第10話 ブッ飛ばすぞ!!
つ、疲れた。あの後、ユーリと5軒も店をまわった。お陰でとってもかわいい服を数着買うことができた。お揃いの部屋着も買った。
お揃いのスリッパもマグカップも!へへへ、お父ちゃん、お母ちゃん!もう私は田舎者じゃないよ!楽しかった。でも疲れた…
「ナルミ、お昼ご飯を食べよう。ここ、すごく美味しいんだ。」
ユーリが連れて来てくれたのはとてもおしゃれなレストラン。『ミハルの店』
「ユーリ、高いんじゃ…」
「平気平気。ここはお姉さんが奢っちゃるよーー。」
ユーリは元気にお店のドアを開けた。
「いらっしゃいませ…」
「あらあら、どうしたの。マスター、元気ないね。」
「ユーリさん。いえ、何もありませんよ。おーい、ミハル。ユーリさんがいらっしゃったぞ。」
店の厨房から若い女性が出て来た。あら、かわいい。
「ユーリさん、いらっしゃい。今日は夏のお野菜が美味しいですよ。」
「いいね。お任せで作ってもらおうかな?」
「はい、かしこまりました。ユーリさん、そちらの方は?」
「うん、ナルミって言うの。私の相棒。」
「え、ユーリさんの相棒!!」
ミハルさんとマスターは顔を見合わせて驚いていた。うーん、気になる反応。私の相棒はどれだけ人外なんだろう…
「それはそれは。ナルミさん、何か嫌いな物はありますか?」
「いえ、特にありません。」
「それじゃあ、少々お待ちくださいね。」
ミハルさんは厨房へとさがった。私達はマスターの案内で窓際のとても外がきれいに見える席に案内された。
「では少々お待ちください。」
マスターが下がった後、私はユーリさんに聞いた。
「とても雰囲気の良い店ですね。でも…」
「うん、そうなの…。お客さんも私達しかいないし…。どうしちゃったんだろ…」
その瞬間だった。店のドアが乱暴に開かれて、チンピラ風のガラの悪い男達が5人も店へ入ってきた。
「なんだ、あいつら。」
ユーリは不機嫌な様子で男達を睨みつけた。その刺すような視線に気づかずに男達はマスターへ声をかける。
「おら、お客様だぞ!酒を持ってこい。」
「先日、もうこの店への出入りをお断りしたはずですが…」
「なんだと、優しく言っていればつけ上がりやがって!」
そう言うと男はマスターの胸ぐらを掴みあげ、殴りつけようとする。
私は席を立つと男の側に行った。
「やめなさいよ。」
「あーん、嬢ちゃん。俺達と遊びたいのか?」
男の汚い顔が私に近づいてきた。く、臭い…。そう思った時、男はニヤついた顔をしたまま、床に崩れ落ちた。
「ユーリ!」
ユーリは無言のまま、他の男達の急所を素早い動きで殴りつけるとフウっと息を吐いた。バタバタバタバタ。男達が床に崩れ落ちる。
「ナルミに汚い顔を近づけるな!ブッ飛ばすぞ!」
いやいや、ユーリ。もうぶっ飛ばしているから。
私は男の懐から身分証になっているパスを取り出した。
「ユーリ、冒険者ギルドの所属になっていますね。」
私は他の男のパスも取り上げる。やっぱり冒険者ギルドの所属だ。厨房からミハルさんも恐る恐るこちらを見ていた。
「マスター、こいつら何なの?」
「はい、ここ1ヶ月ほど付近の店を中心に嫌がらせをしている連中です。嫌がらせをされたくなかったら金を出せと…」
ユーリは険しい顔をしていた。これはユーリ、相当怒ってるな…
「マスター、憲兵には相談したの?」
「はい、商業ギルドを通じて訴えているのですが…。奴らのバックに冒険者ギルドのギルドマスターがいるのです。」
「ああ、評判悪いですね…。」
私も噂に聞いている。どこかの有力貴族の子息がつい数ヶ月前に新しいギルドマスターになった。元々ガラの良い場所じゃないが、最近ではヤクザまがいの連中が出入りしているらしい。
「憲兵もなかなか手が出せないらしくて…。確たる証拠が無いと難しいらしいのですが、こいつらなかなかにしたたかで…」
「ユーリ。こいつらを憲兵に突き出しましょうよ。確たる証拠ですよ。」
「そうだね。マスター、ちょっと行ってくるよ。ミハルさん、ご飯はもうちょい後で良い?」
私は男達を縛り上げると水をぶっかけた。
「うおーー。」
男達が覚醒する。
「ほらほら、憲兵隊の詰め所までキリキリ歩かんかい!」
ユーリが男達を後から蹴り上げる。うん、どっちが悪人か?わからないな。
意外にも男達は憲兵隊まで大人しくついて来た。
男達を憲兵隊に突き出すと当直の兵士がバツの悪そうな顔をした。これは何かあるな…
少し待っていると責任者だという騎士が現れた。
「店が脅されたという事だが、証言だけではなあ。それにお前達は暴行を働いたそうじゃないか!このまま帰す訳にはいかないなあ。」
腹が立つ物言いだなあ!
「なんだと!」
いきりたって思わず立ち上がった私を押しとどめてユーリが静かに口を開いた。
「マリングス隊長を呼んで。ミシマ分室のユーリが呼んでいると伝えて。」
「げ、ユーリ!」
「そう。早くしてね。」
隣に控えていた当直の兵士の嬉しそうな顔!その兵士がハキハキと答えた。
「かしこまりました!ただいまご案内します。」
責任者を名乗った男が口をパクパクしていたが、ユーリは男を無視して兵士に向き合った。
「うん、よろしくね。」
◇
「ちょっとマリングス。どういうことよ?」
ああ、ユーリさん。怒っているなあ。
「はい。情け無いところを見せております。今、冒険者ギルドは有力貴族の子息がマスターを務めています。その貴族を後ろ盾に金と力を手にし、裏稼業の連中をも取り込みつつあります。」
「ふーん。それで憲兵隊も取り込まれちゃったと?」
「はい、否定できません。裏で癒着している者がいることは明白です。」
ユーリさんは腕を組んで天井を仰ぎ見た。
「でもわかっているなら粛正できるのではないですか?」
私の問いにマリングス隊長は力無く首を振った。
「それが"変わる"のです。」
「え?どういう事ですか?」
「今日、ギルドに便宜を図っていた連中と明日、ギルドに便宜を図る連中が違うのです。」
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