武闘大会
第16話 武闘大会へのお誘い
『コンコンコン』
何だ、何だ。昨日は遅くまでユーリと事務仕事をしていたのだ。疲れているのだ。
隣のベッドを見るとユーリもおへそをだしながらよだれを垂らして寝ていた。
あーあー、ユーリ。風邪ひきますよ。私はそれを見ながらまた夢の世界へ引き込まれる。
『ドンドンドン』
もー、うるさい。さすがのユーリも顔を上げた。いや、また寝た。よし、私も寝よう。
『バンバンバン』
わかった!わかったよ!私は寝ぼけ眼で部屋のドアを開けた。そこには小さなメイド服を着たアカネが笑顔でたっていた。
「ナルミちゃん、おはようございます。」
「あ、はい。おはようございます。」
「朝食の準備ができていますので、食堂へお越しくださいね。ユーリちゃんはまだ寝てるの?」
私は黙ってだらしなく寝ているユーリを指差した。アカネはズカズカと部屋に入って行くとユーリの耳元で、
「ユーリちゃん、おはようございます!ご飯ですよ!」
元気に言った。さすがのユーリもガバっと起き上がるとアカネを見てすくっと起き上がった。
アカネ、すごいな。ユーリが起きた。と思っていたらユーリはすごい勢いで着替えだした。
「アカネ、今日はダメだ!私は用事があるからご飯を食べている時間はない!すぐに出かけるよ。」
「ユーリ、何かあるのですか?私も一緒に…」
「ナルミ!ナルミも一緒に出かけるよ!」
そんなユーリをじっと見ていたアカネがユーリの腕を掴んだ。
「カガリさんの言うとおりでした。今日は何も予定は無いはずです。さあ、ご飯を食べに行きますよ。」
アカネはユーリの腕を引いて食堂へと誘った。
「さあ、ナルミちゃんも行きますよ。」
食堂に降りると珍しい人物がテーブルについてご飯を食べていた。
「カガリの飯は絶品だな。すごく美味い!」
今日のメニューはきのこがたっぷり入ったオムレツとパン、サラダか!いやいや。
「室長!おはようございます。」
「おー。ナルミ。どうだ。慣れたか?」
「はい、毎日驚く事ばかりですが、何とかやってます。」
「それは良かった。で、ユーリ。お前はどこに行こうとしている?」
「い、いや、その…」
ユーリが室長から逃げようとしている?
「まあ、二人がいるならちょうど良い。頼みがあってな。」
「はい、何でしょうか?」
「ダメ!ナルミ!聞いちゃダメ!ろくでもないことなんだから!」
「ユーリ。お前にそんなことを言う権利はないぞ!」
「いやいや、室長!この間なんか、書類を届けるだけだからって言うから引き受けたら、国家転覆を企てる貴族の告発状だったじゃない!
そのまま、巻き込まれて貴族討伐の先遣隊を指揮したんだからねー。」
おやおや?これは3ヶ月前の地方貴族の討伐戦のことか?特殊作戦室にも出動命令が出て私も待機していた。
だけど、初戦で2,000人の兵を抱える地方貴族が100人ほどの強行偵察隊に大敗してそのまま城を開け渡した争乱のこと??
「あの100人で2,000人の軍を敗走させたやつ?」
「そうだよ!大変だったんだから!絶対、やらない!無理!室長の仕事は無理!!」
いやいや、あれ!ユーリだったんだ。特殊作戦室でも話題になっていた。どれだけ巧みな用兵をしたんだろうって。指揮官の素性がわからないって魔法士達が噂してたな…。
ユーリ、どんだけ規格外なんだろう。うん、これは化け物だな。
「化け物美女…」
「え?何?ナルミ、何か言った?いやいや、それはどうでも良い!室長!本当に無理!嫌だ!」
「ふ、ふ、ふ。ユーリ!そんな事はこれを見てから言うんだな!!」
室長はそう言うと手にしていた巻物を広げた。そこには…
「げっ!」
その長い長い巻物にはユーリへの苦情、陳情、嘆願、破壊した物品、病院送りにされた一般兵などなどが細細と書き込まれていた。
「俺とヨームがこれを処理するのにどれだけの労力と時間、金を使ったと思っている??」
ユーリは床に手をつくと力なく項垂れた。
「ふ、ふ、ふ。分かれば良い。」
室長は勝ち誇った顔でユーリを見下ろした。
「それで仕事の内容なのだが…二人に武闘大会に出てもらいたい!」
ユーリと私は顔を見合わせた。
「ああ、ペアでの武闘大会なんだ。出場するのは国軍の各部隊の選りすぐりだな。お前達にはこの大会で優勝して賞品を必ず手に入れてほしい。
まあ、お前達二人なら優勝も難しくないだろう。」
「あ、あの室長。賞品って何なのですか?」
「魔刀だ。あと副賞として『ごうかなシャンデリア』だな。」
「なるほど。魔刀ですか。価値あるものなのでしょうね。」
「あー、剣士を目指す者なら喉から手が出るほどにほしいだろうな。
でも手に入れてほしいのはシャンデリアだ。オードリー侯爵との約束なのだ。
アカネを引き取る条件としてヨームが引き出した条件がこのシャンデリアを献上すること。手を回していたのだが、手違いがあって武道大会の景品になっちまった。」
豪華なシャンデリア??侯爵なら好きに作れば良いのに…と思ったが口には出さない。アカネのために色々と融通してくれた貴族様だからね。
「あ、魔刀はお前らにやるよ。」
「えーー、私はいらないよ。」
「ユーリ!私はほしいです。魔刀!
しかもアカネのために尽力してくれた方のお願いですよ?やりましょうよ!
それに、私は魔刀がほしいです!魔刀!」
「ナルミ、本音がでてるよ…。魔刀がほしいのね。わかりました。室長、やりますよ。」
「いやいや、心良く引き受けてくれてうれしいよ。それじゃあ、朝飯も食ったし帰るかな?じゃあな。」
室長はそう言うと席を立った。
「そうそう、武闘大会には『近衛騎士団親衛隊』が参加するそうだ。」
「ちょっ、室長!それを先に…」
ユーリの言葉を最後まで聞かずに室長は嵐のように去っていった。あー、近衛騎士団親衛隊かー。私の憧れの部署なんだよなあー。
あれ?ユーリを見ると床に手をついて項垂れていた。どうしたの?ユーリ…
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