?」
「しょうがないですね、ユーリは。ギュッてしてあげます。」
私はユーリの頭を抱えるとゆっくりと抱きしめた。
「いい匂い…ありがとう。ナルミ。」
ユーリがどれだけ壮絶な体験をして来たのか?は私にはわからない。でも、私は"私の相棒"をとても大切に思っていた。
「ユーリ?」
気づいたらユーリは寝息をたてていた。その寝顔を見ながら私はユーリの人生に思いを馳せていた。
◇
コンコンコン。ドアがノックされ、カガリさんが私達の部屋へ入って来た。
「ユーリ様、ナルミ様。親衛隊から連絡が来ま…ああああ!な、何で同じベッドで寝てるんですか!!!」
夜明け前までまだ時間がある。こんな時間に大声を出したら近所迷惑…。いかんいかん。私は身をひるがえすとベッドから飛び起きた。横でユーリはヌボッとした顔をしていた。ユーリ!カガリさんが怒ってる!
「ああ、カガリ。すぐに行くよ。」
「お、お、同じベッドで寝てた…」
「うん、私が弱気になってた…。ナルミに甘えちゃった…。ナルミ、迷惑かけたね。」
「そ、そういう事なら仕方ないです…」
ユーリは私の方を見て、カガリさんには見えないようにニヤッと笑った。あ、悪女…
「よし、ナルミ。親衛隊に合流するよ。カガリも準備をお願い!」
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