第6話 入団試験? 受けてやろうじゃないですか!
さらに不可解なことに、微妙な反応をされたのは、アーサー様だけではありませんでした。
そばにいた騎士団の方々も、揃いも揃って、「何言ってるんだこいつ」とでも言いたげな顔をしています。
いったいどういうことでしょう。
「あの。騎士団は人手不足なのですよね。だったら、新しい団員がほしいのではないですか?」
アーサー様だって、猫の手も借りたいと言っていたのに。
すると団員の一人が、困ったような声で言いました。
「そりゃ人手はほしいけどよ、あんた貴族のお嬢さんだろ。そんなペンより重いものを持ったこともないような人がそんなのが騎士団に入るなんて無理だろ」
なんと、そんな風に思われていたのですね。
しかし、心配は無用です。私だって、考えなしに言い出したわけじゃありません。
「大丈夫。こう見えても私、武術の心得があるんですよ。ペンどころか、剣を何度も振っています」
愛用の剣だって、ちゃんと荷物として持ってきたのです。
ですがそれを聞いても、騎士団員の方々の私を見る目は変わりません。
「あんたみたいなお嬢さんの習う武術なんて、お遊びみたいなものだろ」
「悪いが、俺たちは命がけの戦いだってやらなきゃいけないんだ。遊びでやってるのとは訳が違うよ」
「訓練だって厳しいからな。きっと、半日もしないうちに音を上げるだろうよ」
まあ!
こうまで言われては、さすがに気分がよくありません。
私だって、決して遊びで武術をやってるわけじゃありません。いつ命の危機が訪れても抵抗できるように、真剣なのです。
しかも実際に武術をやってるところを見もしないで決めつけるなんて、酷くないですか?
ですが、これを聞いて私以上に怒った人がいました。
ミアです。
「あなた達。さっきから黙って聞いていたら失礼じゃないですか! リリア様はね、毎日真剣に武術の稽古に励んでいるんですよ。それに、私が変態クズヤローに絡まれた時は、あっという間にのしてしまわれたのです!」
変態クズヤローというのは、私の元婚約者デュークのことでしょう。
ミアの目には、あの時の私はすごく頼もしく映っていたようです。
興奮したミアは、さらに続けます。
「それだけじゃありません! その勇敢さは貴族の間でも評判で、今や舞踏会の野獣と呼ばれているんですからね!」
「ちょっとミア! それは言わないで、」
わざわざそんな恥ずかしい二つ名を出すことないでしょう。
あなた、前にそれを聞いた時怒ってたわよね!?
案の定、それを聞いた騎士団の人たちが一斉に吹き出しました。
もう。私はただ騎士団に入りたいだけなのに、どうしてこんな恥ずかしい思いをしなければならないのでしょう。
すると、今まで私たちのやりとりを黙って聞いていたアーサー様が言いました。
「わかった。そこまで言うなら、入団を考えてやってもいい」
「えっ──?」
突然の、そして意外な言葉に、耳を疑います。
どうして急に? 私が本気で武術をやっていること、信じてくれたのでしょうか?
だとすると、やっぱりアーサー様は天使です。
けど、そう思ったのも束の間でした。
「ただし、そのためには試験を受けてもらう」
「試験ですか?」
「ああ。それでダメなら当然入団はなし。それに、すぐに領内から出ていってもらおうか。時間の無駄だからな」
「えっ……?」
厳しい口調で言い放つアーサー様。
いくら私でも、さすがにこの発言の真意はわかります。
アーサー様は、その試験とやらで私を落として、早く帰らせるのが狙いなのでしょう。
「あの。試験というのは、具体的にどんなものなのでしょう?」
これは、さすがに慎重にならざるをえません。試験の内容しだいでは、非常に厳しいものになってしまうかもしれません。
「そうだな。本来ならある程度時間をかけて審査するところだが、今回は特例でいいだろう。お前の武術とやらが通じると証明できれば合格にしてやる」
「証明といいますと?」
「簡単なことだ。俺と勝負して勝ったらいい」
勝負。
アーサー様がそう言った瞬間、団員たちが一斉にざわつきました。
「いくらなんでもそこまで」
「合格させる気なんて微塵もないな」
そして、驚いたのは私も同じです。
「あの。勝負というのは、お互い剣と剣で打ち合うとか、そういう勝負ですよね?」
「もちろんだ。さすがに真剣を使う気はないが、それでもまともに当たればケガもする」
ど、どうしましょう。
それって、アーサー様相手に本気で剣を振らなきゃいけないってことですよね。
子どもの頃のアーサー様とチャンバラごっこならしたことがありますが、真剣に打ち合った経験なんて皆無です。
アーサー様相手に、本気で剣を向けるなんてできるのでしょうか?
「怖いのなら、無理にやれとは言わん。もちろん、この試験を受けないのなら問答無用で帰ってもらうが、どうする?」
「くっ……」
これは、究極の選択です。
アーサー様をお慕いしているからこそ、そばにいたい。けどそばにいるためには、そのアーサー様に剣を向け、勝たなければいけない。
なんという二択、なんという試練なのでしょう。
もちろん、アーサー様と本気で戦いたくなんてありません。
ですがやはり、そばにはいたいです。
それに、ここで私が頼りになるんだと示すことができたら、ずっと続いている冷たい態度だって変わるかもしれません。
ならば、例え茨の道なれど、進む道は決まっています。
「わかりました。その試験、受けます」
そう答えると、また団員達から驚きの声があがりました。
驚いているのは、アーサー様だってそうでした。
「本気か? 言っておくが、やるからには一切の手加減はない。後でケガをしたとわめいても知らんぞ」
「もちろんです。あなたに勝って、騎士団に入ります!」
私だって、アーサー様と戦うなんてできればやりたくありません。
ですがおそばにいるためなら、覚悟を決めたのです。
「その度胸は褒めてやろう。だが、少し武術をかじったくらいで通用すると思ったら大間違いだ。舞踏会の野獣だか何だか知らんが、そう呼ばれていい気になっているのなら、考えを改めさせてやろう」
いい気になんてなってません!
舞踏会の野獣というの、できれば忘れてくれませんか!?
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