家族に、捧ぐ

猫背街 中毒

第1話

私が戦争に行っている時、家族からつらつらと長ったらしい手紙が届いた。

定型文のような体調の気遣いと家族の様子、そしてこっちはどうなのかといった脳天気な質問…

私がとりわけ目を引いたのはその手紙にはある一文が添えられたいたことであった。

要約すれば、


あんたが戦っている敵の紋章を送ってくれないか、


というものであった。

その紋章は母国では大変人気なものでそれを集めることはひとつのムーブメントとなっていた。

思わず私は手紙を破いて捨ててしまった。それ以来家族から手紙が来てもそんなものを見てたまるかと見る前にゴミ箱に捨てていた。

いつしか家族から手紙が届かなくなっていった。けれどその時は戦争の真っ最中であったのでいちいちそんなことに注意している暇は無かった。


やがて戦争が峠を超えて集結し、仲間を含めた私たち戦士が戦地から続々と帰ってきたころに私は我が家を見て愕然とした。


我が家は消えていた…


すっかり風に吹かれて吹っ飛ばされた藁小屋のように。瞳孔が開こうとする私の目に見えるのは横風にそよぐ更地に根を下ろした背の高い雑草ばかりだった。


家族は私を捨ててどこかへ行ってしまった。


私は溢れんばかりの哀しみと絶望をくいしばって、その場を後にした。

帰る宛てのない私にのこされたものは、一体何なのであろうか。

ひたすら前に進んでいく私の足先だけがその答えを知っているように思えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

家族に、捧ぐ 猫背街 中毒 @RRRism

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る