第13話 私たちの任務

 私たちが森の入口に到着した時、既に何人かの騎士団の方々が先に来て、戦いの準備をしているようでした。


「状況はどうなっている」

「はっ! まずは数名が森の中に入り、足止めの任に当たっています。しかし数が多く、いずれ森の外に出てくるのは時間の問題かと思われます。魔物進行方向からして、おそらく狙いはこの先の村でしょう」


 本で読んだだけの知識ですが、魔物の知能は思いの外高く、大規模な群れが特殊な行動をとる際は、必ず明確な目的があると言っていいそうです。

 今回の場合、その目的が、村の襲撃。ハッキリ言うなら、そこの住人を餌にしようとしているのでしょう。


「闇雲に援軍を送っても、見通しが悪く障害物の多い森の中では、有効な手は打ちにくい。森の外に陣を組み、出てきたところを迎え撃つ。先に森に入ったもの達に、こちらに誘い出すよう連絡を送れ」


 アーサー様の指示のもと、戦いの準備はさらに進みます。

 さすが、騎士団の皆さんはこういうことに慣れているのか、素早く隊列を組んで並びます。

 ですがたった今騎士団に入ったばかりの私は、どうすればいいのかさっぱりわかりません。


「お前は俺のそばにいろ。他の団員たちとの連携のとり方を知らない以上、通常の隊に入れてもうまく戦うことはできないだろう」

「ですが……」


 それでは、見ているだけではないのでしょうか?

 せっかく意を決してここまで来たのに、役に立たないどころか、足を引っ張ることにもなりかねません。


「焦るな。出番がなくてすむのなら、それに超したことはない。だがもしも今いる者たちだけで魔物を抑えきれなくなったら、その時は例え不慣れでも、戦ってもらうことになる。だからそれまで観察するんだ。みんながどう動いているかをしっかり見ろ。そしていざという時に動けるようになれ」

「はい!」


 どうやら、戦力外というわけではなかったようです。


 そうしているうちに、騎士団員たちが陣形を組み終わります。

 どの武器を主に使うかで配置場所を変えているみたいで、前方には大きな盾を持った人が、真ん中には剣、後方に弓を構えた方々が並びます。

 それから間もなく。森の中から、魔物の足止めをしていたという人たちが出てきました。


「魔物の進軍、止まらず。もうすぐここにやってくることでしょう」

「上出来だ。おかげで準備はできた」

「はっ! それと、耳に入れなければならないことが」

「なんだ。話せ?」


 わざわざ分けて報告するということは、ただの魔物の進行とは違う何かなのでしょうか。

 その疑問は、当たっていました。


「森の中で足止めをしている途中、子どもの姿を見ました。おそらく、たまたま森に迷い込んだものと思われます。保護しようとしたのですが、足止めするのに手一杯になっているうちに、どこかへ逃げてしまいました」

「なに!?」


 子どもって、戦いが始まるすぐ側にいるなんて危険すぎます!

 すぐに探しに行かなければ。そう言いたくなりましたが、そう簡単にはできそうにありません。


「まずいな。探しに行くのに多くの人員を使えば、ここで魔物を迎え撃つことができなくなる。行かせるとしたら少数になるだろうが、誰がいい?」

「なら、私に行かせてください!」


 困ったように唸るアーサー様を見て、すかさず言います。


「本気か?」

「もちろんです。私なら、ここを抜けても問題はないでしょう。どこかで出番があるというなら、まさにこれではないですか?」

「確かにな。だが、いくらなんでも単独で行かせるわけにはいかん。少し待ってろ」


 アーサー様はそう言うと、部下の方に指示を出します。それからすぐに、二人の騎士の方がやってきました。

 一人は非常に大柄で、まるで熊のようなおおおとでした。


「アインとトマスだ。アインは子どもの姿を見ていて、トマスは騎士団に入る前は猟師をやっていて森で動くのに慣れている。子どもの捜索は、まずはお前たち三人に行ってもらう」

「よう、嬢ちゃん。騎士団に入ったばかりでえらいことになったな。けど、やるからには頼りにさせてもらうぞ」


 熊のような大男。トマスさんが力強く言うと、緊張をほぐすようにニヤリと笑います。


「はい。よろしくお願いします」


 しかし、これから三人ですぐに森に入るわけではありません。

 魔物の群れが出てきて、アーサー様たち本隊が、それを迎え撃つ。私たちの出番はそれからです。

 そして、とうとうその時がやって来ました。


「魔物の姿が見えたぞーっ! 総員、戦闘準備!」


 声が響き、その場にいる全員が身構えます。そしてその言葉通り、森の中から無数の魔物が姿を現しました。


 魔物の名は、ファングボア。一言で表すなら巨大なイノシシで、さらに一際巨大な牙を持つことからその名がつけられました。

 そんな奴らが、群れを成して現れたのです。


「あれだけの数のファングボアだと、かなり手こずることになりそうだな」

「そんな……」


 アインさんの漏らした言葉を聞いて、不安な気持ちが湧き上がってきます。

 ただ、アインさんはそれからこう続けました。


「けど、大丈夫だ。手こずるとは言ったけど、勝てないとは言ってないぞ。ほら、見てみな」


 突撃してくるファングボアを、盾を持った人たちが数人がかりで押さえつけます。

 その合間を縫って、後ろに控えていた弓隊が狙撃。怯んだところを一気に斬りつけます。

 決して素早く倒すことはできませんが、確実に、そしてこちらの被害を最小限に抑えながら戦っています。


「すごい……」

「だろ。さあ、みんながファングボアの相手をしているうちに、俺たちも子どもを探しに行くぞ」

「はい!」


 子どもも、戦っているみんなも、どうか無事でいて。

 そう祈りながら、私たちは森の中に入っていきました。

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