第12話 さあ、行動開始だ
「ユーリ、うまくいきましたか?」
「うん、上々だよ。」
ユーリと私は冒険者ギルドでパトリックを煽った時にカガリさんからの指示で小さな小さな魔道具を受付のカウンターに取り付けてきた。
カガリさんが言うには『バックドア』というらしい。魔法局の試作品。
これもカガリさんにしか扱えないそうだ。魔法士は複数人で空間認識魔法などの情報を共有したり、通信する際にそのグループで強固な魔法ネットワークを構築する。外部からの干渉をシャットアウトするためにたえず魔法の周波数を変え、探知されないようにするそうだ。法則性があるのでグループの魔法士は追えるが、外部からネットワークに干渉するのはカガリさんでも難しいらしい。
そこでバックドアだ。これは魔法士の近くで魔法ネットワークの法則性を監視、解析することで魔法ネットワークに同調して内部から干渉できるようにする魔道具らしい。
うん、よくわかんない!ま、要はあれだろ。あの魔道具を介してカガリさんは冒険者ギルドの魔法士達の魔法ネットワークに干渉できるってことだろ?
それにしても魔法省はよくそんなに複雑な魔道具を作るな!カガリさんしか使えないなら意味ないだろうに…
ユーリと私はミシマ分室に戻ってきた。部屋にはカガリさんとヨームさんがいた。
「はあ、ユーリさんは外出する度に厄介事を見つけてきますね…」
ヨームさんは恨みがましい目でこちらを見ている。
「でも、ヨームだってあのエルフのお姉さんが接待してくれるお店が無くなったら困るでしょ。奴らは『ミハルの店』のある区画の店を狙ってるみたいだよ。あの近くだったよね、エルフのお店…」
「そ、それは困ります。ユーリさんから多大に受けるストレスを解消する場所がなくなったら私は死んでしまいます。」
「うんうん、それは困るね。だから、パトリック・ジャンの背後を探ってね。よろしく!」
ヨームさんは死にそうな顔をしていたが、静かに自分の机に戻っていった。
「カガリさん、バックドアは機能してますか?」
「はい、ナルミ様。問題なく。冒険者ギルドの魔法ネットワークの解析も順調です。」
よくわからないけど、カガリさんの技術はすごいな!もし、カガリさんが特殊作戦室にいたら、私が追い出されることはなかったかもしれないな…
「ナルミ様、これをお受け取りください。」
カガリさんはそう言うと、通信機とマッパーを手渡してくれた。通信機は耳に引っ掛けて口元の音を拾うタイプ。
「新型です。ユーリ様も同様のタイプをお使いください。」
早速、装着してみるとしっかり固定されているし、邪魔にもならない。便利だな。
「あと、こちらも。」
カガリさんは最後に背中に背負うタイプのカバンをくれた。あ、これもユーリとお揃いだ。
「おおー、カガリさん。このカバン、すごくないですか?なんか、たくさん入りますよ。」
「はい、これも魔法局の試作品です。カバンの中の空間を無理やり広げて見た目よりもたくさんの物が入るようになっています。」
なんと!便利だな!
「あまりたくさんの物を入れないようにお気をつけください。空間が歪んで爆発しますので。」
「…」
こんなんばっかりだな、魔法局の試作品。
「それではユーリ様、ナルミ様。これから私は冒険者ギルドの魔法ネットワークを探ります。そうですね…2時間後にご報告いたします。」
「はい、よろしくお願いします。」
ユーリは私の袖を引いて言った。
「ナルミに通信機とマッパーの使い方を教えてあげる。」
「はい、ありがとうございます。」
ユーリはお花のように艶やかな顔をしてニカッと笑った。
◇
「お二人ともよろしいですか?」
あれからきっちり2時間。まったりとお茶を飲んでいたユーリと私はカガリさんによばれた。
「通信機の会話や魔法ネットワークの流れを調べてみました。わかったことが二つあります。」
私は背筋を伸ばして座り直した。
「一つはパトリックの狙いが『ミハルの店』周辺の立退だという事です。パトリックの実家であるジャン伯爵家はあの土地に大規模な商業施設を誘致しようとしています。
パトリックは嫌がらせで周辺から住人を追い出して安く土地を買い、高値で売り抜けるつもりのようです。」
何て事!でもそんなに簡単に行くか??
「もう一つは冒険者ギルドの魔法ネットワークに商業ギルド、憲兵隊、市政官事務所が組み込まれています。
これは巧妙に隠匿されており、バックドアがなければ明らかにできなかったでしょう。数名の魔法士が魔法ネットワークを使って組み込まれた組織の職員を洗脳していますね。
ただ、それほど強い呪縛ではありません。数時間で解けてしまうし、連続で施せないほどの呪縛です。」
そうか!だから憲兵隊で行動の怪しい人物が日によって変わったのか!
「しっかし、憲兵隊の魔法士は何やってんだ…。洗脳されていることに気がつかないなんて…」
「先程も申しました通り、かなり巧妙に隠匿されている魔法です。かなり優秀な魔法士でも気づくのは至難の業かと。」
「そうなんですね。ここにも同じ事をされたら嫌ですね…」
「こんな事をできる魔法士もそうそうおりませんし、誰かが職員として組織に入りこむ必要があります。しかも、気づかれないように微妙な調整が必要なのでしょう。
そのため、この呪縛はそれほど強い洗脳を施せないのです。でも、私には通用しません。私がここにいる限り、大丈夫です。」
なるほど…
「で?カガリはこの魔法をジャミングできるの?」
カガリさんは何でそんな当たり前のことを聞くんだという顔をしていた。
「ごめん、簡単なんだね。それじゃあ、後でジャミングをお願いしようかな。」
「今じゃなくても良いのですか?」
「うん、ヨームがお仕事してからお願いするよ。」
自分の机で鼻毛を抜いていたヨームさんがビクッと身体を震わせた。
「え?ユーリさん、私にジャン伯爵家を探れ!なんて言いませんよね。」
「ジャン伯爵家とパトリックの周辺を探って商業施設の誘致と金の動きを教えて。」
ヨームさんはそれを聞いて情け無い顔をした。
「ユーリさん、私には年老いた母がおりまして。私に何かあったら母の面倒が見られなくなってしまいます…。ジャン伯爵家を探るなんて危険な事は出来かねます…」
ユーリはヨームさんの事をジトっとした目で見た。
「ヨームのお母さんは去年、亡くなったでしょ。何言ってんの。じゃあ、頼んだよ。」
ヨームさんはため息をつくとどこかへ出かけて行った。がんばれ、ヨームさん。
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