第13話 突入します!


 次の日の昼間、ミシマ分室でユーリと一緒に苦手な事務仕事をしているとヨームさんがひょっこり帰ってきた。


「ユーリさん、私は疲れました。」

「はいはい、お疲れ様。」

「ヨームさん、どうでしたか?」


 私は急かすようにヨームさんに聞いた。


「はい、ジャン伯爵家は裏で悪どいことをしてますね。例の商業施設を作ろうとしているのは商家のマルクス家です。

 しかし、用地の買収がうまくいかなかったようなんです。ここに目をつけたのがジャン伯爵家です。まあ、要するに冒険者ギルドを使って地上げを始めたんですな。

 冒険者ギルドなんてマフィア組織と表裏一体ですからね。しかもジャン伯爵家が口を聞けば、表のルートを使って合法的にギルドマスターを送り込める!何て賢いのかと感心ました。」


 そうか!やはりジャン伯爵家が裏で暗躍してたんだ。


「で、魔法ネットワークの件は?」


 ユーリが渋い顔で考え込みながらヨームさんに聞いた。


「それが…。こちらに関しては詳細がわからないのです。どこかの組織が絡んでいるのは間違いないのですが。ジャン伯爵家にもこのような技術がない事は確認済みです。」

「各組織に入り込んでいる魔法士は?」

「はい、それは特定済みです。いつでも排除可能です。」

「よし!22時にミッションスタートだ!カガリは魔法ネットワークのジャミングを開始。それと同時にヨームの手配で各組織の魔法士を排除!私とナルミはパトリックの身柄を押さえるよ。

 あと、ヨームはジャン伯爵家に用地買収とパトリックの事を諦めさせて!」

「ユーリ、ジャン伯爵家に罰を与えなくても良いのですか?」

「うん、それは私達の職務領域を超えているからね。まあ、ヨームがうまくやるでしょ。ねえ、ヨーム。」


 ヨームさんは困ったように苦笑いを浮かべていた。

 




 21時56分32秒。33秒。34秒。

 ユーリと私はパトリックの私邸の庭先に潜んでいた。カガリさんが私達を中心にジャミングしているので魔法士が見張っていても気づかれないはずだ。


「ユーリ、そろそろですね。」


 マッパーには8名の人影が映っている。


「それじゃあ、手筈通りに!」


 ユーリが合図を出した。私はクロスガンに魔力を込めると石弾を生成して玄関のドアに打ち込む。石弾はドアに当たると同時に爆散し、ドアが弾け飛んだ。


「うっひょーー。ナルミ、やるね!」


 ユーリはすぐに刀を手に飛び込んでいく。そして近くにいた護衛の兵士を叩きのめす。騒ぎに気づいた護衛が近くの部屋から現れ、すぐに通信機を操作し始めた。


「なぜだ!通信機が使えない!」


 カガリさん、さすがです。私はすぐに光弾で護衛の足を撃ち抜いた。すかさずユーリが肉薄して刀を護衛に突きつけた。


「パトリックはどこ?」

「し、知らないんだ。本当だ。あの黒ずくめの奴らがミシマ分室の奇襲があるかもしれないからとどこかへ隠したんだ。」

「ユーリ、どういうことでしょう??」

「カガリ!パトリックの位置はわかる?」

『隠蔽されてますね。少々お待ちを…。』


 すぐにマッパーへ新たな印が現れた。


「カガリ、魔法士はいるかな?」

『はい、こちらは私が対処しますので、ユーリ様はパトリックを追ってください。』

「護衛が4人付いているね。」


 私もマッパーを見た。4人か…


「ユーリ、こいつらアサシンじゃないでしょうか?」

「なぜ?」

「士官学校で学んだことがあるのです。アサシンは4人1チーム、他の暗殺者から護衛対象を守る時はこのように対象を中心にした台形のフォーメーションをとると…」


 ユーリはちょっと考えた後、


「試してみよう。」


 そう言うとカガリさんを呼び出した。


「カガリ、護衛の通信のジャミングをやめてみて。」

『ユーリ様、確かにアサシンです。解析できていませんが、符牒でやり取りを始めました。』


 アサシンは任務中の会話は基本的に仲間だけがわかる符牒を使う。


「ナルミ、毒を使ってくるよ。気をつけて。」

「はい、ユーリ。」


 ユーリと私はパトリックがいると思われる部屋の前まで忍んだ。きっと私達の存在はアサシンには勘づかれているはず。

 ジャミングで空間認識魔法を阻害できても人の発する気配までは消せない。私達も出来るだけ忍んでいるが気配を読むに聡いアサシンをだし抜けるとは思えない。ならば正攻法だ!


「ユーリ、突入します。」


▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️


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