第15話 ユーリの過去

「ユーリ、落ち着きました?」


 私はカバンから水の入った容器を取り出すとユーリに差し出した。


「ああ、ありがとう。」


 ユーリは水を一口飲んでから、ほうっとため息をついた。


「私は孤児だったんだ…。小さい時に父母を殺されて拐かされた。拐かされてからは辛い日々だったよ。一緒にさらわれた多くの子供達が死んでいった…。私はある意味で幸運だった。

 本当に偶然…。移送されていた時に乗っていた船が座礁して沈没したんだ。あの日、私は王都の浜辺へ流れ着いて、救出されたんだ。生き残ったのは私ともう一人の女の子だけだった。助けてくれたのは室長。

 あれから室長は私の事を気にかけてくれている。その後、私はあの孤児院で暮らしていたんだ。」


 ユーリは吐き出すように言葉を継いだ。


「でもある日、孤児院が狙われた。また、子供が狙われたんだ。私は戦った。戦える力があったはずだったんだ。でも皆は救えなかった。多くの仲間が連れ去られた。

 そして親代わりになってくれていた先生が殺された。皆んなを守る力がほしい。強くそう思った。その時だよ。私が騎士になろうと思ったのは…」


 こんなに明るいユーリにも暗い過去があったのだ。私はユーリの隣に腰を下ろした。


「どのような組織が暗躍しているのかは分かりません。しかし、私も子供の未来を奪うような組織は許せません。

 ユーリ、私にもお手伝いさせてください。私はユーリの相棒ですからね!」


 ユーリは一緒、ポカンとした顔をしたが、すぐにいつものようにニカッと笑った。


「うん。ナルミ、ありがとう。元気が出てきたよ。うん、そうだよね。私には相棒ができたんだよね!」


 ユーリはそう言うと照れ隠しなのだろう。私の頭をワシワシと撫で始めた。


「ちょっとユーリ、やめてください。髪の毛が抜けたらどうしてくれるんですか!」

「へへへ、私の相棒。ありがとう。」


 私はユーリの呟いたお礼の言葉に心を揺さぶられていた。へへへ、相棒か…。




 

 結局、パトリックと繋がっていた組織については詳しい事はわからなかった。ただ、組織の目的が子供であることはわかった。


「…」


 ユーリは何も言わなかったが思うことはあったのだろう。拳を硬く握って机に叩きつけていた。

 パトリックは国王陛下自らが罰を下されることになった。国外追放は免れないと思う。ジャン伯爵家にも処分が下されることになった。重い罰であることを私は多いに期待した。


 うれしい事もあった。アカネが正式にミシマ分室の一員となり、一緒に住む事になったのだ。


「ユーリちゃん、ナルミちゃん。今日からよろしくお願いします。」


小さなカバンを抱えてやって来たアカネはそう挨拶するとペコっと頭を下げて『へへへ』と笑った。

アカネ。新人同士、仲良くしようね!!


▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️


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