第17話 任務達成の祝勝会
ファングボアの討伐を終えた後、私や他の団員たちが騎士団の本部に戻ると、ミアが出迎えてくれました。
「リリア様、皆さん、無事で何よりです。ご飯を用意しているので、たくさん食べてくださいね」
「ありがとうリリア。って、本当にたくさん用意したのね」
聞けば、自分にも何かできることはないかと考え、ここの方の許可をもらい、張り切って作ったそうです。
材料費は、私とアーサー様との勝負の際にやっていた、賭けの儲けから出したとのことでした。
おかげで、任務成功祝いの、ちょっとした宴会みたいになりました。
私もミアの料理をつまみながら、他の人たちと話をします。
「嬢ちゃん。いや、ベルナールさんって言うべきかな。入団していきなりこんなことになるなんて、災難だったな」
「いえ。こういうこともあるって、覚悟して入ったのですから。なのに、戦いの途中、少しだけ震えてしまいました」
「実戦は初めてだったんだろ。誰だってそんなもんさ。それに大ケガせずに無事に戻ってこれたんだから、それだけで上出来だよ」
そう言って、周りにいる騎士団の人たちが笑います。
役割は違っても、同じ任務をこなしたためか、少しだけ距離が近くなったような気がしました。
それにしても、無事に帰って来れて本当によかったです。
幸いなことに、私だけでなく、今回の戦いで重傷を負った者はゼロ。目の前でファングボアに吹っ飛ばされていたアインさんやトマスさんも、ケガはしたもののそこまで大きなものではなかったそうです。
ただそうした方々は、私たちより一足先に戻って、病院で治療を受けていました。
そしてその中には、アーサー様もいたのです。
「あの。アーサー様も、大したことはないのですよね。ケガをしていたようには見えなかったのですが、何かあったのですか?」
帰る前に少しだけ聞いた話だと、全てのファングボアの討伐が終わった直後、緊張の糸がプツリと切れたように、急に倒れてしまったそうです。
実はどこかケガをして、我慢していたのでは。
そう思って聞いてみたのですが、それに答えてくれたのは、騎士団の人たちではありませんでした。
「アーサー様は、過労だそうです」
「えっ、サイモンさん? どうしてこちらに?」
今までとは全然違う声が割って入ってきて、目を向けるとそこには、アーサー様の秘書のサイモンさんが立っていました。
「アーサー様から後処理を任されたのですよ。私は武術はからきしですが、事務や書類仕事は得意でしてね。こういう時こそ私の出番です」
むんと胸を張るサイモンさん。
それはそうと、さっき言っていたことについて、改めて尋ねます。
「あの。それで、アーサー様が過労というのは?」
「そうでしたね。最近のアーサー様は連日お忙しく、かなり体力を消耗していましたからね。そこに来てこの大仕事ですから、たまっていた疲れが限界に来たのでしょう。といっても、医者が言うにはしっかり休めば大丈夫とのことなので、屋敷にもどって、しばらくの間休んでもらうことにしました」
そういえば、アーサー様は昨夜も夜遅くまで仕事で、この騎士団本部に泊まっていました。
見たところではわからなかったですが、実は相当お疲れだったのでしょう。
「そうだったのですね。でも、大きなケガとかでなくてよかった。ファングボアを巻き込んで倒れたのですから、大事になってもおかしくなかったのに」
私と男の子を守るため、突進してくるファングボアに体当たりしたのを思い出します。
あれだけの巨体。もしも下敷きになったら、それだけで大ケガになるのは間違いありません。
すると、一人がぼやくように言います。
「そうだよな。いくらあんたらを助けるためとはいえ、あれは無茶だぜ。あの人、俺たちには生き延びろって言うのに、自分はかなり危ないことするんだよな」
「そうなのですか?」
「ああ。もちろん、あんたらを放っておけって言いたいわけじゃねえからな。ただ、時々無茶しすぎなんじゃないかって思うんだよな」
彼の言葉に、他の団員たちも次々に頷きます。それが不満とかではなく、皆さん、本当に心配しているようです。
「そういえば、ファングボアを倒した後、アーサー様の様子がおかしかったのですよね。青ざめて、呼吸も荒くて……あれも、過労が原因だったのでしょうか?」
疲れが溜まっていたのなら、思わぬ不調が体に現れても不思議はありません。
ですがなぜでしょう。あの時のアーサー様の取り乱し方は、何だかそれだけでは説明がつかないような気がしました。
「あのよ、ベルナールさん。確認したいんだが、団長がファングボア相手に飛び込んだのって、あんたと保護した子どもが危なかったからだよな?」
「はい。男の子が腰を抜かして、私が体を張って庇うしかないって状況でした」
もっとも、あの時震えていたのは、あの子だけでなく私もでしたけど。目の前の危機だけでなく、前世で死んだ時の記憶を思い出し、二重の意味での恐怖でした。
だけど、どうしてそんなことを聞くのでしょう?
と思ったら、なぜか皆さん、一様に複雑そうな表情を浮かべました。
「なるほどな」
「やっぱり、そういうことか」
いったい、どうしたというのでしょう。
みんながどこか納得したように頷く中、私とミアの二人だけが、なんのことだかわからず首を傾げます。
「あの……皆さんいったい、なんの話しをしているんですか? 全然わからないんですけど」
痺れを切らしたようにミアが尋ねると、どうしたものかといった感じで、それぞれ顔を見合わせていました。
そんな中、真っ先に口を開いたのは、サイモンさんでした。
「そうですね。私の知っている範囲でよければ、お話しましょう」
「おいサイモンさん。いいのかい?」
「この辺りでは有名な話ですからね。二人がここで暮らすようになるなら、遅かれ早かれ知ることになるでしょう。それなら、今ここでしっかり話しておいた方がいいかもしれません」
サイモンの言葉に、途中で口を挟んだ方も、それ以上は何も言いませんでした。
変わって私が、サイモンさんに言います。
「差し支えなければ、教えてもらっていいでしょうか?」
サイモンさんをはじめ、ここにいる皆さんが何を知っているのか、見当もつきません。
しかし、おそらくアーサー様に関わること。それも、とても大事なことなら、できることなら聞いておきたいです。
サイモンさんは、フーッと大きく息をついてから、少しずつ話し始めます。
「わかりました。と言っても、これは私がアーサー様にお仕えする前。今からそう、十八年前の話になりますな」
「十八年前って、じゃあその頃アーサー様は……」
「もちろん、まだ子どもです。たしか、七歳でしたな」
七歳のアーサー様。それを聞いて、ドクンと胸が鳴りました。
前世の私が最後にお仕えしていたのが、まさにその頃でした。
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