第29話 やれやれまたもや襲撃

 ユーリとムライさんは2時間ほどで戻ってきた。5人の女性を連れて。皆、エルフだった。


「ラーシャ様、本当にありがとうございました。私達はエルマ精霊国の者です。

10日ほど前に拐われて2日前にここへ連れて来られました。これから私達はどうなってしまうなだろうととても不安でした。本当に本当にありがとうございます。」

「いえ、それよりも無事であった事が何よりです。ユーリさん、ナルミさん。ありがとうございます。」

「いや、これはこちらの国の落ち度もあるよ。だって商人を取り締まれていないのだから。憲兵隊と連絡が付いている。商人も含めてこいつらには相応の罰が下るよ。」


 ラーシャは大きく頷き、小さく私達に向かって黙礼した。


「あ、あの…。ユーリ様は『竜殺し』のユーリ様ですか?」


 やり取りを見守っていたエルフの一人がおずおずと尋ねてきた。


「いえ、まあ、その、はい…」

「やっぱり!お名前と強さからそうではないかと思ってました。ララーシャ様のドラゴン討伐の英雄にお会いできるなんて!!」


 ユーリとムライさんはエルフ達を助けるのに賊を3人ほど無力化してきたらしい。


「えーと。恥ずかしいので内緒でお願いします。」

「なぜですか??エルマ精霊国で『竜殺し』は稀代の英雄です。何も恥ずかしがる事では…」

「だって…。吟遊詩人が声高らかに謡んだよ。むず痒くってしょうがない…」

「へへへ、ユーリの思わぬ弱点ですね!『金の髪を靡かせた少女は…』」

「あーー、やめろやめろ!」

「『ドラゴンの羽を切り落とし…』」

「もう!ナルミ!頭を撫で撫でしちゃうぞー。」

「あ、毛が抜ける!やめてください!!」


 イチャイチャし出した私達をラーシャを初めとしたエルフ一行は生暖かい目で見ていた。

 




 盗賊達は全員捕縛して木に括り付けた。ヨームが手配した憲兵隊が来るまでは飲まず食わずになるが反省してもらおう。

 5人のエルフはエルマ精霊国まで一緒に連れて行くことにした。盗賊達と一緒に置いていけないし、彼女達も自分の家に帰りたいよね…

 思わず人数が増えた一行は森を抜ける。それにしてもさすがはエルフ。森の道にも慣れているし、食糧の調達もお手のものだ。森の民、侮りがたし!


 8日目の昼に私達は森を抜けた。夕方頃には国境近くの村に着く。明日、朝に国境へ出発して明後日の朝にラーシャをエルマ精霊国の騎士団に引き渡す予定だ。


「ラーシャ、ちょっと淋しくなって来ました。」


 この旅の間に仲良くなった私達は早々に別れを惜しむ。


「ナルミさん、是非今度エルマ精霊国に遊びに来てください!歓迎します!」

「そうですよ。私とメルですっごいご馳走を作ります!」

「へへへ、楽しそうだな。行きたいですね、ユーリ。」

「うん、私はララーシャに会いたいよ。あいつ、元気かな?」


 懐かしそうな顔でユーリがつぶやいた。


「でもエルマ精霊国は景色もきれいなところが多いんですよ。王城だけだと飽きてしまいます。私達に色々と案内させてくださいね。」


 5人のエルフ達も口々にエルマ精霊国に遊びに来るように誘う。


「そうだね、ナルミ。今度、遊びに行こうね。」


 夕方、私達は国境近くの村の宿に着いた。

 宿に今夜の空きを確認する。幸い人数分空いているようだった。しかし、


「ユーリ、何かおかしくないですか?」

「うん、魔獣がいる時の気配がするよ。ハンナさん、メルさん。空間認識魔法をお願いできませんか?」


 ハンナさんとメルさんはすぐに魔法を使う。


「囲まれていますね。魔石から作られた魔獣だと思います。」


 魔獣は2種存在する。魔力が澱み、植物や虫、動物に作用した自然発生的な魔物。もう一種は魔石を使って人為的に作り出した魔物。

 前者は強大な力(魔力を含む)を持つが基本的には生き物だ。植物や虫、動物と同じように多大なダメージを受けると死ぬ。しかし、後者は魔石を破壊しないと死なない。ハンナさん達が感知したのは魔石を持つ魔物。倒すには魔石を破壊する必要がある。

 私達は5人のエルフを宿に残して宿の外に出た。辺りはそこはかとなく獣の匂いが漂っていた。


「ムライさん、ラーシャをお願いします。ハンナさんは私と、メルさんはナルミと行動してください。ナルミ、出来るだけ数を減らしたい。お願い!」


 私は大きく頷くとメルさんに魔獣の位置を教えてもらう。


「あの山の木陰に20、逆側の川向こうに15です。」


 私は川向こうで離れたところにいる魔獣を狙撃することにした。ユーリには近くにいる魔獣を相手してもらう。


「ユーリ、私は川向こうの魔獣を狙撃します!」

「わかった!ナルミ、よろしく。」


 私は川向こうに視線を向ける。


「ナルミさん、少しずつこちらに近づいて来てます。」


 メルさんの言葉に私は頷いた。

 クロスガンを構える。そして集中する。魔石の放つ魔力を探るんだ。場の空気感が変わる。辺りに殺気がこもる。


「ナルミさん、来ます!」


 狼型の魔獣が飛び出して来た。速い!だが、私のクロスガンの方が速い。魔獣が川を越える前に倒す!私は魔獣の中の魔石を感じながらクロスガンを撃った。


『ピシ、ピシ』


 私が放った光弾は魔獣の魔石を確実に砕いていく。しかし、数が多い。3体の魔獣が川に飛び込んだ。


「ちっ!」


 私は小さく舌打ちすると川を渡り切る前に魔獣を狙撃する。1体外した。私はもう一度、クロスガンに魔力を込めて狙撃した。次は外さない。魔獣は魔石を砕かれてそのまま倒れ込んだ。


「ナルミさん、空から来る!」


 メルさんの警告に空を見上げると翼竜型の魔獣がこちらを目指して飛翔して来ていた。


「メルさん、川を渡って来ている狼型の魔獣をやっつけます。メルさんはムライさんの所まで下がって!」


 私は武闘大会でもらった魔刀を抜くと川を渡ってきている魔獣のところまで走った。先ずはクロスガンを一掃射!やった!2体が倒れ込んだ。あと3体!


▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️


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