25. ノベンバーとデミアン

 べらの部屋にはたくさんのドレスが届けられました。どれもハリウッドのスターが着るようなロングドレスなので、ちょっと困りました。どれを晩さん会に着ていけばよいのでしょうか。べらは大きなかがみを見ながら、ファッションショーをしています。


 ドレスやくつを決めなければならないのは、今度も、人間のべらだけです。

 べらはヒールをはいて、歩いてみました。べらはスニーカーとブーツしかはいたみとがないのです。こんな高いヒールをはいて歩くなんて、つなわたりよりむずしいわ。どうして、こんな不自由なくつをはく必要があるの、とべらは不満ふまんです。

 

 宮廷きゅうていの庭には大きなふん水があるので、トットはそこでおよぐ練習をしています。そこには美しい花壇かだんがあちこちにあり、かわいいハチさんがいっぱいいるので、クマハチはハッピーです。モッヒは木の上にいます。それは、この庭にはドーベルマンという犬が3匹もいるからです。

 マリンもスカンクの仲間なかまがいるかなとさがしていた時、そのドーベルマンに追いかけられてたので、べらの部屋へやげこんで、今は大きな椅子いすの下にかくれています。

「マリンくん、これどう?」

 とべらがドレスを見せると、マリンが椅子いすの下から、ちょこんと顔だけ出しました。

「ぼく、そういうの、わかんないでちゅ」

 マリンはまだおそろしがっていて、スプレーをださないことに必死ひっしなので、ドレスどころではありません。

   

「べらちゃん、ドレスは決まった?」

 ゴーちゃんが元気げんきにはいってきました。さすが、宮廷きゅうていにはなれているという感じです。

「来てくれて、うれしいわ。どれもすてきだけど、どのドレスがよいのか、決められないの」

「べらちゃんが、すぐに決められないなんて、めずらしいね」

「こういう場所ばしょは、苦手にがてよ。晩さん会なんて、はじめてだし」

「だいじょうぶ。ぼくが手伝うよ」

「ありがとう。ゴーちゃんなら、どれにする?」

「そうだね、これがいいよ」

 とブルーのドレスをえらびました。


「デミアンがべらちゃんのことばかりきいてくるんだよ。だから、サンフランシスコにはボーイフレンドが10人いて、お花が毎日とどくっておしえたんだ」

「ボーイフレンドはいないし、お花だってとどかないわよ」

「今にとどくよ」

 ゴーちゃんがくくくと笑いました。

「デミアンはべらちゃんがすきみたいだよ。」

「どうして?」

「すきになるのに、りゆうはいらないんだよ」

 ゴーちゃんは、また大人おとなびたことを言いました。


「ゴーちゃんは、なぜそんなむずかしいことを知っているの?希望きぼう風船ふうせんと言った人はだれ?思い出せた?」

「うん。ゴーストワールドで、そう言っていたお兄ちゃんがいたんだ」

「ゴーストトワールドのことを思い出したの?」

「うん。だんだん思い出してきたよ」

「思いだしたこと、何でもいいからおしえてくれる?」


「ぼくはゴーストワールドに行って、まいにち、ママに会いたいってわんわん泣いていたんだ。そしたら、地球ちきゅうに行く方法ほうほうをおしえてくれるお兄ちゃんがいたんだ。ハロウィーンに地球にけばいいって。そして、べらちゃんをたずねていけば、たすけてくれるって」

「わたしを?わたしのこと、ほかに何か言っていた?」

「うん」

「おしえて」

「さかだちがうまいって」

「もっとほかにない?」

「あるよ」

「おしえて」

「水をのみながら、さかだちができるって」

「ほかには」

「オリンピックのしゅもくにさかだちがあったら、金メダルだって」

「そんなことかぁ」


「その人って、だれかわかる?」

「えーとね、ノベンバー・リードっていうんだよ」

 ああっ。

 べらはもう少しで、心臓しんぞうがとび出るところでした。

「その人が、あのピアノのもちぬしよ」

「べらちゃんが好きだった人かい」

「そう。大学のせんぱいたった人」

「音楽のアプリを作ったんでしょ」

「そう。その人」


「でも、ノベンバーは、どうしてわたしに会いにきてくれないのかしら。ゴーちゃんは来れたのに」

 べらが少しはずかしそうに言いました。ノベンバーは、わたしがどのくらい会いたがっているのか、知っているのかしら。 


新会長かいちょうにえらばれちゃったから、ものすごくいそがしいんだよ」

 ああ。それはノベンバーらしいとべらは思いました。いつも、だれかのお世話せわばかりしている人でした。

「お兄ちゃんは、そのさかだち金メダルの人に会いたいから、地球ちきゅうへの行き方を研究けんきゅうしていたんだよ」

 そうなの?

 べらは心が、パラの花園はなぞのみたいになりました。


 その時、デミアンがはいってきました。ブルーのネクタイをして、大きな花束はなたばをだいています。ゴーちゃんがほらね、とべらをつつきました。

「晩さん会までには少し時間がありますから、国王から庭をあんないしてさしあげなさいと言われましたので、やってきました。いかがでしょうか」

 デミアンが少しおどおどしています。

「お兄ちゃん、ほんとうにパパがいったのかい」

 とゴーちゃんがからかいました。

「お兄ちゃんが、べらちゃんと歩きたいんではないのかい」

「そ、それは」

 デミアンが耳まで真っ赤になりました。

「ゴードン、ママが呼んでいるよ」

「わかったよ。ふたりで歩くチャンスをあげるから、チャンスはものにしろよ」

 

 王宮の庭は広すぎるので、デミアンがゴルフカートのような車を運転うんてんしました。ここって、ゴールデンゲート公園より広いのかしらね。

 途中で、デミアンが車を止めました。目が一点を見つめています。

 どうしたのかな、と思ったら、彼は車からおりて、林のはしにある小石のところに近づいていきました。

 デミアンがこまった顔をしたので、べらが車をおりてきました。

「小鳥がたおれているのです。息をしていません」

 小鳥は3センチほどで、黒いワラのように見えます。


 べらが近づいてこしをかがめ、小さな声で言いました。

「これ、生まれたばかりの子どもの鳥です。気を失っているだけかもしれませんよ。わたし、経験けいけんありますから」

 べらの家の窓に鳥がぶつかって、気絶きぜつしていたことが2回ありました。その時は水を近くにおいて、そっとしておいたら、び立ちました。

 デミアンが小皿に水をはこんできて、そばにおきました。

 そして、庭めぐりを続けたのですが、ふたりの気もちはすぐに子鳥のところにもどりました。


 デミアンはべらがゴーストの弟の面倒めんどうをみてくれたこと。たくさんの生きもののと住んでいることはすばらしい。心を打たれましたと言ってくれました。

「ぼくはこの国の動物愛護委員会どうぶつあいごいいんかいの会長をしています。それから、歩く会の会長もしています。べらさんは、ハイキングがお好きなのですよね」

「はい」

「今度、いっしょにハイキングに出かけませんか。この国にも、世界にほこれる美しい山やみずうみがありますよ」

 

 





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る