第38話 屋敷の気配
「ユーリ…。あの猫の獣人…。気配を感じた??」
「いや。サーラは?」
「私もわからなかった…」
二人もわからなかったんだ。ユーリがこちらを見たので、首を振っておいた。
「色々とありそうなお屋敷だな…」
「そうね…」
ユーリはマッパーを取り出すと、サーラさんに声をかけた。
「サーラ、屋敷の見取り図。見ておいて。」
サーラさんがマッパーを覗きこむ。
「ナルミ、二人一組で屋敷を警戒しようと思う。」
「はい、わかりました。」
「私はミューと一緒に屋敷を回るわ。とりあえず私達は屋敷の南側から。30分であなた方と入れ替わって北側を30分で回るわ。」
「よし、そうしよう。ナルミも良い?」
「はい、わかりました。」
ミューさんも黙って頷いた。ユーリとサーラさんってやっぱり仲が良いよね。段取りがとてもスムーズに決まっていく。ミューさんもそんな二人の関係が気になったようだ。
「サーラ隊長。隊長はユーリさんとどのようなご関係なのですか?」
一瞬、サーラさんはユーリを見て言い淀んだがすぐに返答した。
「悪友よ。」
「へえ…、サーラ。私は友達なんだ。」
ユーリがサーラさんに言った。
「悪!悪友よ。"悪"がほとんどね!!」
ユーリはそれには答えなかった。だが、私はユーリが嬉しそうに笑ったのを知っている。
◇
私とユーリは屋敷の北側を進んでいた。この屋敷は石造で堅牢だ。200年もの間、風雪に耐えてきた建物だ。風格がある。というか、ありすぎる。
「ユーリ、変に魔力が満ちていませんか?」
「古い建物だと魔力溜まりができる事があるけど…。ちょっと異常だね…」
屋敷の北側にはグレイ様の私室がある。この豪華な扉の部屋だ。マッパーに表示された光点はグレイ様を示しているのだろう。うん?光点はよく見ると2つに分かれているようだ。
「マムなのか…?」
部屋からは物音ひとつしない。あーー、何か不気味で嫌な感じだ。
私達はグレイ様の私室を通り過ぎて食堂へと行き着いた。
「誰もいない…」
そうなのだ。この屋敷には人の気配がまるでないのだ。いや、人はいる。使用人はいるはずなのだ。でないとこんなに広い屋敷の維持管理などできる訳がない。
「ナルミ、地下に降りる階段があるね…」
食堂の脇にある部屋に地下へと通じる扉があった。
「食材を保管する所ですかね…」
「よし、降りてみよう。」
私はユーリの服の裾をしっかりと掴んだ。
「ちょっとナルミ。動きずらいよ…」
「だ、だ、だって怖い…」
「ナルミはしょうがないなあ。ほら、手を繋いであげるよ。」
「離さないでくださいね。ちゃんと握っててくださいね。」
私達は地下への階段を降りて行った。ユーリが地下を見て、顔をしかめた。
「ナルミ、これ。何だと思う?」
それは何か大きな"物"が置かれていた"跡"があった。
「魔力が残っているね…」
「ユーリ。小さな"物"もあったようですね?何でしょうか?」
「亡霊かな??」
「ひぃー。ぼ、ぼ、亡霊って何ですか?」
「冗談だよ。冗談。」
「や、やめてください。泣いちゃいますよ。」
それにしても何だろう。最近までここに"何か"があったらしい。
「よし、北側をもう少し見てみよう。」
◇
「おかしいなあ。マッパーには光点があるのに全然気配を感じないんだよなぁ。」
「お、おば、おば、お化け??」
「違うよ。あの猫の獣人みたいに気配を消せるやつじゃないかな?」
この屋敷にはマッパーが正しければ何者かが潜んでいる。護衛の騎士が行方不明になっている事と関係あるのかな??
「よし、サーラ達と入れ違おう。ナルミ、次は南側だよ。」
ユーリと私は一度応接室へと戻った。程なくしてサーラさん達も戻ってきた。
「ユーリ、この屋敷…。ちょっと変じゃない?」
あ!私も思っていた。
「屋敷の広さや造りにしては部屋数が少ないですよね…」
「そう!そうなのよ。私には気配がわからないけど、マッパーにはたくさんの"人"が写っているんでしょ?」
そうなのだ。マッパーには部屋の配置を無視して多くの人影が写っている。
「隠し部屋があるな。昔の屋敷だからね。何があっても驚かないけど…。一応、カガリに屋敷の見取り図の精度をあげてもらうわ。」
私はユーリの言葉に頷く。
「サーラ、食堂の隣に地下の部屋がある。ちょっと気になるんだよね。」
「わかった。それじゃあ、後ほど。」
ユーリと私は屋敷の南側を周る。サーラさんが言う通り、この屋敷は奇妙な造りをしている。
「行方不明の騎士もこの屋敷のどこかに迷い込んだんじゃないかな。お化けに引き摺り込まれていたりして…」
「ユーリ!やめてください!」
「へへへ、ごめん。」
その時、私達の通信機が鳴った。
『ユーリ様、ナルミ様。マッパーをご覧ください。』
「おー、ありがとう。カガリ。」
マッパーには屋敷の見取り図が写っていた。そして"生物"を表す光点もはっきりと写った。
「壁の奥に通路と部屋がありますね。何物か?わからないけど潜んでいる…」
うーん、とユーリは考え込んでいた。
「ナルミ。南側も回って位置関係を整理しておこう。」
「はい。」
私はユーリと屋敷を観察しながら進んだ。やはり気配は全く感じない。
「ユーリ。障壁の石を作動させてみます。こちらの気配をたったら動かないかな?」
「うーん。それは良い手だと思うけど。奥の手にしたいな。効果的なタイミングで使おう。」
ユーリと私は屋敷の南側を巡ると応接室に戻った。
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