第6話 ユーリの矜持
そこには女の子を抱えて剣を突きつけている男がいた。男は奇怪なマントを羽織っていた。横には孤児院の先生が二人、倒れていた。
「貴様!!」
ユーリさんが男に斬りかかろうとしたが…。
「動くな。武器を捨てて、両手を上げろ。」
男は女の子の首筋に剣を突きつけながら言った。
あの子は孤児院に来た時にユーリさんが声をかけていたアカネちゃん。
「…」
ユーリさんは刀を床へ置き、両手を上げた。
「おい、そっちの!おまえらもだ。」
私と院長先生も武器を床に置く。
「お前らの命までは取るつもりはない。感謝しろ。」
「あんた達の目的は何?」
ユーリさんの質問に男は答えなかった。
「良い装備をつけて襲ってきた割には女3人に叩き伏せられて、成果は女の子一人か…。情けないね…」
あーー、これはユーリさん、煽っているぞ。何かやるつもりだ。
「お前はミシマ分室のユーリだな。お前を再起不能にできれば多大な成果だ!おっと動くなよ。先ずは手から貫いてやる。」
男はそういうとロッドを取り出し、光矢をユーリさんに放った。
「ユーリさん!」
男が放った光矢はユーリさんの左の掌を貫き、血が飛び散った。その瞬間、ユーリさんが動いた。左手を振ると血を男の顔にかけた。
「くっ、何!」
ユーリさんはそのまま男に駆け寄ると顎を右手の掌底で捉えた。男はなすすべなく膝から崩れ落ちた。すごい!何て動きなの!
「ユーリお姉ちゃん!」
「わーん、怖かったよー」
「ユーリお姉ちゃん、血が出てるよー」
子供達がユーリさんを取り囲んだが、ユーリさんはそれを押し留めた。
「皆んな、もうちょっとだけ待っててね。院長先生、子供達と先生をお願いします。」
あの二人の先生は気絶しているだけのようだ。
「ナルミ、外の騎士を問い詰めるよ。カガリ、騎士側の魔法士をジャミングして!」
通信機に怒鳴るように言うとユーリさんは左の掌を背中のバッグから取り出した包帯で縛り、刀を拾いあげた。
◇
孤児院から少し離れた路地。あれはカンネ率いるΖ班じゃないか!私は胸がズキっと痛んだが何気ない風を装った。
「カンネ。ここで何をしているのかな?」
ユーリさんは静かにΖ班に忍びよると唐突に声をかけた。
「ゆ、ユーリ!」
「ほう。カンネも偉くなったね。私の事を呼び捨てにするとは。」
ああ、カンネのやつ!びびってる。
「おい、お前は何だ!どこから現れた!」
Ζ班の若いメンバーがユーリさんを排除しようと動いた。
「お、おい、やめろ!」
カンネの制止は間に合わない。ユーリさんは掴みかかってきた騎士の顎をちょこんと右の掌でつくと、その騎士は意識を無くして崩れ落ちた。
「カンネ、部下の躾がなってないね。」
「も、申し訳ありません。」
「カンネ、ここで何をしていた?」
「そ、それは…」
「いや、答えなくていい。すでにヨームが動いている。」
カンネは歯噛みしながらその言葉を聞いていた。だが彼らにも任務があったらしい。
「ユーリさん、賊が狙っていた女の子を引き渡してもらえませんか?」
ユーリさんは大きく息を吸うと答えた。
「理由がわからないから引き渡せない。」
「な、何を!」
Ζ班のメンバーがイキリ立つ。
「お、おまえら、やめろ。」
カンネがメンバーを制止した。ユーリさんは彼らを一瞥して言った。
「これは極級騎士権限だ。Ζ班は撤収。女の子は私が預かる。わかったな、カンネ。」
「お前は何を言っている!」
Ζ班のメンバーがさらに激昂するが、
「ま、待て。ユーリさん。かしこまりました。おい、お前ら撤収だ!」
カンネは引くようだ。去り際、カンネは私の事を睨みつけていた。何て腹が立つ!!
「ああ、カンネ。アダルマンに伝えて。ナルミをありがとうって。とっても優秀だってユーリが言っていたってね。返事は?」
「はい、かしこまりました。ユーリさん。」
ユーリさんはそう言うと孤児院へ戻って行く。私もユーリさんを追いかけて孤児院へ向かった。チラッと後ろを向くとカンネが顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいた。ああ、スカッとする!!
◇
孤児院でユーリさんは院長先生の部屋へ急いで向かっていた。何かあるのかな?
それにしてもユーリさんってすごくかっこいい!あの身のこなし!剣技!状況を見極める観察力!そしてカンネをも黙らせる胆力!ああ、憧れちゃうかも!!
ユーリさんは院長先生の部屋のドアを開けて急いで中に入った。私も緊張しながらクロスガンを構えて中に入る。部屋に入るとユーリさんはいきなり床に突っ伏して、左手を押さえた。
「ふえーーーん。痛いよーー。カッコつけるんじゃなかったーー。ナルミ、、、手が痛いよーー。助けてーー」
前言撤回。何かカッコ悪いです、ユーリさん…
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