第17話 サーラ
その日は朝から良い天気だった。アカネがいつものようにドアをノックする。
「おはよう、ユーリちゃん、ナルミちゃん。朝ごはんができたよ。」
今日も美味しい朝ごはん!今日はちょっと軽めの朝ごはん。鶏肉が入ったトマトスープでパンを煮た『パン粥』。器に入れた後に卵とチーズをトッピングして軽くオーブンで炙ってある。
トロトロで美味しい。胃が動きだすのがわかる!そして食後のコーヒー。脳が動きだすのがわかる。はあ、幸せな朝だ!
「ユーリ、元気が出ますね!」
私は隣でこれ以上は無いというくらいにどんよりとしているユーリに声をかけた。
「ははは、そうだね。」
「ユーリ、今日は武闘大会ですよ。早く準備して出かけますよ。」
「ははは、そうだね。」
私はカガリさんに助けを求めるべく、そっと目配せをした。カガリさんはやれやれという顔をしてユーリに声をかけた。
「ユーリ様、大丈夫です。ユーリ様の方がちょっとだけ強いですし、人間的にもちょっとだけ優れていると思います。ちょっとだけ…」
「そうだよねー。カガリは優しいね。」
「だから自信を持ってください。何を言われても過去は過去。今のユーリ様には関係ありません。」
「そうだよねー。そうだよ。よし、元気出てきた。ナルミ、今日は優勝しようね!」
うん?何だかわからないけどユーリがやる気になったみたいだ。さすがカガリさん。
「それじゃあユーリ、着替えて出発しましょう。」
◇
武闘大会の会場は軍の演習場だった。30m四方の石造の舞台が用意されている。基本、勝負は何でもあり。
ただし、命を奪うことは禁止。全部で8チームが出場するトーナメント戦。相手を二人とも戦闘不能にするか、場外に落とすか、『まいった』と言わせたら勝ち。まあ、単純なルールだ。単純なだけに奥が深い。
「はあ。」
ユーリはため息をついていた。
「何がそんなに嫌なんですか?」
「いや、近衛騎士団親衛隊とは関わりたくないというか…」
「えー。私、親衛隊にすごく憧れているんです。所作や振舞がかっこよくないですか?」
「そんなもんかね…。じゃあ、先ずは会場の下見をしますか…」
会場に行くと既に何組かの選手が舞台をみている最中だった。
「皆んな、強そうだな…」
「そう?私にはナルミの方が強く感じるけどね。」
「そうですか?ユーリにそう言ってもらえると自信になります。」
私達は舞台に上がり、足元の感触を確かめた。
「ユーリ、見てください!親衛隊の皆さんですよ。今回は副長格のお二人が出場するみたいです。
あ、隊長のサーラさんだ。私の憧れの人なんですーー!
あっ、こっちを見た。ねえ、ユーリ。サーラさんがこっちを見てますよー。あっあっ、目があった!あっ、こっちに来るーー!どうしよう!」
舞い上がっている私を横目にとっても冷めているユーリ。
サーラさんはツカツカと私達の目の前までやってきた。本当に美女!ユーリも美人だけどタイプが違う。サーラさんはクール系。
あー、良い匂いもする。私は挨拶をしようと口を開きかけた。
「あ、あの、私は…」
「久しぶりね、バーサクデーモン。あなた、大会に出場するのね。それはそうと相変わらず、皆に迷惑かけて生きているのかしら?」
え?何?何?
「は?何言ってるの。皆に迷惑かけているのはサーラでしょ。クラッシャーデビルって誰のことだったかしら?」
「何ですって!人が気にしている事をズケズケと。育ちの悪い人ってこれだから嫌ですわ!」
「何を!私の事をバーサクデーモンと最初に言ったのはお前だろ!」
「は?何と言ったですって?」
「ば、バーサクデーモン…」
「ほーほほほ。あなたにピッタリなお名前ですわ!」
「ぐぬぬ。口だけは一人前だな!サーラ。いつも私に負けて泣きべそかいていたくせに!」
「何ですって!!そんな昔の事を持ち出して何言ってるのよ!」
「はっ!この間だって私に負けただろ。あの時の一撃は見事に決まったなあ。自分でも惚れ惚れした。」
「きーー、悔しい!マズル、マズル!!」
サーラさんは副官のマズルさんを呼んだ。
「大会に出場予定だったミッダーは昨日からの腹痛のために棄権します。代わりに責任をとって私、サーラ・ノーマンが出場します。手続きをするように。」
マズルさんはギョッとした表情を浮かべていた。
「えーと。」
「決定事項です。早くしなさい。」
マズルさんは苦笑を浮かべてユーリを見ると会釈をして下がった。
「ユーリ、私も大会にでるわ!ギッタギタにしてやるから覚悟なさい!」
そう言うとサーラさんは親衛隊の人達の所へ戻って行った。
「ナルミってあんなのに憧れてるの?」
「え、えーと。」
「まあ、いいわ。サーラ、返り討ちにしてやる!」
くくく、とユーリは不気味に笑った。
な、なんか変な事に巻き込まれている?私、大丈夫かしら??
▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️
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