第11話 勝ちは勝ち。負けは負け。
とにかく、勝ちは勝ちです。
やったーと喜ぼうとしたのですが、それより先に、アーサー様がすごい顔をしながら言いました。
「お前。さっき言ったやつはなんだ。その……シーツがどうとか、クローゼットがたんだとか」
口をモゴモゴさせ、落ち着かない様子のアーサー様。
ああ、やっぱりこうなっちゃいますよね。
小さい頃のアーサー様は、たまに、本当にたまにですが、オムツのとれた後もオネショをすることがあって、その度にベッドのシーツを外してはお部屋のクローゼットに隠していました。
ですが、私たちメイドは毎日ベッドメイキングをするのです。シーツが無くなっていたらすぐに気づきます。
いつもあっという間にバレて、その度にアーサー様は涙目になっていたのでした。
戦いの最中にこれを言えば、少なからず動揺するはず。
その狙いは見事成功し、こうして勝利を得ることができたのですが、詳細を話す訳にはいきません。
前世の話なんて出して頭のおかしいやつと思われたら、せっかくの入団が取り消しになるかもしれません。
「あれですか? 知り合いの殿方に、そんな噂がある人が何人かいたのですよ。もしかしたら、似たような経験をされた方ってけっこういるんじゃないかなって思って、一か八かやってみました」
「そ、そうか。知り合いか。いきなり変なことを言うから驚いたぞ。確かに、世の中には子供のころにそんなことをするやつもいるかもしれないな。俺は、一切身に覚えはないが」
身に覚えはないと言った瞬間、僅かに目を逸らすアーサー様。
なかったことにしたくなるほどの恥ずかしい過去なのでしょう。もちろん、そうだろうなと思ったからこそ、切り札として使ったのですが。
けどこれ以上、このことに触れるのはやめておきましょう。でないと、あまりにもかわいそうです。
「あの。それで、私の入団はどうなるのでしょうか?」
一応勝ちはしましたが、あんな変な方法で勝ってもダメと言われるのが、唯一の不安でした。
いざとなれば、またオネショをチラつかせるというのも考えましたが、何度もやると嫌われてしまうかもしれないので、できればそれはやりたくありません。
「負けは負けだし、約束を違えるわけにはいかんからな。騎士団に入ること、認めてやろう」
「本当ですか! ありがとうございます!」
これで、これからもアーサー様のそばにいることができる。
喜びのあまり声をあげると、近くで見守っていたミアも、ニコニコしながら駆け寄って来てくれました。
「リリア様、やりましたね! 本当に騎士団長に勝っちゃうなんてすごいです!」
「まぐれよまぐれ。でも、ありがとう」
よくよく見ると、ミアの手には、財布と現金が握られていました。
騎士団の人たち相手にやっていた賭け。彼女の一人勝ちなので、かなり儲けることができたみたいです。
一方、賭けに負けた騎士団の人たちは、揃いも揃って悔しそうにしていました。
そんな中、ただ一人アーサー様だけが真面目な顔をしています。
「騒ぐな。入団するなら、話や手続きも色々ある。それに、本当に大変なのはこれからだ。過酷な任務に挑む覚悟はできているか」
「は、はい。もちろんです」
そうでした。騎士団に入るのは、決してゴールではありません。
やるからには、決して足を引っ張ることなく、お役に立てるよう頑張らなければ。
「皆さん。これから、どうかよろしくお願いします!」
アーサー様、それに騎士団の方々に向かって頭を下げます。
するとわずかな静寂の後、誰かが手を叩きます。それは少しずつ他の人へと移っていき、大きな拍手となりました。
「皆さん。ありがとうございます」
騎士団に入れば、ここにいる人たちとも同僚になるのですよね。
仲良くやっていけたらいいな。そう思った時でした。
「伝令ーっ! 伝令ーっ!」
場の空気を一変させるような大きな声が響き、外から一人の騎士の方が駆け込んできました。
「何があった? 話せ」
アーサー様が緊張した様子で尋ね、駆け込んできた方が、再び口を開きます。
「西側の森に、多数の魔物の群れが出現との報告あり。至急、出動を願います!」
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