エルマ精霊国

第27話 エルフのお姫様

「と言う訳でして。ナルミさんが助けたエルフのお姫様をエルマ精霊国との国境まで護衛して欲しいのです。

 事がことだけに大規模な護衛は編成できません。少数精鋭とのことでお二人にお願いできないかと…」

「ヨーム、良いんだけど、特殊作戦室の尻拭いと言うのがねえ。」

「そこは目を瞑っていただいて…。お姫様はまだお若いですが、優秀な魔法士です。

 良くも悪くも人の思いを感じてしまうのです。カンネ上級騎士が救い出したことになっていますが、あの時のカンネ上級騎士の殺意がトラウマになり特殊作戦室に強い不信感を持っています。」


 そりゃそうだ!カンネの殺意はあの時、明確にあのエルフの少女に向いていた。


「それであの時に少女を救いたいという純粋な気持ちで対処したナルミさんに護衛をお願いしたいとの事なのです。」


 まあ、私は悪い気はしない。むしろ、エルフの少女に頼られた事に嬉しく感じていた。


「それと、アダルマン室長からこの任務が終わった後にナルミさんを特殊作戦室に戻しても良いとの条件提示もありました。」

「うーーー、やだ!って言いたいけどナルミは特殊作戦室に戻りたいんだよね?」


 あれ?私、特殊作戦室に全然戻りたいと思ってない?逆だ!私は特殊作戦室に戻りたくない!!


「えーと、私は…」

「ナルミ、大丈夫だよ。ヨーム、この仕事受けるよ。」


 いや、違う。私はユーリと一緒に…。何故かうまく言葉にできなかった。私はミシマ分室で仕事がしたい。こんな簡単な言葉をなぜか私は言えなかった。涙が一筋こぼれ落ちる。


「ナルミ、心配ないよ。ちゃんと特殊作戦室に戻してあげるから。」


 いや、違うそうじゃない!


「違う。違うの。わーん。」


 私は泣いた。悲しくて泣いているのではない。何故涙がでるのかはわからないけど、ユーリにはわかって欲しかった。私がミシマ分室を好きになっていることを!私がユーリの相棒になれて嬉しいことを!ユーリが優しく私の肩を抱いてくれた。


「うん、ちゃんと聞くから。大丈夫だよ。落ち着いてからで良いからね?」




 

「ごめんなさい。もう大丈夫です。」


 しばらく私はユーリの胸で泣かせてもらった。ユーリには悪いがスッキリした。


「で?どうしたの?」


 私は特殊作戦室に戻りたいと思っていない事、ミシマ分室が好きな事、ユーリの相棒で幸せを感じている事を話した。いつの間にか部屋には私とユーリだけになっていた。


「良かった…。ナルミが特殊作戦室に戻りたがっていると思って悲しかったんだ。本当に良かった…」


 ユーリはホウッと息を吐いた。


「でも、この依頼は受けよう。エルフのお姫様もナルミに護衛してもらいたいみたいだし。ナルミはどう?」

「はい、私もこの仕事は受けたいです。」

「特殊作戦室の尻拭いをしてやろうじゃないか!そして、『特殊作戦室には戻りたくありません!』って言ってやろうぜ!アダルマンの悔しそうな顔が目に浮かぶなぁ!ししし。」


 ユーリがすごく悪い顔で笑う。


「はい!アダルマン室長とカンネにこんな部署には戻りたくないです!と言ってやります!」


 私もすごく悪い顔をしてみた。ユーリよりはかわいいと思うけど…


「ナルミ、残念美女になってるよ。」

「何ですか、それ?私は美女じゃありませーん。」

「何言ってるの?ナルミは美人だよ。」


 ありがとう、ユーリ。元気出てきた!アダルマンとカンネを見返してやります!




 

 三日後、ユーリと私は旅装をしてエルマ精霊国の大使館へ来ていた。たくさん入れると爆発するバッグにギリギリまで食品や飲料、衣類などを詰めてある。

 あ、クロスライフルとホバーボードも持ってきた。何かの役に立つかもしれないからね。それにしてもユーリと旅行みたいで楽しみだな。そんな事を考えながらお姫様が来るのを待合室で待っていた。


「お待たせいたしました。」


 カガリさんみたいに一部の隙もなくメイド服を着こなした妙齢の女性があのエルフの少女を伴って待合室に入ってきた。妙齢の女性。でもエルフだからなあ。結構、長生きなのかしら。


「あ、あの。」


 エルフの少女が私に声をかけてきた。


「先日は本当にありがとうございました。私のせいで職場から追い出されたと聞いています。本当にごめんなさい。」


 思わず私はユーリを見てしまった。ユーリは楽しそうに私を見てニヤニヤしていた。もう、性格悪いんだから!


「実はあの職場に未練はないんです。あそこを離れたおかげで新しい出会いもありました。改めましてナルミ・ジェイドと申します。こっちはユーリ・ミコシバ。私の相棒です。」

「私はラーシャ・エルマです。ナルミさん。ありがとうございます。そう言ってもらえて気持ちが楽になりました。」

「いえ、本当の事ですので。逆に感謝しているくらいです。」


 ラーシャははにかんだ笑顔を見せた。


「ユーリさん。ご高名は聞き及んでいます。私付きのメイド、ハンナはユーリさんの大ファンなんですよ。」


 ハンナさんを見ると目をキラキラさせてユーリを見ていた。カガリさんのメイドライバル出現だ!


「こちらこそ、よろしくお願いします。私、お母さんとは仲良くさせてもらっていて。ラーシャにも会いたいと思っていたんだよ。」

「え?ユーリはララーシャ王女と面識があるんですか?」

「うん、ララーシャが王女になるための試練、ドラゴン討伐に一緒に行ったんだ。」


 これはもはや伝説だった。ララーシャ王女のドラゴン討伐。酒場で吟遊詩人が高らかに詠うララーシャ王女と3人の仲間の物語。私は詩の一部を詠った。


「かくして金の髪を靡かせた少女はドラゴンの羽を切り落とし、邪悪なるドラゴンを地に落としめた。そしてララーシャは地に落ちたドラゴンに氷の息吹を吹きかけ、その巨体を永遠に封じたのだった…。」


 隣でハンナさんが目元をハンカチで抑えてウンウンと頷いている。


「え?え?金の髪の少女?ユーリが?」

「うん、まあそうだよ。」


 はあ…。ユーリが極級騎士に任じられているはずだ。


「ほえーー。」

「ナルミ、何それ?」

「驚いているんです…」

「…まあ、それはそうと随行するのはどなたですか?」


 ユーリの質問にハンナさんがテキパキと答えた。


「はい、私ともう一人のメイド。それとエルフの騎士が同行します。」


 もう一人のメイドはメルさん。ハンナさんとメルさんは魔法士。騎士はムライさん。魔戦士で剣はかなりの使い手だ。随行員が少なすぎると思ったが、ユーリにはこれくらいの方が守りやすいらしい。

 ここからエルマ精霊国までは森林地帯を縦断する。なので馬車などは使いにくい。そのため、荷物を運ぶための馬を2頭は連れて行くが基本は徒歩での移動だ。国境の街まで約10日間の日程。準備は整っている。さあ、出発だ!


▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️


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