第36話 バイバイ、ドルク村!そして、顛末

結果、湖に巣くっていた魔獣はサーペントドラゴンだった。湖の周りを飛び回っているのをユーリが発見。私がクロスライフルで狙撃。あっけなく倒してしまった。


「後で村長さんに言っておきます。誰かしらが解体をしてくれるかと。」


 それにしても…


「結構、大きいなあ。こんなのが村に来たら大騒ぎだった…良かった。」

「いやー、ナルミ。きれいな所だね。のんびりできるなあ。」

「サーペントドラゴンの前で言っても説得力がないですよ…」

「確かに景色は良いけど生臭いね。」


 ユーリがしししっと笑った。

 それからは大騒ぎだった。村長の元に村人がどんどんと集まってくる。サーペントドラゴンは毒腺を取り除くと肉は食用になる。とても希少で美味しい。また、毒腺は乾燥させて王都に持っていけばかなりの金額で売れる。鱗や牙は素材としても高価だ。しばらくは村は金銭的に潤うだろう。何よりも村が襲われる前に退治できた事が大きかった。村長はユーリに恐縮していた。


「村長!私達のペア名を教えてあげましょう!『ラブリーエンジェルス』だよ。」


 キュピン!ユーリがピースを決めたが村人の反応はユーリが期待していたものでは無かった。


「『ラブリーエンジェルス』?もしかして『アグリーデーモンズ』か!!」

「あ、あの王都で話題になっている…」

「ああ、アグリーデーモンズが通った後には雑草も生えないらしい…」

「な、ナルミが『アグリーデーモンズ』のメンバー??」

「俺達、殺されるんじゃないか?」


 ざわざわざわ


「あ、あの…皆さん。私達は『ラブリーエンジェルス』…」

「ひ、ひえーー、知らぬ事とは言え、無礼をお許しください!!!」


 村人達はその場に平伏した。


「いや、だから、その。あーん、サーラのせいだ!あいつは絶対に許さないーー!!」


 ユーリの絶叫が村中に響き渡った。だが、後にユーリは思い知る事になる。サーラがユーリ以上に怒っている事を!!!




 

「あなた達…。有名人なのね。」


 いやいやいや、母ちゃん!違うから!有名なのはユーリだけだから!!


「私は有名じゃないよ!ユーリ!ユーリが有名なの!」

「お母さん。ごめんなさい。元は私が悪いの。確かに有名になったきっかけを作ったのは私。でも…、私はきっかけにすぎなかったんです。ナルミはその実力が人外過ぎてすぐにあらゆる騎士達から恐れられるようになりました。」

「いや、違…。」

「その証拠にサーペントドラゴンもナルミにかかれば一発です!砲撃一発!お母さん、どうです?すごいでしょ。」

「いや、違う!違わないけど!いや、違うの!!」


 そんな私達を見て母ちゃんはしょうがないわね。

という顔をした。


「極級騎士のユーリさんが普通の訳ないじゃない。その相棒のナルミも普通の訳ないじゃない。アグリーデーモンズだっけ?私は好きよ。強そうじゃない!」


 ニコニコしながら笑う母ちゃん。ありがとう、母ちゃん。


「ただし!」


 母ちゃんは真顔になって言った。


「ただし、危ないことはあまりしないでね。心配になっちゃうから。ね?」 




 

 夜は私の家族とユーリ、4人で食事をした。牛のおばさんからもらったチーズを炙ってとろーりと溶けたものを蒸したじゃがいもと一緒に食べる。


「はあー、これは何杯でもお酒が飲めてしまう…」


 ユーリは復活した父ちゃんとまた、酒を飲んでいた。


「二人とも大丈夫?」

「平気平気。昨日はビールだったけど、今日はワインだから。」


 何が大丈夫なのかはわからないが隣で父ちゃんも頷いていた。そういうものなのか??

 楽しい夜はしだいに更けて行った。明後日、私達は王都に出発する予定だ。明日は家の手伝いをする予定。ユーリに畑仕事の楽しさを教えてあげるよ

ー。





「よっと!」


 今日は朝からユーリと父ちゃんと一緒にじゃがいもの収穫だ。といっても何も無い畑。じゃがいもの茎や葉は予め取り除いてある。なぜ、私達が収穫の手伝いをするのか??


「じゃあ、行きます!」


 私は魔力を込めると地の魔法を使う。本当はこういう魔法はカガリさんやアカネの方が得意だと思うけど、私もできなくない。地面が振動してじゃがいもが畑から顔を出す。


「初めて見たよ。ナルミ、すごいね。」

「そしたらユーリさん、じゃがいもを拾ってください。」


 私達はじゃがいもを拾うとカゴの中に入れた。豊作、豊作!

 カゴの中のじゃがいもは日をあてないように広げてむしろをかけて陰干しする。


「こんにちは!今年も豊作ですね。」


 馬車でエルマ精霊国からエルフの行商人がやって来た。メルさんもこんな感じで行商してたのかな?


