第5話 強襲
夜のふけ始め(21時)ユーリさんと私、院長先生は院長先生の私室にいた。ユーリさんは背中のバッグから透明な15cm四方の板を取り出した。
「ユーリさん、これ何ですか?」
「これはね、魔法局の試作品。室長が持って来たんだけど、カガリじゃないと使えないのよね。マッパーって私は呼んでる。」
ユーリさんはそう言うとマッパーに魔力を通した。私と院長先生はマッパーを覗きこむ。
「おおお。」
マッパーには孤児院の見取図が浮かびあがり、赤や青の点が動いていた。
「カガリの空間認識魔法の結果を可視化するための魔道具なんだ。この青が子ども達、黄色が私達(事前にカガリがトレース済みの人)、赤がアンノウン(不明者)だね。」
「これはすごい魔道具ですね。って、いやいや。赤の位置がおかしいですよ。いつでも強襲できる位置取りじゃないですか!」
「うん、これは急がないとね。この孤児院を取り巻いている反応が騎士かな?とにかく、院長先生。先生と子ども達を奥の部屋に集めて。私とナルミで防御線を張る!」
院長先生は部屋に飾ってあった剣を取った。
「ふふふ、なんかワクワクしてきましたよ。久しぶりに暴れてみましょうか?」
「院長先生、もうお年なんだから無理しないでくださいよ。先生は子供達を守ってあげてくださいね。」
「わかってるわよ…ユーリさん、ナルミさん。怪我しないようにね。」
ユーリさんと私は頷くと静かに刀を抜いた。
「よし、ナルミ!行くよ。」
◇
「よし、皆んなは奥の部屋へ入ったね。」
ユーリさんがマッパーを見ながら言った。
私もマッパーを覗く。いち、に、さん…孤児院を強襲する位置にある赤い点が16。
「ユーリさん、この固まってる玄関の赤点からやっつけますか?」
「そうだね。そうしよう。玄関の4人を先ずはやっつけよう。よし、行くよ。」
ユーリさんと私は玄関へ走った。ユーリさんは玄関のドアを勢いよく開けると、ドアの前に忍んでいた黒ずくめな男の腹を刀で撃った。
あ、ユーリさんの刀には刃がついていない!撃たれた男は気絶していたが死んではいないようだった。他の3人が一瞬、驚いた顔を見せたがすぐに剣を抜くと私達の方へ迫ってきた。賊の一人が上段の構えから私へ剣を振り下ろす。そんなに鋭い剣筋ではない。
私は刀で賊の剣を受け流すとそのまま賊の懐へ入り、下段から真上に刀を振り上げた。
私の刀は賊の太腿の外側を切り裂く。返す刀で賊の右腕を切る。筋をうまく切れたようだ。賊は剣を取り落とした。私は賊の腹を蹴りつけて行動不能にする。
ユーリさんは?私はユーリさんを振り返った。
「!!」
私は信じられない思いだった。ユーリさんは二人の賊の剣による乱撃を紙一重でかわし続けていた。
二人の賊の剣はユーリさんを掠めもしない。驚くべきはユーリさんがほとんど動いていないこと。
あれはどういう技なんだろう。二人の賊の動きが重なった時、ユーリさんは刀を水平に振るった。ユーリさんが振った刀は二人の賊の腹を痛打し、賊はそのまま昏倒した。
「ナルミ!光矢が来るよ!」
え!どこから?と思ったがすぐに位置はわかった。ロッドを握った3人の賊が15mほど離れた門の陰からこちらに光矢を放ってきた。
ユーリさんに言われなかったら避けられなかったかも。いや、一発は避けられない!せめて急所を外そう、と思った時、ユーリさんの刀が私に当たる軌道で迫ってきた光矢を打ち払った。
「ナルミ、あの3人を撃って!」
私は左手でクロスガンを腰から引き抜くと魔力を込めて3連撃した。クロスガンから放たれた光の弾丸は3人それぞれの肩口を貫く。頭を狙っても良かったんだけど、孤児院で殺生することに気が引けたんだよね…
「ナルミ…すごいね。クロスガンを使いこなしてる…」
ふふふ、ドヤドヤ!ユーリさん!と思ったのも一瞬、あのユーリさんの動きは?あの一瞬の判断で光矢を打ち払う技!ユーリさんは何者なの?
「よし、ナルミ!子供達のいる部屋に戻ろう。連中、強行手段にでるようだよ。」
マッパーを見ていたユーリさんが言った。
◇
子供達のいる大部屋に向かうと扉の前で院長先生が剣を構えて陣取っていた。
「ああ、二人とも無事で。」
「うん、院長先生。あと少しで連中が突入してくるよ。ここの窓から6人だ。」
院長先生は頷くと窓を睨みつけた。ユーリさんも刀を構えて窓を向く。
「ナルミ!玄関の方向から3人だ!射撃が来るよ!」
私はクロスガンを玄関の方角に構える。
「来た!!」
窓が外から破られて賊が突撃して来た。それと同時に玄関の方向から光矢が連射された。
「!!」
ユーリさんと院長先生を狙った光矢の攻撃!だがユーリさんは全ての攻撃をスルッと躱すと院長先生に当たるはずの攻撃を刀で跳ね飛ばしていた。
跳ね飛ばした光矢を窓を破って突入してきた賊に向けて弾き、牽制している。すごい技術だ。
『パス、パス、パス』
私はクロスガンを撃って玄関側の賊を狙撃した。光の弾丸は狙い通り、賊の肩口を貫く。
私は急いで窓の方を見やった。ユーリさんはもう4人の賊を叩き伏せていた。院長先生が一人の賊と斬り合っている。
さすが元上級騎士!剣筋に無駄がない。私はクロスガンを向けると院長先生の後ろから賊を狙い撃った。
「ぐあっ」
この賊も肩口を光の弾丸に貫かれて悶絶する。
その時にはもうユーリさんは最後の一人の首筋に刀を打ち込んでいる所だった。ユーリさん、すごいなあ。
「院長先生、大丈夫ですか?」
「はい、私は大丈夫!だけどまだ賊はいるみたいね。」
私はユーリさんを振り返った。
「やつら、良い装備を持ってるみたいだね。カガリ、空間認識魔法が阻害されている!修正できる?」
ユーリさんは通信機に怒鳴るとすぐにマッパーを覗きこんだ。
「ナルミ!部屋の中だ!一人!」
ユーリさんはそう言うと扉を蹴破って、部屋の中へ突入した。私もクロスガンを構えて部屋の中へ駆け込む。
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