第11話 敵情視察
ユーリと私は『ミハルの店』へ戻ってきた。マスターとミハルさんに事の経緯を報告した。
「はー、憲兵隊も混乱しているのですね…」
マスターが深いため息をついた。
「ユーリ、魔法士の仕業ですよね。」
「そうだね。カガリに対策をお願いするか…。その前にミハルさんの野菜のパスタを食べようよ。とっても美味しいんだ!」
ミハルさんはトマトやナス、ズッキーニなどの夏野菜を細かく切り、オリーブオイルで炒めてパスタと絡め、生ハムとハーブをあしらった夏らしい一皿をだしてくれた。夏の太陽の力を凝縮したような味!身体から毒素が抜けていくようだ!
「はー、ユーリ。この料理のためなら私は冒険者ギルドだろうが、憲兵隊だろうが喧嘩を売りますよ。」
「やっぱりナルミも食いしん坊だね。」
「だって守れるはずの物を守れないのって悔しいじゃないですか。」
「よし!ナルミ。冒険者ギルドに行ってみよう。先ずは敵情視察だ!」
「ユーリさん。ユーリさんがお強いのは知ってますが無理はしないでくださいね。」
「ミハルは心配性だな。ナルミもいるから大丈夫だよ。」
ユーリはミハルさんとマスターに親指を立ててニカっと笑ってみせた。
◇
実は冒険者ギルドはミシマ分室のすぐ近くにある。2ブロック先の建物だ。
「なんか、ミシマ分室と違って立派ですね。」
私はミシマ分室の外観と思わず比べてしまった。ユーリはがさごそと通信機を操作していた。
「よし、カガリの準備もできたから行こうか!」
私達は連れ立って冒険者ギルドのドアを勢いよく開いた。その勢いに建物にいたガラの悪い冒険者達の視線が集まる。
しかもドアを開いて入って来たのが、若く美しい女性だったので合わせて好奇の視線も集めてしまった。
私達は受付のカウンターへ行き、獣人の受付嬢に話かけた。
「冒険者登録したいんだけど。」
あーー、なんてテンプレな展開なんだろう。ここで乱暴な冒険者が因縁をつけてきて、それを私達が華麗にぶちのめす。うーん、ワクワクする!!と思っていたのに…
「あれはミシマ分室のユーリだぞ。」
「本当か?」
「ああ、確かにそうだ。」
「おい、お前ら目をあわせるなよ。殺されるぞ。」
あれ?思っていた展開じゃない…とそこへ身なりの良い小太りな男が近づいてきた。
「美しいお嬢様方。私は冒険者ギルドのギルドマスターを勤めておりますパトリック・ジャンと申します。良ければ私がご案内いたしましょう。」
ああ、こいつが噂のギルドマスターか!きっとユーリの顔を知らないんだな。周りの冒険者がソワソワしながらこちらを見守っている。ギルドマスターを止めたそうだな。
「あなたが噂のギルドマスターですか!お会いできて嬉しいですう!」
ユーリ…、その声はどこから出しているんですか?キャピキャピボイスじゃないですか!ちょっと気持ち悪い…
「いやいや、私の方こそですよ。こんなに美しい女性、しかもお二人だなんて!感激です。お嬢様方。パスを拝見してもよろしいですか?」
ユーリはおもむろにパスをパトリックに突きつけた。
「ほう。ユーリ・ミコシバさんとおっしゃるのですね。実に美しい名だ。ユーリ・ミコシバ?ユーリ!!」
パトリックはすごい勢いで後ろに後退りした。
「お前がユーリ!」
「今日は挨拶だけだ、パトリック。だが覚えておけ。お前はミシマ分室に目をつけられた。逃げられると思うなよ。」
ユーリはそう言うと建物の出口に向かう。
「おい、お前ら。そいつを止めろ!!」
パトリックが怒鳴るがその声に応えようとする冒険者はいなかった。出口まで人垣が割れて道ができる。ユーリと私はそこを悠々と進む。
「お、お前らこそ!後で吠え面をかくなよ!!」
パトリックの叫び声が虚しく響いていた。
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