第7話 仲間達
この世界には魔法と呼ばれる力を使える者がいる。魔法は自然現象やイメージした事象を己の中にある魔力を使って具現化する技。魔法はその使い手によって3タイプに分類される。
魔戦士 剣や刀を使って戦うの?が基本だが、その刀身や矢先、槍先などの武器に魔力を込めて戦う魔法使い。
魔術師 ロッド(杖)などを媒介として(使わないこともある)魔力を具現化し、打ち出す魔法使い。光矢や石の弾丸などを打ち出すことができる。
わたしは魔術師に近く、ユーリさんは魔戦士に近いかな?この2種は分類はされているが区分は明確にされていない。私も刀に魔力を込めて戦うし、ユーリさんも光矢くらい放てるんじゃないかな?
魔法士 これは特別。サポート魔法に特化した魔法使い。ヒーリングや空間認識魔法、声を遠くに届ける通信、嘘を見破ったり、ゴーレムを作り出したり。まあ、サポート力に特化しているので自分で戦う分には強くない。カガリさんがこのタイプ。
そして、今まさにユーリさんはカガリさんにヒーリングをされていた。
「ひーん、カガリーー。痛かったよーー」
「はいはい、ヒーリングしたからもう大丈夫ですよ。」
ユーリさんはカガリさんに頭を撫でられていた。カンネがビビっていた迫力あるユーリさんはどこへ行ってしまったのかな…
孤児院で倒れていた賊は黒い服を着た一団がやって来て連行して行った。ヨームさんの手配らしい。
「そう言えば副室長がユーリさんに伝えてほしいと。」
「うん?何て?」
「あの女の子アカネは国王陛下のお子様です。陛下が婚姻前に愛した平民が産んだ子です。
先日、裏社会でこの事が明るみになり、あの子が狙われていたみたいです。地位ある貴族が黒幕でしょう。母親はあの子が最初に狙われた時に守ろうとして命を落としています。一週間前の事です。
その後、陛下の御落胤とは知らない院長に引き取られ、この孤児院に身を寄せています。
特殊作戦室は争いの種を消したかったのでしょう。カンネには賊諸共、アカネを殺害するように命令が出てました。」
むむむ、ヨームさんも一体何者?先の黒服の一団といい、短時間で襲撃の背景を探る事のできる手腕といい…あの自信無さげな様子からは想像もできない。
「カガリ、ありがとう。ナルミ、さてどうしようか?」
「その前にユーリさんは極級騎士なんですか?」
「うん、そうだよ。」
何気なく答えたユーリさんに私は驚愕した。
騎士は下から見習い、初級、中級、上級、特級と階級分けされている。
極級。この階級は特級のさらに上。多大な技術と魔力、統率力を持ち、国が類稀な存在と認めた騎士に授与される。確か、今は3人いるのではなかったかしら。ユーリさんがそのうちの一人??
「も、も、申し訳ありません。ご無礼はございませんでしたでしょうか??」
私はガバッと頭を下げた。あれ?ユーリさんは黙っている?恐る恐る顔を上げるとユーリさんは私の事をジトっとした目で睨んでいた。
「ナルミ!」
「はい!」
「あなたは私の相棒です。悲しくなるのでそういう態度はやめて。」
「はあ。」
「それと、これは極級騎士権限での命令です。これからは私のことはユーリと呼ぶこと。異論は認めません。良いですね!」
「は、はい!ユーリさん!」
「ナルミ!全然わかってない!命令違反です!」
「はい!ユーリ!」
「それで良し!で、どうしようか?」
私はあたふたとしながら答えた。
「先ずは院長先生に相談したらどうでしょうか?」
◇
深夜、ユーリと私、カガリさん、そして院長先生は食堂で食卓テーブルについていた。
「そうですか…。アカネが陛下の御落胤…。」
院長先生はテーブルに置かれたお茶に目をやるとふっとため息をついた。
「アカネは母親を目の前で殺されて深く傷ついているはずなんです。
アカネのお母さんは中央でも有名な魔法士だったんです。安価で病気や怪我を見てあげたり…。困っている人を見過ごせない立派な方でした。
アカネもお母さんみたいな魔法士になる事が夢だそうです。それが目の前で…。
今も賊に剣を突きつけられて怖い思いをしているはずなのに、小さい子達を安心させようと気丈に振る舞って…。
健気な良い子なんです。私には陛下のご意向はわかりませんが、あの子を権力闘争の道具にはしたくない…」
院長先生は絞り出すように答えた。
「私もアカネには大人の事情で不幸になってほしくない…。院長先生、あの子をミシマ分室で引き取れないかな?」
「あの子が納得するのであれば私どもは構わないのですが…、可能なのですか?」
「うーん、相談してみないとだけど…。賊を察知した能力から魔法士になれる素質があると思うんだ。今からカガリに鍛えさせたら、すごい魔法士になれると思うんだよね。ねえ、カガリ?」
カガリさんはユーリの問いかけに頷いた。
「明日、アカネ様に会わせてください。」
カガリさんの言葉に院長先生は笑顔を見せた。
「手に職をつけるのは良い事です。是非、お願いします、ユーリさん、カガリさん。」
確かに教わらないで空間認識魔法を無自覚に使うなんて、よっぽどの才能がないとできない事だ。
「でも陛下の御落胤をおいそれと引き取ることなんてできるのですか?」
私の問いにユーリはニカっと笑った。
「それは我がミシマ分室の副室長さまの腕の見せ所ですよ。」
ユーリは通信機を操作した。ほどなくしてヨームさんの声が聞こえてくる、皆んなが聞けるようにもできるんだ!本当に便利だな。
『首尾は如何でしたか?』
「ああ、その事なんだけど。アカネが希望したらうちで引き取るから根回しをよろしくね。」
『いやいや、ユーリさん。私には小さな子供が3人もいるのです。そんな動きをしたら私の命が危ない。子供達が路頭に迷ってしまいます。』
「ヨームは独身でしょ!子供なんていないじゃない。何言ってるの?じゃあ、そういう事でよろしくお願いします。」
『あ、ユーリさん。待っ』
ブツ、という音と共に通信は切れた。
「これで良し!」
え、本当に良いのか??
「後は明日かな?院長先生、客間をお借りしますね!さあ、ナルミ、カガリ。今日はもう遅いから寝ましょう。」
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