第28話 やっぱり盗賊
大使館の庭へ行くとメルさんとムライさんが馬の手綱を握って待っていた。お互いに挨拶をする。
ムライさんのユーリに対する尊敬の念がすごかった。ユーリってエルマ精霊国だと英雄なんだな。改めてユーリの顔をまじまじと見てしまう。
「何だよ…」
「いえ、ユーリはやっぱり化け物美女なんだなと思いまして…」
「…」
王都の関所を何事もなく通過して王都の外に出る。しばらくはのどかな畑作地帯が広がる。
エルフの皆さんは長い耳を隠すために頭に布を巻いていた。王都には数は少ないがエルフも住んでいるが、田舎になるとエルフは珍しい。目立たないための配慮だった。
王都から街道沿いに最初の宿場町を目指して進む。特に異変もなく、順調に旅程をこなす。
「え!メルさんは国境近くのバフ村の出身なんですか?私は国境のこちら側のドルク村の出身です!」
「本当ですか?私、交易で何度もドルク村に行った事がありますよ!もう40年も前の事ですが…。
お芋をたくさん買って馬車に積んだの。農家のお子さんとたくさん遊んだなあ。ナルミさんに似た女の子。もしかしたら親戚かもしれませんね。」
私はピンと来ていた。ドルク村は小さな村だ。私の実家は代々農業を営んでいる。農家は10軒。昔から馬鈴薯を栽培しているのは私の家だけだ。
「メルさん、その子は私のお母さんだと思います。」
そして私はお母さんから教わった手遊びをメルさんに見せた。
「お母さんが昔、エルフのお姉さんから教わったそうです。」
『ぐー』がジャンプ、『一本指』が右を向いて『チョキ』がしゃがむ、『三本指』が左を見て、『4本指』がバンザイ、『パー』が変な顔。
鬼が作った手の形を見て皆んなで動作をする。失敗して鬼に指摘された人が次の鬼。10回鬼になる、または鬼が10回皆の動作を失敗させられなかったら負け、罰ゲーム。
「懐かしいわあ。そうか、ナミはナルミさんのお母さんなのね?」
確かにナミは私のお母ちゃんだ。そうか。良くお母ちゃんが話していたエルフのお姉さんがメルさんなんだ。私は何だかうれしくなってしまった。
「今度、ドルク村に帰ったらお母ちゃんにメルさんの話をします。楽しみだな。」
「ナルミ、ラーシャを送り届けたらドルク村に寄ろうよ。近いじゃん!3日くらい帰るのが遅くなっても構わないよね。」
私は村にもう2年くらい帰っていない。確かにドルク村は通り道ではないが近い。
「良いんですか?」
「うん、その代わり私もナルミの家に泊めてね?」
「はい、全然構いません!」
あー、思いがけず楽しみもできた。私はこの任務に楽しさを見出していた。
◇
旅は5日目まで順調だった。しかし、森林地帯に入って少し進んだところだった。
「ユーリさん、ナルミさん。かなりの人数が潜んでいます。」
ハンナさんとメルさんが辺りを気にしながら警告してきた。さすが、お姫様付きのメイド、優秀な魔法士だ。ムライさんも剣を抜いて辺りを警戒する。
「ユーリ?」
「うん、盗賊かな?殺気が鋭くないね。」
それは私も感じていた。こちらを狙っているにしては雰囲気が弛緩している。私もクロスガンを右手に構える。
「ふえふえふえ、美女揃いだな。おや、もしかしてエルフか?男もエルフだな。俺達は運が良い!高値で売れるぞ。
おまえ達、あまり傷つけずに捕まえろ!人間の女は俺達の慰みものになってもらうか…悪いようにはしねえから大人しく武器を捨てろ…」
何て下卑た笑いをするのだろう。全身にゾワゾワと鳥肌が立った。周りから同じような下卑た顔をした盗賊が20名ほど現れた。弓矢を構えているのが6人か…
「武器を捨てないと串刺しになるぞ。」
ニタニタニタ。ゾワゾワゾワ。うー、あの笑い顔をみていると鳥肌が立つ。
ダメだ、我慢できん!私はクロスガンに魔力を込め、光弾を撃った。光弾は空中で分裂すると弓矢を持った盗賊達に襲いかかった。
これは『魔力コントロール』が巧みだ!!と煽てられた私が編み出した技だ。複数への同時攻撃!威力も射撃の精密さも今ひとつだ。中級騎士相当の実力者には簡単に防がれてしまうだろう。だが、今はこれで充分!複数の光弾は私の狙い通り弓矢を構えた盗賊を貫き、無力化した。
そして、この攻撃を予見したかのようなユーリの動き。刀を抜くと一気に首領の元へ走り込み、腹を力いっぱい刀で殴りつけていた。
「ほげえーー」
胃の内容物を撒き散らしながら首領はうずくまり、動かなくなった。私はその間に4人を光弾で射抜いていた。
ムライさんも賊を3人切り捨てていた。ムライさんもなかなかに巧みな剣捌きをする。ユーリは首領を縛りあげると残りの盗賊を威圧した。
「武器を捨てろ。抵抗するなら殺す!」
残りの盗賊は震え上がって手にしていた武器を捨てた。
「よし、おまえら。死んだ仲間を埋葬しろ。」
「どうやって穴を掘ればよいですか?」
「手で掘れ。」
ユーリは冷たく言い捨てると首領のところへ歩みよった。
「起きろ。アジトはどこだ?攫った者はいるのか?」
「はい、アジトは川沿いに少し行ったところにあります。5人ほど若い娘がいます。」
「売るのか?」
「はい、明後日に商人が来る予定です。」
私は通信機に喋りかける。
「カガリさん、聞いての通りです。」
『かしこまりました。副室長に手配させます。』
ユーリはそれを聞いて頷いた。
「ナルミ、ここをちょっとお願いできないかな?ムライさん、女の子を助けに行くから同行をお願いします。」
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