第31話 魔眼

夜。私達は別の宿に移動した。幸い誰にも怪我は無かった。簡単な食事の後にラーシャとハンナさん、メルさんには部屋で寝てもらう。

 そのドアの前にはムライさんが剣を携えて寝ずの番だ。私とユーリは隣の部屋で交代で寝ることにした。最初に私が寝ることにしたのだがなかなか寝付けず、何度も寝返りを打った。


「ナルミ、寝られないの?」

「はい、なかなか。」

「そっか。」

「ユーリは。ユーリの目は…」


 私の問いにユーリは立ち上がると私のベッドの端に腰を下ろした。


「魔眼。私は小さい頃に世界の争いに乗じて利益を得る『死の商人』に攫われた。

 その商人は子供を一流の戦士に変えて世界の紛争地に売っていたんだ。私は、いや私達はその商品の中でも選ばれたエリートだった。20名。

 私達は魔石の力で望まぬ力を与えられた。成功したのは4名。サーラもその内の一人。アイツは右腕を、私は右目に魔石の力を宿らせられた。

 ナルミ、死の商人が魔石を何から作っているか?知ってる?」

「いえ、知りません。」

「子供の命。」

「え?」

「正確には子供の魔力が結晶化させて作っているの。私のこの力に何人の子供の命が宿っているのか…私にもわからない…」


 魔石は魔力が吹き溜まり自然に発生するもの(強力な魔物が内包していることもある。)と人為的に製造したものとが存在する。

 人為的に製造するのには色々な方法があるのだが死の商人は子供の命を糧としていたのか!!

 私は起き上がるとユーリの隣に腰を下ろした。


「前に話したよね。ある日、私達は船に乗せられた。紛争地に商品として送られるために。でも、一人の友達が『逃げよう』と私達を誘ってくれた。

 ミーシャ。ミーシャは希望も何もなかった私達を説得した。そして。私達は船から逃げた。その際にミーシャともう一人の友達は私とサーラを逃すために死んだ。」


 ユーリはじっと私の目を覗きこんだ。何でも見透かしてしまいそうなユーリの目。


「この右目には多くの名も知らぬ子供達と友達二人の思いがこもっていると私は思っている。魔眼。未来を見る事と遠視ができる。」


 私はユーリにかける言葉が見つからなかった。その夜は何事もなく明けた。私はずっとベッドの端にユーリと座ってただユーリを思い、ユーリのために涙を流していた。




 

 次の日。朝から国境へと出発して昼には国境警備隊の宿舎へと到着した。ここで手続きを行い、明日エルマ精霊国へと入る。


「ユーリもナルミもすごく眠そうだね。二人とも寝ないで警護してくれてたの?」

「あー、まあー、そんなところかな。」


 ユーリの歯切れの悪い答えにも疑う事なくラーシャは私達に感謝の気持ちを伝える。


「ありがとう!二人とも。それと…明日、向こうで一泊できる?」

「うーん。大丈夫だけど…」

「母さまがお二人を歓待しないと返しちゃダメって言ってるらしいの…」


 私とユーリは顔を見合わせた。


「まあ、ララーシャは言い出したら聞かないからね。わかったよ。」

「良かった。ハンナに大丈夫だって言っとくね。」


 そのハンナさんはメルさんと一緒に色々な書類と格闘中だった。うーん、お疲れ様でございます…

 ラーシャはムライさんとエルマ精霊国の国境警備隊の隊長と面会していた。エルマ精霊国としてもラーシャ姫の無事は一刻も早く確認したいから仕方ないね。

 私とユーリは国境警備隊の隊長さんの部屋でくつろぎ中だった。隊長はフィヨルドさん。50歳くらいの厳ついおじさんだった。そのおじさんがユーリにぺこぺこするのが、とても面白かった。


「いや、竜殺しの英雄にお会いできるとは!エルマ精霊国ではユーリさんの名を知らぬ者はいませんよ。変な話ですが、国境の向こう側からユーリさんの名声が聴こえてきます。

 ユーリさんはこちら側にいるのにおかしな話ですな。がはははは。」

「でも知られているのは『金の髪の少女』ですよね?」

「まあ、どっちも似たようなものですよ。わははは。」


 ユーリは居心地悪そうにお茶を啜っていた。


「しかし、竜殺しの英雄がこんなに可憐なお嬢さんだったとは。いやー、恐れ入りました。」

「何に恐れ入ったのよ…」


 ユーリがボソッと隊長に聞こえないように呟いた。ユーリ、本当に竜殺しの英雄と言われるのが嫌なんだな…


 その夜はラーシャ達と5人のエルフ達、ユーリと私でご飯を食べた。明日でこのメンバーとはお別れだ。旅の中で仲良くなっていたのでとてもさみしい。

 だが、その時の食事は楽しかった。何度もユーリと二人でエルマ精霊国へ行くことを約束させられた。皆んな、また会おうね。




 

 次の日、国境を渡る。5人のエルフ達とはここでお別れだ。


「皆んな、元気で!」

「ユーリさん、ナルミさん!ありがとう!また会いましょうね!!」


 笑顔で手を振り、再会を誓う。

 さて。私達は最後のお仕事だ。ラーシャをエルマ精霊国へ送り届ける。ふと、街道へと目をやると甲冑をつけた人馬が隊列を組んでいた。エルマ精霊国側では20名から成る騎士団が私達を出迎えていた。

 ユーリと私は騎士団へ敬礼する。すると騎士団の隊列が割れて中心から一人の騎士がこちらに歩んで来た。

 ムライさんもハンナさんもメルさんも後ろに下がり控えた。その騎士は私達の前に来ると兜を取った。


「へへへ、ユーリ。来ちゃった。」

「あーー、こいつ!いつも私を驚かせる事ばかりする!」


 騎士はエルマ精霊国のララーシャ女王だった。ユーリはニカッと笑うとララーシャ様に抱きついた。


「会いたかったよ。ララーシャ!」

「私も!そしてラーシャを助けてくれてありがとう…」

「いや、ラーシャを助けたのは私の相棒だよ。」


 ユーリはララーシャ様から離れると私の事を紹介した。


「ナルミさん、斥候から本当の事は報告されています。母親としてお礼を言わせてください。ありがとうございました。」


 私は首を振った。


「ラーシャ様とは良い友達になりました。私は友達を助ける事ができて嬉しいのです。お礼などもったいないです…」


 ララーシャ様は頷くと騎士団を振り返った。


「国境警備隊の詰所を借りる。客人を案内するように。」


 そして最後にララーシャ様はラーシャに目をやり、頷いた。私にはその目がとてもとても優しく見えた。


▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️


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