「ナルミ、楽しかったよ。今度、また来ようよ。」


 じゃがいもを両手に持ってユーリがニカッと笑っていた。そうだね!ユーリ。また、来ようね。

 

 王都に戻る日。村長さんをはじめ村の皆さんが見送りに来ていた。サーペントドラゴンを倒した事に改めてお礼を言われた。

 まあ、こっちはユーリに任せておこう。


「父ちゃん、母ちゃん。ありがとね。また、帰ってくるよ。」

「うん、いつでも良いから帰っておいで。」


 私はギュッと母ちゃんに抱きつく。うん、これで元気をもらった。父ちゃんが腕を広げて待っていたが、


「まあ、父ちゃんはいいか…」

「おい、何でだよ!」


 という父ちゃんのぼやきが聞こえたが…。

 ごめんね、父ちゃん。私は年頃の娘なのだよ。


「それじゃあ、お父さん、お母さん。お世話になりました。また、来ても良いですか?」


 父ちゃんも母ちゃんもユーリの言葉に変な顔をしていた。


「ユーリさん。何当たり前の事を言ってるの?ナルミがいなくても良いからいつでも来てよ。」

「はい、ありがとうございます!」

「それじゃあね!またね!」


 別れは寂しい。でも、王都には私達を待っている人もいる。元気に帰ろう!

 バイバイ、ドルク村。また来るね。



 

 

 と思ったら…。王都に着いた私達を待っていたのは鬼の形相をしたカガリさんとアカネだった。


「ふ、二人とも無事だったんですね!」

「ユーリさま、ユーリさま、ユーリさま!カガリは生きた心地がしませんでした!通信も通じない!空間認識魔法にも反応しない!二人とも死んでしまったのでは無いかと、気が気では無かったです!良かったよー。」


 カガリさんはユーリに取り縋って泣いていた。私とユーリは顔を見合わせた。


「あ!そう言えばララーシャとヨームが話した後に通信機のスイッチを切ったな…」


 キッとカガリさんに睨まれた。


「だってヨームがしつこかったんだもん。」

「あ!そう言えばララーシャ様からもらった遮蔽の石を赤くしたままだった…」


 キッキッとカガリさんに睨まれた。


「だってユーリが赤い方がきれいだって言うから…」

「もうもう!しばらくの間、私は朝ごはんを作りません!もうお二人の事はしりません!えーん。」


 泣き出したカガリさんを見て、ユーリがオロオロしだした。


「カガリ、ごめんね…」


 ユーリはカガリさんの頭をヨシヨシと撫でていた。


「ナルミちゃん。カガリさんは良いのだけど、あの…。」

「何?」

「サーラさんに二人が無事な事を早く知らせた方が良いと思う…。」


 うん??サーラさん??


「うん。ユーリちゃんが行方不明な事を聞きつけて、それはもう半狂乱な状態なの…」

「え?」

「捜索隊を編成してる。もうね、城を攻めるのかな?ってくらいの戦力を集めてるの…」


 こ、これはやばい…


「ユーリ!」


 ユーリはコソッと逃げ出そうとしていた。


「あ!ユーリ、ズルいです。私も一緒に…」

「二人ともダメ!すぐに近衛騎士団親衛隊に行って来なさい!!」

「「はい!」」


 アカネな怒られて私達は渋々サーラさんの所へ行く事になった。

 親衛隊本部では…


「あ!!ナルミさん!」


 ミットフィルさんに目ざとく見つけられた。


「あーー、良かった。本当に良かった。」

「あの、ミットフィルさん。心配をおかけしました。ごめんなさい。」

「いえいえ。ナルミさんが無事で本当に良かった…。もう、僕はそれだけで充分です…」

「ミットフィルさん…」


 私とミットフィルさんはしばらくの間、見つめあった。


「ゴホンゴホン!そんな場合じゃないと思うんですがね!」

「そうだ!そうだった。早く隊長の所へ!もう、隊長は大変なんです!隊長を止めてください!」


 ミットフィルさんに案内されてサーラさんの所へ行くと…


「その倍は用意しなさい!全然、兵力として足りないわ!何言ってるの!後3時間で用意なさい!行軍に必要な物資もかき集めるのよ!!」

「お取り込み中、ごめんなさい。やあ、サーラ。武闘大会以来だね…」

「はあ、ユーリの相手をしている時間はないの!後にしてちょうだい!は?ユーリ!ユーリ!!」


 最後のユーリは絶叫だった。


「し、心配したん…。いや、違う!おまえ!何してた!!」


 ユーリは経緯を説明した後に甘えるようにサーラさんに言った。


「サーラ…。私の事を心配してくれたんだね?サーラはやっぱり私の事が好きなんだね…」

「ち、違うわよ!!」

「だって捜索隊を編成してくれているってミットフィルが…」


 サーラさんはミットフィルさんを睨んだ。おー、怖い…。


「こ、これは…、そう!演習よ。実戦に即して…じ、準備から本格的にやってるのよ。」

「ふーん。ありがと、サーラ。そうそう、ララーシャに会ったよ。あいつ、元気だった。ラーシャにも会った。強くまっすぐな子だ。ゴッサムみたいに…」

「そう…」

「と言う事で、じゃあね。」


 私はサーラさんにペコっと頭を下げてユーリの後を追った。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!ユーリ!!こ、このアグリーデーモンズ!!」


 サーラさんの絶叫は親衛隊中に響き渡った。


▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️


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