第23話 合コン1
私は息を殺して帽子を深く被り直した。今日の私の服は隊服ではない。ユーリと一緒に買った私服。このミッションは秘密裏に行なわなければならないのだ。
「うーん、ちょっと遅いな?」
私は顔を動かさずに周りの気配を探る。私がいるのはカフェの一角。カフェ・オ・レを飲みながら接触してくるはずの依頼人を待っていた。
あ、来た!相手は私と同じくらいの背丈。だがその身体は筋肉で覆われている。動きにも全く隙がない。私は少し緊張した。
「お待たせしました。ナルミさん。」
待ち合わせの相手は特殊作戦室の若き副班長、ミギだった。
「お呼びだてしてしまい、申し訳ありません。」
3日前、ユーリと街を歩いていた時に子供がぶつかってきた。わざとだというのはすぐにわかった。さっと子供を抱き上げて地面に降ろす。
「気をつけてね。」
そう言った私に子供は紙切れを押し付けて走り去って行った。
「ナルミ、何かを取られてない?」
ユーリが心配して聞いてきたが、それは大丈夫。それよりもこの紙切れ…。うーむ、と考えているうちに機会を逸してユーリに言えなかった。
後で中を確認するとミギからの手紙で『相談があるから、カフェで待つ。』とのこと。私はユーリに相談できないままに今、このカフェにいる。きっと秘密の任務だな!
「ナルミさん、お願いだ!エンジェル1号さんを紹介してくれ。」
ガバッと頭を勢いよく下げたミギを私は呆然と見ていた。うん?
「こ、今度一緒に食事でもどうだろうか?」
「それは良いですが、私に利がありませんよね…」
自分でも意識して冷たい声を出した。ふん!
「いや、あの。親衛隊にミットフィルさんっていただろ?」
うん、爽やかでカッコ良かった。ミギとダルリ、君達と違ってね!
「彼がナルミさんと食事をしたいと言うんだよ。だからさ!俺とミットフィルさん、ナルミさんとエンジェル1号さんの4人で食事に行かないか?
もちろん、ご馳走する。場所も評判の良いレストランにする!『ミハルの店』っていうんだ。聞いたことないかな?」
「はあ、ミハルの店なら知ってますよ。」
「どうだろう?」
うーん、ミットフィルさんか…。気にならない訳ではない。いや、どちらかと言うと気になる。
「わかりました。聞いてみます。でも断られたら無しですよ。」
「わかった!本当に恩にきる!よろしく頼みます!」
これが2日前。そして昨日。ユーリに飲みに行かないか?ミギとミットフィルさんと一緒に。と言うとあっさり行くと言った。奢ってくれると言うのが決定打か?
そしてそして、今日。孤児院でゲンジが行方不明になる事件をあっさりと解決して(アカネが…)、私達はミハルの店へと向かっていた。
「本当に奢ってくれるんだよね。それにこれは合コンだね!」
「ユーリ、カガリさんに合コンと言ったでしょ!すっごく機嫌悪くなってましたよ、カガリさん…」
ユーリはへへへと笑っていた。もう、かわいいなあ!
「でもナルミがミットフィルを好きだとは思わなかったな。」
「ち、違いますよ!ちょっと気になっただけです!」
「わかったわかった。今日は経験豊富なお姉さんに任せなさい!」
いやいや、ユーリ。全然わかってないし、とっても不安なんですが…
私達は約束の時間の少し前にミハルの店に着いた。ユーリが元気よくドアを開ける。
「いらっしゃいませ。」
マスターの気持ちの良い声で出迎えられる。
「あ、ユーリさん、ナルミさん!おーい、ミハル!ユーリさんとナルミさんだぞ!」
ドドドド!すごい勢いでミハルさんが奥のキッチンから飛び出してきた。
「お二人とも!本当にありがとうございました!このお店を続けて行けるのはお二人のおかげです!」
「全然よ。気にしないで。それより美味しい料理を食べさせてよ。」
「はい、もちろんです。こちら、キッチンの見える席は如何ですか?」
「あ、今日は待ち合わせしてるんだ…」
ユーリの視線の先にはミギとダルリ、ミットフィルさんがいた。
「ユーリ?ユーリってミシマ分室のユーリさん?エンジェル1号さんはユーリさん?」
ミギが驚いた!という表情で聞いてきた。
「なんだ、ミギは知らなかったのか。こちらユーリ・ミコシバさんだ。」
ミットフィルさんがユーリを紹介する。
「そ、そうなんだ。あのユーリさんがこんなに可憐な方だったとは!」
ミハルさんとマスターが気を効かせてくれて、席を進めてくれる。
「ありがとう、ミハル。今日は私、飲んじゃうよ!」
「皆んなも飲むでしょ?」
「はい、いただきます。それはそうとなぜ、ダルリもいるのですか?」
「だって、ずるいじゃないですか!俺もユーリさんと食事したかったんです!」
「まあまあ、人数は多い方が楽しいし、良いじゃない。ほらほら、ワインも来たことだし、乾杯しよ。」
ミハルさんの渾身のオードブルもテーブルに並んだ。
新鮮なイワシのマリネ、マッシュポテトにチーズを合わせたアリゴ、そして水茄子を生ハムで巻いたもの。うー、美味そうだ!
「それじゃあ、乾杯!」
ユーリの掛け声で皆で乾杯をする。ふー、たまらん。オードブルとワインが合いすぎる!
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