閑話1

第22話 アカネの一日

 私はいつも朝の5時半に起床する。うーん、と伸びをして私は隣のベッドを見やる。そこにはキリッとした顔をしてストレッチをしているカガリさんがいた。


「おはようございます!カガリさん。」

「おはようございます。アカネ。」


 いつもこの挨拶から私の時間は動きだす。


「身支度をしてキッチンへ行ってます。」


 カガリさんはコクンと頷く。私はベッドから起き出すと顔を洗い、歯を磨き、髪をとかす。ここ、ミシマ分室は魔道具がたくさんある。捻ると水が出てくる蛇口もあり、何と!特殊な魔力の込め方をするとお湯も出るのだ。何て便利なんだろう。

 身支度を整えた私は裏口に寄って届けられている野菜を確認する。近所の農家のおばあちゃんが毎日届けてくれるのだ。なんでもお孫さんが街で人攫いにあった時にユーリちゃんが助けたらしい。それ以来、おばあちゃんは恩義を感じて新鮮な野菜を毎日届けてくれている。お金はちゃんと払っているよ。

 だが本当に格安だ。多く払うと届けられる野菜も多くなって食べきれなくなるそうだ。

 そして、おばあちゃんの夢は末の息子さん(29歳独身)のところにユーリちゃんがお嫁さんとして来てくれることらしい。

 ナルミちゃんも(カガリさんも)そうだけどユーリちゃんって好きな人はいないのかな?皆んな全然、男っ気がない。はあ、皆んなと恋バナをしたいんだけどなあ。

 今日はとっても美味しそうなトマトとナスが入っていた。


「ふふふ、美味しそう!」


 私は野菜を持つとキッチンへ運んだ。


「今日の野菜はどうですか?」


 キッチンへ行くとメイド服をきっちりと着込んだカガリさんが朝ごはんの支度をしていた。


「美味しそうなトマトとナスですよ。」

「そうですね。今日はパスタにしましょうか?」


 カガリさんは魔道具のコンロに魔力を通すと火をつけて油で微塵切りのニンニクを炒める。


「はあ、いい匂い。」


 ざっくりと切ったトマトを炒め煮にしてトマトソースを作る。別で炒めたナスとパスタを合わせて『新鮮ナスのポモドーロ』。野菜だけのシンプルな清々しい朝ごはん。


「アカネ、二人を起こして来てもらえますか?」

「はい!行ってきますね!」




 

「カガリ!何これ!すごく美味しいよ!」

「はい、おばあちゃんのお野菜がとっても美味しいからですよ。」

「ああ、ユーリがお嫁に行くお家のおばあちゃんのお野菜は美味しいですよね!」

「ナルミ、変な事言わないでよー。お嫁になんて行かないから!」


 二人はとても美味しそうにパスタをかきこんでいる。ふふふ、楽しいなあ。


「ユーリ様、ナルミ様。今日のご予定は?」

「はい、ユーリと二人で孤児院へ寄ってみようと思ってます。異変はないか?見ておきたいと思って。」

「かしこまりました。では何かありましたら通信機でご連絡ください。」




 

 午前中はミシマ分室のお掃除だ。とは言ってももう充分綺麗なので、それほど大変ではない。何事も継続と維持が大切なんだと実感する。

 大変なのは魔道具のお手入れ。ここにある魔道具は魔法局の試作品が多いらしい。なので(なので??)扱いを間違えると大惨事を引き起こすそうだ。カガリさんも魔道具を磨く時は緊張した顔をしている。


「アカネ、近々魔道具のテストをするために魔法局へ行きますので覚悟しておいてください。」

「は、はい!」


 覚悟?覚悟って何だろう??


 お昼。昼食はカガリさんに料理を教えてもらいながら私が作る。

 新鮮なトマトとチキンで作る『チキンのカチャトーラ』。潰したニンニクを油でじっくりと炒め、ざく切りにしたトマトを投入。水分が飛んでソース状になってきたら焼き目をつけたチキンを入れて弱火で煮込む。

 今日はヨームさんは居ないのでカガリさんと二人で昼ご飯。パンを添えて。


「うん、よく出来ています。美味しいですよ。」


 カガリさんに褒められた。カガリさんは評価が厳しい。なので褒められたということはちゃんと美味しくできたという事だ。


「えへへ、うれしいなあ。」


 昼ご飯を食べ終わったら、魔法の勉強。

 私の夢はお母さんみたいに皆んなに感謝される魔法士になること。ユーリちゃんに誘われてミシマ分室に来て、本当にうれしく思っている。

 そして、カガリさんはすごい!魔法を系統立てて理論的に教えてくれる。感覚で行っていた事の意味がわかるようになるのだ。

 まだ、魔法を教わり出して数日だけだが目の前が開けたように感じている。


「アカネはマッパーを使えるのですか?」

「はい、カガリさんに理論を教わりましたので、基本的な操作はできます。」


 カガリさんはしばらくの間、呆然としていた。


「やはりアカネは見どころがあります。これで世の中にマッパーを使える者が二人になりました。」


 うーむ。そんなことは無いと思うけど…

 魔法の勉強は夢のような時間だ。だが唐突にこの夢の時間が終わる。ユーリちゃんから通信が入ったのだ。


『あ、カガリ!孤児院のゲンジという男の子が行方不明になってるの。マッパーで探せないかな?』

「ユーリ様、いくら私でも知らない子供を特定してマッパーに表示することはできかねます…」

『そうか…。何か良い案はないかな…』

「ユーリちゃん、ゲンジなら私が知っているから!私がやってみるよ。」

『え?アカネはマッパーが扱えるのですか?』


 ナルミちゃんが驚いたような声を出した。


「はい、やってみます!」


 カガリさんを見ると優しい顔で頷いていた。よし!私はゲンジの生体反応をさぐる。あ!いた!これはどこだろう?

 私はすぐにマッパーと空間認識で得たゲンジの情報を同期させる。


『おー、アカネ!ありがとう。あいつ、川の中洲に取り残されている。うん、動いているから元気そうだ。迎えに行ってくるよ。ありがとね。』


 カガリさんがとても満ち足りた顔をして私の事を見ていた。ふう。失敗しないで出来たかな?

 ゲンジは川へ魚を釣りに行って急に増水した川の中洲に取り残されたそうだ。(上流で雨が降ったらしい…)ユーリちゃんとナルミちゃんに新鮮なお魚を食べさせてあげたかったんだって。ふふふ、ゲンジはユーリちゃんの事が好きだからね!


 夜。ユーリちゃんとナルミちゃんは帰りが遅くなるらしい。ご?合コン?とかいうイベントに参加しているそうだ。


「きーー、許しません!ユーリ様!私は許しませんよ!!」


 カガリさんは先ほどからマッパーを睨みつけていた。今日はずっとユーリちゃんを見張っているそうだ。

 そんなカガリさんに私はサンドイッチを作ってあげる。卵とハム、トマトのサンドイッチ。


「あら!とても美味しい。ありがとう、アカネ。」


 また、カガリさんに褒められた。私もサンドイッチを食べる。食べ終わったら、お風呂をいただいて先に寝ようかな?カガリさん、、今日の夜は長そうだし…。


「カガリさん、私、お風呂いただいて先に寝ますね。」


 何かあったらしくカガリさんはマッパーに張り付いて恐ろしい顔をしていた。


「…おやすみなさい、カガリさん。」


ベッドに潜り込んだ私は手を合わせてお母さんに祈る。


「今日も何事もなく一日を過ごせました。早くお母さんみたいな魔法士になるから見守っていてね。」

 


▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️


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