アカネ
第4話 孤児院
ユーリさんと私は夕方近くに王都の外れにある孤児院へ来ていた。
この孤児院には先生が3人と3歳から16歳までの子ども達20人が暮らしているそうだ。大きな子は小さな子の面倒をよく見るとても居心地の良い孤児院なんだそうだ。
門を開けると目ざとく私達を見つけた子ども達が集まってきた。
「ユーリお姉ちゃん!」
「おお、皆んな元気そうだねー。」
「あれ?初めましてな子だね?」
ユーリさんは12歳くらいの女の子に声をかけた。
「こんにちは。アカネと言います。」
その陰のある女の子はちょっとだけ警戒しながらも明るく答えた。
「たまに来るお姉ちゃんなんだ。これからよろしくね。」
あの子、悲しい事があったのかな?無理してる感じがする…
「おう!ユーリ!そんなこと行って全然来ないじゃないか!しかもちょっと見ない間に太ったんじゃないか??」
10歳くらいの男の子がユーリさんのお尻を撫でながら言った。
「ゲンジ…お前はあいかわらずだなーー。」
「痛い、本当に痛い!ユーリは太ってなんかいなかった、だから許してーー。」
ユーリさんはゲンジの頭を押さえつけて拳でグリグリしながら皆に聞く。
「院長先生のところに案内して。」
「はーい、こっちだよ。新しいお姉ちゃんも行くの?」
「そ。ナルミお姉ちゃんだよ。皆んな、よろしくね。」
「ナルミです。皆んなよろしくね。」
「わーい、お姉ちゃんが増えた!」
賑やかな声に送られながら私達は孤児院の奥の部屋に案内された。
『コンコンコン』
「院長先生!ユーリお姉ちゃんが来たよー」
すぐにドアが開き、50歳くらいのほっそりとした上品な女性が顔をだした。
「まあまあ、ユーリさん。わざわざありがとうございます。」
「こんにちは、院長先生。皆んな、元気ですか?」
「もう、それだけが取り柄の孤児院ですからね。おや、こちらの方は?」
「はい、今日からミシマ分室に配属になりましたナルミ・ジェイドです。私の相棒なんです。」
院長先生は目を細めて私のことを見るとたちまちに笑顔になった。
「ユーリさんの相棒なんて!優秀なのですね。」
「いえいえ、仕事に失敗してこちらに転属になりまして…」
「ふふふ、すぐにユーリさんとお仕事できる事が幸せに感じると思いますよ。」
院長先生は優しい笑顔で私に語りかけた。そうなれば良いですが…。私は特殊作戦室に戻りたいんです…
「院長先生。で、何があったんですか?」
「ああ、その事なんですが…」
◇
3日ほど前から孤児院が監視されているというのだ。最初に気がついたのはあの女の子、アカネだそうだ。無自覚に空間認識魔法を使っているのだろうか?
最初のうちは斥候が一人だったので、院長先生はそのうちにぶっ飛ばそうと思っていたらしい。
あ、何と院長先生は元上級騎士なんだそうだ。こんなに上品なおばさ、おほんおほん。女性なのにびっくりだ!
「でね。今日の昼から人数が増えたのよ。これもアカネに教えてもらったのだけど…今、10名くらいかしら。しかもね、様子を見に行ったら騎士がさらにそいつらを監視しているようなのよね。」
ああ、この粘りつくような嫌な気配はそれだったのか。それにしてもアカネちゃんはすごいな。こんなに的確に気配を読めるんだ。
ユーリさんは腕を組んでしばらく考えていた。
「院長先生。今日は新月だね。目的はわからないけど、行動するなら今日かな?」
「そう思うの。だからユーリさんに声をかけたのよ。」
ユーリさんはおもむろに背中のバッグから通信機を取り出した。
「あ、あ、カガリ。聞こえる?サポートしてほしいんだけど。場所は街外れの孤児院。騎士団もいるみたいだから、ヨームさんに背後を探ってもらって。うん、よろしくー」
そんなんで伝わるんかい!ってくらい短い会話の後、ユーリさんは通信を切った。
「よし、ナルミ!初仕事だよ!その前に夕食を御相伴になろうかな?」
ユーリさんは院長先生を見るとニカっと笑った。
◇
今、私はユーリさんと夕飯を食べている。孤児院の夕飯にお呼ばれしたのだ。私の周りには子供達が陣取り美味しそうに食事している。孤児院に資金が潤沢な訳はない。
でも無駄のない献立でとても美味しい。後で聞いたら売り物にならない食材を市場から回してもらっているらしい。
うん、この野菜がたくさん入ったスープは絶品だな!
「ユーリさん、先ほどカガリさんにサポートを頼んでましたよね。」
「うん。言ってなかったね。カガリは魔法士なんだ。特殊作戦室の魔法士よりもずっとずっと優秀だよ。」
私はカガリさんの事を思い浮かべていた。装備を選ぶ時に抱きつかれたのは私に空間認識魔法を使うためか!すべてをカガリさんに見られたようでちょっと恥ずかしくなって来たぞ…
「ご飯を食べたら色々と準備しようか?」
私達の様子を伺っていた子ども達が話しかけてくる。
「えー、ご飯食べたらお姉ちゃん達と遊びたかったのに…」
「そーだね。今日はちょっと難しいけど、明日なら遊べるかな?」
「本当!約束ね!」
「うん、約束。ナルミ。明日は朝から子供達と遊んじゃうぞ。」
「はー。私は構いませんけど…」
「よーし、それじゃあお姉ちゃん達はお仕事があるからちょっと失礼するよ。」
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