第32話 さよなら、またね
案内された詰所でユーリと一緒に待っていると程なくしてララーシャ様とラーシャがやって来た。
「ユーリ、本当に久しぶり!あんた、全然変わってないね!ナルミさんも今回の件、本当にありがとうございました。」
お、おお??やけに気さくだな…
「ナルミ、驚いたでしょ。ララーシャは昔からこんな感じなんだ!全然女王様らしくないの。ララーシャが女王をやってるのは、私の中の世界3大不思議なんだよ。」
「私もそう思う。ちなみに他の二つは何なの?」
「えーと。まだ決めてない…」
「ユーリらしいね。せっかくユーリに会えたから後でゆっくりお話ししましょ。はあ、だから先に嫌な話を終わらせてしまいましょう。」
ララーシャ様は真面目な顔をすると話出した。
「エルマ精霊国であなた達の王国に対する不信感が増しているの。エルフの族長達に不信感を植え付けるように暗躍している組織の存在も確認している。」
「うん、ラーシャを攫ったのは『死の商人』だった。私と因縁のある組織…」
ユーリは絞り出すように呟いた。
「私は『死の商人』のエルマ精霊国での活動を抑えようと思っている。あなた達の国と協力できないかな?」
「エルフが攫われているね。王国でも子供が攫われている。私も『死の商人』は許せない相手だ。ちょっと待っててね。」
ユーリは通信機を取り出すとヨームさんを呼び出した。
「ヨーム、ララーシャと変わるね。」
ゆ、ユーリ!いきなりですか!!
『ちょっとちょっとユーリさん。どういうこ…』
「あー、あー、エルマ精霊国のララーシャです。…」
その後、ララーシャ様はヨームさんに協力体制の構築を検討してほしいとあの手この手で訴えていた。
『ララーシャ様、お話は承知いたしました。あの…、ユーリさんに代わってもらえますか?』
ララーシャ様はユーリを見やった。
「と言う訳だから!あとはよろしく!大使館と内容は検討してほしいってさ!」
『あ、あの。ユーリさん!この案件は国王様の裁可が必要です!私の力ではとても…』
「じゃ、あとはよろしくね!」
ぶつ!ユーリはヨームさんの返答を最後まで聞かずに通信を切った。その後、ユーリと私の通信機にはヨームさんからたくさんの呼び出しがあったが…。
「ナルミ、通信機を切っちゃおう!」
ユーリの一言で通信機は静かになった。
「これでよし!ララーシャ!返答は大使館に行くと思うよ。」
うん??本当にこれで良いのか??私とララーシャ様は思わず顔を見合わせたが…。
「まあ、ユーリは昔からこういうやつだから。でも言った事はきちんとやるからね…」
ユーリはニカッと笑ってこちらを見ていた。まあ、"やる"のはヨームさんだけどね…
「ねえ、ユーリ。ナルミさんと一緒にエルマ精霊国に来ない?近衛師団長くらいの地位は用意するわよ。」
「うーん。ララーシャの近くにいられるのは嬉しいけど…。私には分不相応かな…。」
ララーシャ様はジッとユーリを見つめていたが諦めたのかホウっと息を吐くと微笑んだ。
「うん、返答はわかってたから…」
「ごめんね…」
「よし、難しいお話は終わり!ラーシャ。二人との旅はどうだったの?楽しかった?」
「はい!母さま、それがですね…」
私達の楽しいお話しは夕食の用意ができるまで続いた。
◇
夕食後、ユーリはラーシャとお風呂へ行った。私はララーシャ様に話かけられていた。
「ユーリが相棒と呼ぶなんて初めての事じゃないかしら。」
「サーラさんという方が昔からの知り合いでして…。実力もユーリの相棒に相応しいかと思ってます。」
「サーラはダメ。あの二人は似ているから。お互いの不足している所を補いあえない。」
「ララーシャ様はサーラさんをご存知なんですか?」
ララーシャ様は目を伏せると静かに頷いた。
「ララーシャのドラゴン討伐。私には3人の仲間がいた。ユーリと『ラーシャの父』ゴッサム、そしてサーラ。」
「え?サーラさん?」
「そう。とてもとても頼もしい私の仲間。ゴッサムは残念ながら命を落としてしまった…ユーリとサーラはその事をとても悔いてるの…。
本当はあの二人、とても仲が良いのだけどお互いの顔を見るとゴッサムの事を思い出すんだって。きっとあの二人はゴッサムの事だけじゃない苦しく辛い思い出が多すぎるの。
それに二人とも意地っ張りだから素直になれないのよ。」
そうか…。吟遊詩人は声高らかに謳う。
『かくてエルフの勇者はドラゴンの炎をその身に受けた。愛するララーシャを守るために!敬愛する仲間を守るために!ドラゴンの前に立ちはだかり、炎を魔法で受け止めたのだ。』
「結局、ゴッサムは私達を守って死んだ。私達はやっぱりゴッサムの死を悔いてるのよ。」
だからユーリは竜殺しの英雄と言われる事が嫌なんだな…。からかって悪い事をした…。後で謝ろう…。
「ナルミさん、ユーリの事をよろしくお願いします。ユーリはナルミさんの事を頼りにしているはずだよ。」
私は大きく頷いた。どれだけユーリの力になれるのかはわからない。でも私はユーリの隣にいたい。
「ありがとう、ナルミさん。」
ララーシャ様はそう言うと首にかけていた青い宝石を外して私の首にかけた。
「ララーシャ様。これは?」
「魔力を流してみて。」
私は青い石へ魔力を流す。すると石は綺麗な赤色に輝き出した。
「ユーリの事をお願いするにあたっての私の気持ち。遮蔽の石。魔法士の空間認識を阻害し、自身の発する気配をも消せます。範囲は流す魔力次第。受け取ってくれますね?」
「はい、ララーシャ様。ありがとうございます。」
ちょうどそこへ風呂から上がったユーリとラーシャがやって来た。
「あ、ナルミ!それ!遮蔽の石じゃん!もらったの?いいなあ。」
ユーリは繁々と遮蔽の石を見つめていた。
「私がもらったのであげませんよ…」
「いいよ。ボンバール博士に作ってもらうから。」
うん、絶対にできないと思う。
「あの…、ユーリ。ララーシャ様から聞きました。その竜殺しの英雄の事…。からかったりしてごめんなさい…」
ユーリはいつもみたいにニカッと笑った。
「でも吟遊詩人の謳を聞くとむずかゆくなるのは本当だよ。」
ララーシャ様とラーシャは私達の様子をニコニコしながら見ていた。
◇
「それじゃあ、ユーリさん、ナルミさん。お元気で!」
「ラーシャもね!今度、二人で遊びに行くね!」
「ユーリさま、ナルミさま。ここまでラーシャ様を無事に護衛いただき、感謝いたします。お二人のエルマ精霊国へのお越しを心からお待ちしております。」
「ハンナさん達もお元気で!エルマ精霊国に行ったら美味しいお料理を期待してます!」
私達は再会を誓って別れる。
「それでは!騎士団。出立!」
ララーシャ様の掛け声で騎士団が前進を開始する。またね!皆んな!
と、急に騎士団が止まった。
「ユーリ極級騎士!ナルミ中級騎士へ!最上級の感謝を!」
ララーシャ様の号令で騎士団は空へ魔法を放った。その魔法は空中できれいな花の模様を描く。
「わあーー、ユーリ。すごいですね!」
「うん。」
私はこの光景を忘れないだろう。私達のためにエルフの打ち上げたこのきれいな魔法を!
▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️
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