第18話 第1試合開始だ!
選手の控え室へ行くとカガリさんとアカネがいた。お弁当を持ってきてくれたらしい。本当にありがたい。
「カガリ、サーラが大会に出るんだって…」
ユーリはカガリさんに取り縋って愚痴を言っていた。
「大丈夫です。ユーリ様の方がちょっとだけ強いですから。」
「それはどういう意味で??」
「ユーリ様の方がちょっとだけ、身体が丈夫です。」
「…」
「この間は人間的にユーリ様の方がちょっとだけ優れていると申しましたがあれは嘘です。まあ、人間性は私から見たら同じです。
どちらも大人気ないです。強いて言えばユーリ様はサーラ様よりちょっとだけ身体が丈夫な所が優れています。」
「…もういい。とにかくサーラに屈辱を与えてやる!くくく。」
ユーリは邪悪に笑った。
基本的にユーリはすごい美人だ。すれ違って振り向かない男はいないだろう。かわいらしい顔立ちでとても生き生きとした表情を浮かべるので、たまに同性の私でもドキッとすることがある。
しかし! ユーリはたまにすごく悪い顔をするのだ。今も悪い顔でニヤニヤ笑っている。うん、あれだな。ユーリは『残念美女』だな…
「残念美女…」
「え?ナルミ、何か言った?」
「いえ、何でもありません。」
「さて、組み合わせではサーラと当たるのは決勝戦だ。それまでにサーラ達が負けたりして。くししし。」
ユーリが変な笑い方をした。
「…」
「よし、先ずは一回戦だ!ナルミ!圧勝するよ。」
◇
一回戦は最近、地方を中心に勢力を広げている傭兵団の精鋭だった。
ちなみに私達は大会に出場するに当たり、匿名を使っている。ミシマ分室の仕事がやり難くなるかららしい。でもユーリは特定の方達にはとても有名ですが…決まりとは不便なものですね。
相手選手は傭兵という職業柄、この武闘大会で名を上げたいらしい。身体が大きく筋骨逞しい大型の盾を構えた男と長身の長剣を携えた男だった。
長剣を持った方は所作に隙がない。対して大男は一見隙だらけだ。だがあれは自分の防御力に絶対の自信があるからだろう。どう攻撃しようかな?
「ナルミ、でかい方は任せるよ。きっと石弾をぶち込んでおけば何とかなるよ。」
「わかりました。ではそのように行きましょう!」
私達はゆっくりと舞台へ上がった。
「お姉ちゃん達が相手かい?」
大男が大丈夫か?というように声をかけてきた。
「うん、大丈夫だよ。あまり油断しない方が良いよ。」
ユーリが大男に心配気に言った。
「そうだな。この武闘大会に出場しているんだ。只者な訳がないな。」
「ああ、そういう事だ。最初から全力で行かせてもらう。」
長身が表情を引き締めながら言った。私もぐっとクロスガンを握りしめる。
「侮らない所が強者ですね。」
私は大男と長身に微笑みかけた。
「お手柔らかにたのむぜ!」
私達はお互いに武器を構える。
『それでは一回戦第一試合を開始する。お互い礼!試合開始!』
試合開始と同時に私はクロスガンに魔力を流すと大男に向けて石弾を無数に発射した。一発一発の威力は高くない。だが切れ間の無い連射だ。大男は盾を構えて動けなくなる。
「ぐ、これはたまらん。」
大男の盾が徐々に削れていく。
「オンジ!援護してくれ!やられる!」
大男が長身に助けを求めたが、長身も大男を助ける余裕はなかった。ユーリが長身が繰り出す剣の隙間をかい潜りながら肉薄しようとしていたからだ。
「くそ!攻撃があたらない!しかも速い!」
水平に振るわれた鋭い斬撃をユーリは長身の足元に潜り込むことでかわし、刀を下段から振り上げた。ユーリの刀は長身の腹をとらえる。
「ぐぼっ。」
嫌な音を残して長身が倒れ込んだ。意識を無くしたらしい。
「降参だ!降参!」
私の弾丸を盾で受けきれなくなっていた大男が長身が倒れ込んだのを見て、負けを認めた。
「ふー、あなた達。本当に強いな。名前を教えてくれないか?」
「ふ、ふ、ふ。本当は秘密だが特別に教えてあげる。私達は『ラブリーエンジェルス』だよー」
キュピン!ユーリは目元でピースサインをすると片目をつぶり、舌をだしてかわいく答えた。
は、恥ずかしい…。私は顔を真っ赤にして俯いてしまった。しかもユーリ。ユーリがかわいさを狙うととっても気持ち悪いですから。
ざわざわ。
「おい、あの女の子達は何者だ?」
「ラブリーエンジェルスと言うらしいぞ?」
「聞いた事ないな。」
「俺、応援しようかな…」
ざわざわざわ
後にこの話を聞いたサーラさんが吐き捨てたという。
「はっ!何がラブリーエンジェルスよ!あいつらには『アグリーデーモンズ』がピッタリよ!!」
私達はこの後、『アグリーデーモンズ』というかわいくない!名前で呼ばれることになる。
名付けたのはサーラさんだが、きっかけを作ったのはユーリだ。本当、余計な事ばかりするよ、ユーリは!
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