23. ブルーノがやってきた

 べらはゴーちゃんにきいてみました。

「前に、プリンスだって言っていたけど、それは本当?」

「うん。ぼくはプリンス・ゴーちゃんだよ」

「どこの国のプリンス?」

「知らない」

「ミラベーラ王国って、きいたことがある?」

「知らない」


「ゴーちゃんは、どうして、ゴーストワールドに行くことになったの?」

「気がついたら、そこにいたんだよ」

「プリンスが住んでいたところって、どんなところ」

「子供だから、なんにもおぼえていないけど・・・・・・、なんか、うるさいおやじがいた」

「国王のこと?」

「そうじゃなくて、・・・・・・、もうちょっとで思い出せそうなんけど」

 うるさいおやじ?でも、父親ちちおやではない。ますますわからなくなりました。


 ところが、その数日後すうじつご、そのうるさいおやじの正体しょうたいがわかりました。そのおやじが向うから、やってきたのです。

 ドライブウェイの前にリムジンが止まったかと思ったら、中から知らないおじさんが下りてきました。黒いタキシードをきりりと着ていて、映画に出てくる執事しつじのようなスタイルです。

 その時、べらとゴーちゃんはならんで、窓から外を見ていたのですが、

「バトラーのブルーノだ」

 とゴーちゃんがさけびました。

 えっ。

「ブルーノがやってきた!」


「何か思い出したの?」

「うん、犬のなまえを聞いた時、どこかで聞いたことがあると思っていたんだ。あの人はママのバトラーだよ。うるさいけど、やさしいおやじだなんだ」

 バトラーとは執事しつじという意味です。バトラーはご主人しゅじんのお世話せわをする人です。

 ゴーちゃんが飛んでいって、玄関のドアをばたんと大きくあけました。べらも、モッヒ、クマハチ、トット、マリンもおいつきました。


「私はミラベーラ王国の執事、ブルーノでございます」

 彼がていねいなあいさつをして、頭を下げました。

「わたしはべら、でございます。こちらはモッヒ、クマハチ、トット、マリンでございます」

 べらも、ていねいにあいさつをしました。

「ブルーノ、きてくれたんだね」

「プリンス・ゴードン殿下でんか、お会いしたかったです」

 ブルーノは白い手袋てぶくろの手で口をおさえて涙をがまんしようとしましたが、泣きくずれました。どんなにか、会いたかったのでしょう。


「どうして、ぼくがここにいるとわかったの?」

「CikCikをごらんになっていたプリンセス・マルグレットさまが、その歌声うたごえが、プリンス・ゴードン殿下でんかそっくりだと言われたのでございます。みなさんでごらんになって、プリンス・ゴードン殿下にまちがいない、ということになったのでございます」

「マルグレットはぼくのお姉ちゃんだよ」

 ゴーちゃんが、みんなに向かって言いました。

 ゴーちゃんがプリンスだとわかったら、みんな緊張きんちょうしてしまって、言葉ことばがでません。


「プ、プリンスには、お姉ちゃんがいるのでちゅか」

 マリンがごくんとつばをのんで、がんばってききました。

「うん。お姉ちゃんが3人、お兄ちゃんが3人いるよ」

「たくさんいるんですね」

「きおくがもどってきたようだぜ。イエーイ」

 みんなの調子ちょうしももどってきたようです。

「そうね、そうね」

 べらがむねのところで指をんで、喜んでいます。


「それで、王宮では、大さわぎでなのでございます。それで、私がたしかめるために、つかわされましたしだいです」

「ママはげんき?」

「それが」

 とブルーノが下をむきました。

「プリンス・ゴードン殿下でんかがいなくなられてから、かなしみで病気びょうきになられ、いまだにベッドからおきあがることができません」

「ママ、ぼくのママ―」

 とゴーちゃんがさけびました。「ぼく、ママに会いたい」

「はい。すぐにおつれいたします。外で、リムジンがっております」

「ブルーノ、べらちゃんも、フレンズもつれて行っていいかい」

「もちろんでございます。みなさんで、まいりましょう」

 

「ちょっとまってください」

 とべらがあわてて、みんなが行こうとしてるのを止めました。

海外かいがいに行くのですから、そんな簡単かんたんにはいきません。したくというものがありますから」

「どんなおしたくでしょうか」

「ビザをとったり、飛行機きこうき予約よやくしたり」

「ビザの必要はございません。空港で、ミラベール王国のプライべートジェットがまっております」

「でも、にづくりをしなければなりません」

「何をつめられるのですか」

「ふくとか、くつとか、歯ブラシとか、ブラッシとか」


人間にんげんはたいへんだぜ」

 とモッヒが言いました。

「うん、ぼくたちはみんな、このままでいいから」

 そういえば、たび用意ようい必要ひつようなのは、人間のべらだけなのでした。

「では、ドレスだけでも、つめてきます。ミラベーラ王国に行ったら、キングやプリンスにお会いすることもあると思うので、このふくではまずいでしょ」

 みんながべらをじろじろ見ました。べらはいつものヒッピースタイルで、シルバー色のトップに、むにさき色の長いスカートに、白いブーツです。


「べらちゃん、ちゃんとしたドレスなんか、あるのでちゅか」

「・・・・・・」

「べらさまのドレスや必要ひつようなものは、すべてこちらで用意よういされていただきますので、ご心配しんぱいはいりません。どうぞ、みなさま、リムジンにお乗りください」


 というわけで、みんな初めてリムジンという大きな車にり、初めてのプライベートジェットにえて、ミラベーラ王国に行くことになったのです。

 こういうのを「きつねにつままれる」というのかしらとべらは思いました。ゆめの中にいるような心地ここちです。


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