第40話 マムの事情

 「キングマリオネット!!なぜ、こんな物がここに?!」


 ミューさんが悲鳴にも似た叫び声をあげた。それは大きさが2mほどで下半身は蜘蛛のように8本の足を持ち、上半身は4本の腕を持った異形の人形だった。

 5重の魔法障壁に囲まれ、魔力を帯びた剣を4本持っていた。キングマリオネットの後ろには3人の猫獣人がいた。真ん中で魔糸を幾重にも操っているのはマムだ。


「ミュー!あれは何?」


「あれは古代の兵器です。10体で1,000人規模の騎士団を相手にできたと聞いてます!一旦、引きましょう!」

「ふん、ここには私とユーリがいるのよ。」

「いくらあなた達が強くてもキングマリオネットには勝てないのにゃ。引きなさい!」


 マムが叫んだ。


「死んでも知らないのにゃ!」


 サーラさんは黙ってロングソードをキングマリオネットに叩きつけた。魔法障壁によって弾かれるがキングマリオネットの身体がかしいだ。その隙をユーリは見逃さない。

 キングマリオネットに走りよると信じられないくらい大量の魔力を載せた刀を振るった。これもキングマリオネットの魔法障壁に阻まれた。しかし、キングマリオネットを囲んでいた魔法障壁が2枚はじけた。


「ユーリ!やっぱりあなたは規格外ね!」

「いや、そんな事ないよ。ナルミ、クロスライフルであいつを狙撃して!威力は…、そうだな…1/7で!」

「あ、あなた達!何者にゃ!このキングマリオネットの魔法障壁をこんなに容易くはじけさせるなんて!」


 マムは驚いた表情を見せた。そして、キングマリオネットを一緒に操っていた猫獣人に撤退を命じた。


「マミ、マナ!急いで引きにゃさい!」

「し、しかし!」

「邪魔にゃ!早く!」


 猫獣人が撤退した。マムはこちらを睨みつける。


「一族のため!引くわけにはいかないにゃ!!」


 私はクロスライフルに魔力を込めた。1/7。

 キングマリオネットに照準を絞り、トリガーを引く。


『ドゥ』


 光の濁流がキングマリオネットの魔法障壁を3枚破壊した。ユーリの見立てはすごいな。


「な、なんなのよ…あなた…。」


 サーラさんが呟くように言った。


「マム、降伏しなさい。」


 ユーリが静かな声で威圧した。


「そうは行かない、そうは行かないにゃ!!」


 マムはキングマリオネットに繋がる魔糸に魔力を込めた。キングマリオネットに握られた4本の剣が凄まじい勢いでユーリに振りおろされた。


「ユーリ!」


 ユーリはキングマリオネットが繰り出した鋭い4撃を踊るようなステップで紙一重にかわした。その動きはまるで妖精…

 そして、ユーリはキングマリオネットの後ろに周りこむと魔糸を操っているマムの懐へと入り込んだ。刀をマムの首筋に突きつける。


「降伏しなさい。そして話しなさい。私達はあなた達を助ける事ができると思う。」



 

 

 マムは観念して大人しくなった。しかし、その口は重い。


「ナルミ…」


 ユーリは私の胸元を指差した。私は頷くと障壁の石に魔力を込めた。石が青から赤へと変わり、光輝く。


「マム。今、私達は外部からの魔法の監視を受けない。安心して話をして。」


 マムは私の方を見て悟ったらしくゆっくりと頷いた。


「それで?どういうこと?」


 ユーリの声色は淡々としていたが、優しい揺らぎがあった。


「はい…」


 マムの話はこうだった。

 

 マム達猫型獣人族は世界で見ても数が多い種族ではない。それはもう500年もの間、変わらぬ事実である。決して弱い種族ではない。繁殖能力が低いわけではない。それはひとえに種族にかけられた"呪い"のためである。

 猫族は子を産む時にある魔道具を必要とする。猫族は妊娠するとその胎児は母体と同化し、異形の化け物となる。そのため、猫族の女性は妊娠すると魔道具を使って胎児を眠らせる。この呪いは胎児が眠っている間は発動しない。

 だが、この魔道具を使っても猫族は死産が多い。それは魔道具を使って胎児を眠らせる事と無関係ではあるまい。伝承では500年前の人魔大戦の時にこの呪いは魔族によってほどこされた。猫族はその神秘性と身体能力の高さ、隠密性から"影"として魔族と戦い、魔族を苦しめてきた。その報復が"呪い"であった。


「私達は3つの部族からなるのにゃ。私の部族は今、30名ほどにゃ。」


 その魔道具の数は多くない。それぞれを猫族の部族が管理して使っている。マム達の部族も例外ではない。しかも一つの魔道具で眠らせられる胎児は3人。


「我々は緩やかに絶滅する種族なのです。それでも子供はできる。今、お腹に子供がいる者もいるにゃ。」


 マム達の部族は200年前からこの屋敷に暮らしている。経緯はわからないが、ある貴族の隠密(影)として使えていたらしい。だが、その貴族が没落してしまう。


「地方貴族でしたが、中央への反乱を企てたにゃ。そして蜂起した。でもその反乱はすぐに鎮圧されたにゃ。100人ほどの少数の部隊によって…」


 ど、どこかで聞いたような話だがあえて触れるのはやめよう…


「貴族家は取り潰し、我々は存在が秘匿されていたのでこの屋敷の使用人という事で屋敷の一部としてアルバルトン家に召し抱えられましたにゃ。しかし、グレイ様には使用人は5名と認識されているにゃ。そして…」


 ある時、その商人はやって来た。アルバルトン家に取り入り、マム達にも接触してきた。彼は知っていた。マム達が影であることを!マム達が呪われた一族であることを!

 ある日、魔道具が盗まれた。商人の仕業だった。彼はマムを脅した。

『魔道具を使いたければ、『魔法ネットワーク』としてアルバルトン家で暗躍しろ』と


「そして、私達の部族は商人に逆らえなくなりました。」


 ユーリとサーラさんはすごい顔をしてマムの話を聞いていた。


「マム。あなたが仕えていた貴族を制圧した部隊の指揮官は私だ。」

「ユーリ…」

「私はあなた達を助けたいと思っている。因縁のある相手かもしれない。でも信じてくれないかな?」


 ユーリの真摯な姿勢にマムが頷く。


「ユーリさんを恨むのは筋が違うにゃ。私達は影にゃ。盛者必衰が世の常であることはわきまえている。」


 サーラさんがユーリを見て、ゆっくりと頷いた。


「わかった。私達はマムに協力しよう。」

「ユーリ、魔法ネットワーク…って…」

「ああ、『死の商人』だ。公爵家を裏で操るつもりだ…」

「そうね。私にも因縁のある相手よ。マム!これはあなた達のためだけじゃない。私達の本懐よ。」

「ありがとう…。あなた達と共闘できるなら心強い。よろしくお願いしますにゃ。」


 マムの目には涙が浮かんでいた。


▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️


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