第34話 私の家族
私の家は村の中程、畑に囲まれたこぢんまりとした家だ。
「ユーリ、あそこ!あの家です!」
私は我慢できずにちょっとだけ小走りに家へと向かった。その後をユーリが追いかけてくる。あの木も塀も何もかもが全然変わっていない。
「ワンワン」
家から1匹の犬が飛び出してきた。私に向かって一直線にかけてくる。
「ゴン太!」
私は駆け寄ってきた犬のゴン太を抱きしめた。ゴン太は私を押し倒すと顔を舐め始めた。ゴン太、あんまり尻尾を振ると尻尾が取れちゃうよ…
「あーー、お化粧がとれちゃうーー。」
ユーリが悲しそうな声を出していたが、まあ構わないか!
「ゴン太!どうしたの?」
家の中から訝しげに母ちゃんが様子を見に出てきた。
「母ちゃん!ただいま!」
「あ、ナルミ!父ちゃん!ナルミがいる!」
家から父ちゃんも走り出てきた。
「本当だ!ナルミだ!どうした!首になったか?」
父ちゃん…。それはないでしょ…。
「違うよ。近くに仕事できたから寄っただけ。」
「まあまあ。ゆっくりしていけるの?」
「2、3日居ようかと思ってる。母ちゃん、こちらのユーリさんも泊めてほしいんだけど、良いかな?」
「何言ってるの!3ヶ月でも半年でもいて良いよ!まあまあまあ、それにしても何てきれいなお嬢さんなんでしょう。」
ふと父ちゃんを見るとデレデレした顔でユーリを見ていたので、軽く蹴飛ばしておいた。
「大騒ぎになっちゃうかと思うんだけど…。こちらユーリ・ミコシバさん。極級騎士で私のバディ。あー、あとララーシャ王女のドラゴン討伐。母ちゃんは知ってる?」
「え、ええ。」
「あのお話に出てくる『金の髪の少女』。あの少女がユーリさんです。」
父ちゃんも母ちゃんも口を開けてユーリの事を見ていた。まあ、そりゃこうなるよね。
「ま、まあ。家に行ってよいかな?ユーリ、とりあえず荷物をおきましょう。」
「お父さん、お母さん。しばらくお世話になります。ユーリ・ミコシバです。よろしくお願いします。」
ユーリの挨拶に父ちゃんも母ちゃんも口をパクパクしていた。だ、大丈夫かな…。
◇
「わははは!そうですかそうですか。ユーリさんは話が分かりますなあ。」
「いえいえ、お父さんには遠く及びませんよ。」
「わはははは。」
はあ。ユーリが悪い顔で笑いながら父ちゃんとビールを飲み始めた。なんかすごく意気投合している…。
「お父さん、美味いビールの飲み方を知っていますか?」
「ほう?お教えいただけますかな?」
「ふふふ、こうやるのです。」
ユーリは氷魔法を使って父ちゃんが飲んでいたビールを冷やした。
「ララーシャが得意なんですが、私はあまり上手じゃなくて…」
父ちゃんは冷えたビールを一気に飲み干した。
「美味い!これは美味い!ユーリさんが帰ってしまうとこの美味いビールが飲めなくなるのが悲しいですなあ!」
「お父さん!大丈夫です。」
ユーリはそう言うとバッグから小さな箱を取り出した。
「この箱は魔法局の傑作でして。この魔石の力で中に入れた物を冷たく冷やすのです。これをお父さんに差し上げます。」
「ちょっとちょっと。ユーリ。爆発しない?」
私は心配になったので聞いてみた。
「大丈夫!これはハッサンさんが作ったやつだから。」
そ、そうなのか。ボンバール博士の作ったやつじゃなければ安全なのか!
「いやー、ユーリさん。ありがとうございます!早速、ビールを入れてみようかな。おおー。これはすごい。すぐに冷え冷えになりますな!いやいや、これは飲み過ぎてしまう!」
「わはははは!」
バカ笑いする二人を母ちゃんと一緒に眺める。大丈夫か?この二人…
「ねえ、ナルミ。ユーリさんってすごい人なんでしょ?父ちゃんと飲んでて大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。ユーリは気取らない人だから…」
その時、けたたましくドアがノックされた。
「うーん、誰だろ?」
「あ、後で牛のおばさんがチーズを持ってくるって言ってた。私が出るね。」
ドアを開けると正装をした村長が立っていた。
「あ、ナルミ。久しぶりだな。それはそうと極級騎士様がいらっしゃっていると聞いて。こちらにいらっしゃるのかな?」
「はい、ユーリならいますけど。」
村長は急に小声になると、
「やっぱり村の監査にお見えになったのかな?ナルミ、どうしよう…。」
私は苦笑すると奥に居るユーリに声をかけた。
「ユーリ、村長さんが会いたいそうです。」
「ナルミ、いきなりそんな、失礼にならんか…」
「村長!美味しい食べ物とお酒を持ってきてください。それで万事、解決です。」
「ああ、わかった。すぐに持ってくる!」
村長は踵を返すと慌てて駆け出していった。
「ナルミーー。村長さん?」
「ああ、また来るそうです。ふふふ、今日はご馳走ですよ!!」
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