第3話 ミシマ分室
次の日の朝、私は住み慣れた寮を出た。見送りなども禁止されていたようでさみしい出立だったが構うものか!
ミシマ分室がどんな所かはわからないが構うものか!
私は自分で自分を鼓舞しながら王都の中央にある分室目指してズンズン進む!
そして、
「ここか…」
その建物はとっても古びた外観をしていた。いやいや、今私は前向きな言い方をした。うん、ボロい。すっごくボロい。お化けがでそう…
私は気を取り直すと壊れそうなドアをノックした。
『コンコンコン』
すると程なく愛想のない女性の声で上がってこいと言われた。この人が相部屋じゃなきゃよいなあ…
ドアを開けて私は驚いた。
「す、すごい…」
この建物は外観はボロボロだが内装はきれいだった。清潔感があり、チリ一つ落ちていない廊下にはきれいな花がいけられ、部屋に続く扉はピカピカに磨きあげられていた。
「ようこそ、ミシマ分室へ。ナルミ・ジェイドさま。」
身なりに一分の隙もないメイド服を着た女性に出迎えられた。
「私はミシマ分室付きの侍女をしておりますカガリ・オーエンと申します。以後お見知りおきを。」
「あ、ど、どうも。ナルミ・ジェイドです。」
「立ち話もなんですからこちらへどうぞ。」
私はカガリさんに誘われて扉の奥へとはいった。
「す、すごい…」
部屋には見たことのない魔道具が棚へ整然と並び、色々な武器が壁にかけられていた。
もしかしたら、特殊作戦室よりも装備は揃っているんじゃないかな…
呆然と部屋を眺めまわしていると部屋の奥の机の影から冴えない小柄な中年男性が姿を現した。
「ナルミさん?私は副室長のヨーム・ワームです。」
「はい、ナルミ・ジェイドです。よろしくお願いします。」
ヨームさんは落ち着かなげにそわそわしていた。
「貴女の相棒を紹介したいのですが、どこかに行ってしまいまして…」
「副室長。ユーリ様は傭兵隊のお仕事ですよ。部下のスケジュールを把握してないなんて上司失格です。」
「あの人が部下だなんて、恐れ多いですよ…」
ヨームさんはカガリさんから怒られてバツの悪い顔をしていたが、特に何もないのか黙って自分の机へと戻って行った。
私はそっとため息をつくとカガリに向き合った。
「ミシマ室長はどちらにいらっしゃいますか?」
「室長はいらっしゃいません。あの方はほとんどこちらにはいらっしゃらないのです。」
んんん?この分室は大丈夫か?姿の見えない室長に頼りない副室長??
「え、えーと。」
私がカガリさんにミシマ分室のことを色々と聞こうと思った。
その時、
バーンとドアがいきなり開き、若い女性が入ってきた。
「いやー、久しぶりにスカッとした!傭兵隊を20人、ぶっ飛ばしてやったよ!あ、お客さんだった??」
20歳くらいだろうか?肩まで伸ばした金色の髪、女の私が見惚れるほどに美しい顔、なにより生々とした朗らかな表情が魅力的に彼女を彩っていた。そして均整のとれた肢体…。私は彼女から目が離せなくなり、しばらくの間見つめてしまっていた。
「なになに?私に何かついている?」
「あ、あ、す、すみません…あの、私は今日からここにお世話になりますナルミ・ジェイドです!」
「おお、君がナルミか!室長から聞いてるよ!私はユーリです。ユーリ・ミコシバ。これからよろしくね。」
「は、はい。よろしくお願いします…」
「ナルミ、歳は?」
「19歳です。」
「おお、私の方が一つ上だね。でも気を使わなくても良いからね!ヨームさん、分室の説明はした?」
ヨームさんはビクッと体を震わせてからユーリさんへ目を向けた。
「い、いえ、まだ…」
「わかった!それじゃあ、体験ということで連れていくよ。カガリ、装備を見繕って!」
カガリさんはおもむろに私へ近づいてくるといきなり抱きついてきた。
「な、なんですか?」
「はい、身体のサイズを計らせていただきました。こちらがよろしいかと。」
そう言うとカガリさんは黒いショートパンツ、白いシャツに黒いネクタイ、腕に2本の白いラインの入った黒いパーカー風のジャケットを持ってきた。うん?ユーリさんとお揃いだ。
「こちら、ナルミ様の装備でございます。」
「あ、ありがとうございます。」
「ナルミ、こっちで着替えて。」
私はユーリさんに連れてこられた部屋で着替えた。うん、サイズはぴったり!
「いいねえ!似合っているね。かっこいい。このジャケットはすごいんだよ。魔剛糸という素材で出来ていて対魔法、対物理攻撃に特化しているんだよ。
ちょっとした攻撃魔法や剣撃なんかは防いじゃうから。鎧をつけるより動きやすいし、軽いしね!」
「ありがとうございます。特殊作戦室の装備よりも断然良いものです。」
「そうだね。室長が色々持ってくるんだよ。ナルミ、武器は何が得意?」
「はい、私は遠距離からの魔法による狙撃が得意です!」
ふ、ふ、ふ。どうや!こんな騎士は他にいないでしょ!ちょっとだけ得意な顔で私はユーリさんを見た。
「お、いいね!ナルミと組んだら戦闘が楽になるなあ。よし!それじゃあ、良いものがあるよ。」
そう言うとユーリさんは元の部屋に戻って壁にかかっていたボウガンに似た魔道具と短めの刀を手に取った。
「ゆ、ユーリさん。それは…ちょっとまずいんじゃないでしょうか…」
ヨームさんが何か言っていたがユーリさんに一睨みされて黙ってしまった。
「はい、これを使ってみてよ。」
「ユーリさん。これは?」
「魔力をちょっとだけ込めてみて。そうそう。あそこに一般兵士用の盾があるでしょ。そう。あれに照準して。はい、トリガーを弾いて!」
「ちょっと、ユーリ様!」
カガリさんが静止しようとしたが遅かった。私は魔道具のトリガーを弾いていた。
『パシュ』
魔力がはめ込まれていた魔石を中心に巡回したかと思ったら光矢にも似た魔力の弾丸が発射され、盾を粉々に砕いた。
ユーリさんはカガリさんにジトっとした目で睨まれていたが動じた様子はなかった。
「これはね、自己の魔力を増幅して弾丸として撃ち出す魔道具、クロスガンだよ。コツがいるけど、炎でも氷でも石にも変換できるし、照準性が良いんだ。魔法局の試作品なんだけど、クセが強くてさ。ナルミがこんなにうまく使うとは思わなかったよ。」
「ありがとうございます。」
確かにこの魔道具(クロスガン)はすごい。私のためにあるような武器だ。
「おほん、ユーリ様。これは誰が片付けるのですか?」
「カガリ…、ごめん。お願いできないかな?」
ユーリさんは上目遣いでカガリさんを見て、かわいくお願いしていた。
「しょうがないですね…」
カガリさんは顔を赤くして何かをゴニョゴニョと言っていたが結局は了承していた。
ユーリさんはカガリさんに見えないように私の方を向くとペロッと舌を出して笑った。う、なんてしたたかなんだろう。
「ナルミ、剣は朧流だね。」
「はい、なぜわかったのですか?」
「身のこなしでね。その刀はちょっと短めだけどナルミにはあってると思うんだよね。素早く振うにはちょうど良い。使ってみてよ。」
「はい、ありがとうございます!」
「よし、それじゃあ仕事に行こうか!」
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