第30話 ユーリの視界
私は川の岸辺で立ち止まると大きく息を吐いた。
「ふう。朧流、月華乱舞。」
3体の魔獣が私を食い千切ろうと襲いかかって来る。私は刀を上段から真円を描くように振り下ろす。
そのまま、今度は水平に真円を描く。次は下段から真円を描きながら魔刀を切り上げる。円が連なる無限の剣撃、月華乱舞。舞い散る花弁のように魔獣の血が舞い散り、魔石が砕ける。
私は3体の魔獣を制圧し、翼竜を見上げた。4体。
「きえー」
翼竜が不気味に吠えた。何かを呼んでいる?まさか!ラーシャ達を振り返る。ラーシャの近くで、ユーリとムライさんがどこから湧いて来たのか?多数の魔石から作られた人型の魔物と戦っている。
ユーリがいる!狼型の魔獣を倒したんだ!さすがは私はの相棒!ラーシャは大丈夫だ!私はそう判断して翼竜をにらみつけた。
背中のバッグからクロスライフルを引き抜く。威力は1\5。空の翼竜に狙いをつけると私はクロスライフルをぶっ放した。
『ドーウン』
凄まじいまでの光の煌めき。
クロスライフルから放たれた光の濁流は真っ直ぐに翼竜へ迫り、4体ともに消し飛ばした。ふあーー、クロスライフルはやっぱりすげーな!
私は後ろを振り返る。その時にはもう人型の魔物の集団はユーリとムライさんに駆逐されていた。
「ふうー。」
私は一息つく。ハンナさんとメルさんも索敵しているようだ。もう大丈夫か?
「魔獣はもういないようです。でも、変な気配が…」
ハンナさんが浮かぬ顔で警告した。
「皆さん、大丈夫ですか?」
どこに隠れていたのか?宿屋の店主が現れて愛想笑いをしていた。さりげなく、ラーシャに近づく。ユーリが抜刀した。
だがその時には店主はラーシャ目掛けて走り出した所だった。店主の右手に短刀が光る。だが、メルさんが一足早かった。ラーシャを抱えると店主に対峙した。店主の足が止まる。
「このまま、お前らと戦っても勝ち目はない。」
そう呟くと魔力を練り始めた。
「魔石?」
店主の胸に赤い魔石が光っている。
「がーー、あーー。」
店主は咆哮すると背中から蝙蝠のような羽が生え、身体も一回り大きくなった。
「魔人化!」
魔人はメルさんに近く。
「おっと、動くなよ。俺達はラーシャ姫には王国の失態で惨たらしく死んでもらわなければならない。竜殺しのユーリがいながら姫を残虐に殺されたとあってはララーシャも動かざるをえまい。」
魔人はメルさんを盾に少しずつ少しずつラーシャに近づく。
「あなた達の目的は何?」
私は魔人の隙を窺いながら言った。
「ふははは、戦争だ!」
「ララーシャはそんな選択はしないよ。」
ユーリが確信を持って反論した。
「ララーシャが動かずとも、周りの族長が黙っていまい?エルフが攫われる事件も多発しているようだしな!」
「お前!」
私は右手に握ったクロスガンを構える。
「おっと、仲間に当てずに撃てるなら撃ってみろ!」
魔人はちょうどメルさんの影に入っていた。
「ちっ。」
私は小さく舌打ちすると左手で『チョキ』を作った。メルさん、気がついて!メルさんはこちらに目線を送ってくる。今だ!メルさんがサッとしゃがみ込んだ。
その隙を逃さずに私はクロスガンを撃った。光弾は魔人の右手を握っていた短刀ごと吹き飛ばした。
「な、なんと!」
しかし、魔人は素早かった。私達に勝てない事はわかっていただろう。ラーシャを殺すにも短刀が無くなったので即殺できない。ならば…
魔人はラーシャを左手で捕まえると羽を羽ばたかして空に舞い上がった。一瞬の出来事だった。魔人はどんどんと遠ざかる。
「ふははははっ!最後は俺の勝ちだな!」
私はクロスライフルを引き抜くと魔人に狙いをつける。だ、ダメだ。遠すぎる。魔石が見えない。
「ナルミ、私の感覚と同調して!」
「え?どうやって?」
「目を瞑って!」
ユーリはそう言うと私の事を後ろから抱きしめた。私は目を閉じた。あ!ユーリの感覚が流れ込んでくる。魔人が近くにいるように見える。そしてこの感覚は??ユーリ!未来が見えているの?
「ナルミ!魔石を狙って!ナルミなら私の感覚を制御できるはずだ!」
私は魔人の魔石に狙いをつけた。ほんのちょっとだけの未来を狙う!躊躇しない。私はクロスライフルのトリガーを引いた。
『パス』
小さな音を立ててクロスライフルは光弾を発射した。光弾は狙いを違わず、一直線に魔人の胸の魔石へと放たれた。
「よし!ナルミ!命中だ!」
ユーリはそう叫ぶと背中のバッグからホバーボードを引き抜き、ラーシャの落下地点目掛けて疾走した。ユーリは風魔法を操る。ユーリの風魔法はラーシャの身体にまとわりつくとその落下速度を緩やかにしていた。
「ラーシャ!怪我はない?」
ユーリはラーシャを受け止めるとホバーボードを蹴り上げてラーシャを抱えたまま着地した。うーん、何て素晴らしい運動神経なんだろう。
「うん、怪我はない!ユーリとナルミが助けてくれるって信じていた!」
ユーリはラーシャの頭をぐちゃぐちゃに撫で回した。
「ラーシャ、何て良い子なんだ!」
私はその光景を呆然と見ていた。
ユーリ。やっぱり貴女は私達が見えないものが見えているんだね…
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