22. ゴーちゃんはだれ

 ハッピー・ファミリー・コンテストの一次予選いちじよせん結果けっかが知らされました。予選は三次さんじまであるのですが、あんなにがんばったのですから、一次は通りたいです。みんなが見ている中、べらが封筒ふうとうをあけました。

 あっさりと、落選らくせんしていました。

 作文のほうには、「これはファミリーではなくて、グループ活動かつどうです」、「ビデオ」のほうには、「ひとりだけうまい子がいるけれど、ファミリーらしさにけます」と書いてありました。


「さいしょで、落ちてしまった」

 とクマハチが泣きそうです。 

「あんなにれんしゅうしたのに」

 とみんな、とてもがっかりしました。

「きっとソンタクがあったんだ」

 トットがむずかしい言葉ことばを使いました。

「ソンタク?」

「だれかを、ひいきしているんだ」

「きっとそうだぜ」

 予選よせんに落ちたかなしみが、いかりに変わりました。


「ほかの人がもっとがんばったかもしれないじゃないか」

 と言ったのはゴーちゃんでした。

 えっ。

「がんばったから、きぼうがすぐにかなうというものではないんだ」

 とゴーちゃんがつづけます。

 みんながゴーちゃんを見つめます。

「きぼうはふうせんだよ。やぶれたら、あたらしいふうせんをふくらませればいいんだ」

 ゴーちゃんは時々、大人びたことを言います。

 モッヒはどこかで聞いたことばだと思いました。そう、ビーチで聞いたばかりです。

「ゴーちゃん、それはだれからきいたの?」

 とべらがききました。

「わすれた」


「そうだ。そんなにかんたんにゆめがかなうわけがない。きぼうはふうせんだ」

 みんな、そう思いました。

「これで、ぼくたちのきずなが深まったのですから、やったかいがありました」

「そうだ。やってやってよかった」

「りょこうには行けないし、ゴーちゃんのママは見つからなかったけど、すごくたのしかったぜ」


「あたらしいふうせんをふくらませまちょう。あのう、作った動画どうがをCikCik《チックチック》にアップちゅるというのは、どうでちゅうか。せかい中の人みるから、ゴーちゃんのママもみるかもしれないでちゅ」

 CikCikは短い動画をあっぷできるSNSです。

「それはすごくいいアイデアだ」

 とみんながおどろきました。

「マリンはあたまがいいね」

「そんなことないでちゅ」

「どうやってアップするんだい?」

「かんたんでちゅ」

 

 マリンはゴーちゃんが中心になって歌っている動画どうがを、あっという間に、CikCikにのせました。

 ふつうは見てくれる人は100人とか 1000人とかいて、人気スターになると、1000万人以上のファンがいるとがいると聞いています。でも、最初さいしょの日、みんなの動画を見てくれたのは16人でした。

「これ、ふつう?おおい?」

「おおいとはいえないでちゅ」


 でも、1日たつと、その数が112にびたので、「100をこえた」とみんなで大喜おおよろこびしました。でも、1週間たっても、200にはなりません。198で止まってしまいました。

 198というのは、見にきてくれた人の数で、フォローしてくれたのは11人です。

「これ、ふつう?多い?」

「すくないでちゅ」

 ある日本のSNSでは、登録者とうろくしゃの数が2000万人になった人気チューバ―がいますが、どうしてあんなに人が来るのでしょうか。

「1回ではむりですよ。またあたらしいのを作って、アップしましょう。次は、フォロー20人をめざしましょう」

 とクマハチがはげましました。

 

 2月の終わりになると、サンフランシスコは春らしくなり、場所によっては、あじさいの花が咲き始めています。

 あれからCikCikには3本の動画どうがをのせ、フォローしてくれる人が31人にふえました。たったの31人ですが、それでも最初の3倍にふえていますから、順調じゅんちょうです。


 その朝、「たいへんでちゅ」とマリンがキッチンに走ってきました。

「CikCikをのぞいてみたら、見ている人の数が500を越えていまちゅ」

 とはぁはぁしながら報告ほうこくしたので、みんなでスマホを見て「やった」と喜びました。

 バズってはいていませんが、すごいです。

「フォローは」

「168人でちゅ」

「ヤッター」

 たくさんのひとがおうえんしてくれていると思うと、元気がでました。また作ろうねと話し合いました。


 3月のある日、冬眠とうみんからめたおばやがやってきました。

「おばや、おはようございます」

 べらがうれしい声を出しました。うれしいことばかりです。

「ひめ、お元気でしたか」

「はい。おばやは、よく眠れましたか」

「おかげさまで。今年も、生きられそうです」

「おばや、いつまでも、生きてね」

「ノベンバーさんにたのまれているので、早くは死ねません」

「えっ、おばやはノベンバーにたのまれているの?」

「あらっ、ねぼけていて、口をすべらせてしまいましたかね。ところで、ニュースです」

 おばやが急いで、話題わだいを変えました。

 

 おばやのところに、ヨーロッパのてんとう虫フレンズから連絡れんらくがきたのです。そのフレンズの話によると、どうも、ある国に、ゴーちゃんらしい子がいたということです。

「それが、ゴーちゃんは王子らしいですよ。その王子は去年きょねんの夏、ゴーストワールドへ行ってしまったようです」

「えっ。そう言えば、ゴーちゃんは、はじめはプリンスって言ってたけれど」

 

 そのフレンズのリサーチによると、ゴーちゃんは、ミラベーラ王国の国王ハミルトンと王妃エリザベートから生まれたプリンスです。彼は末っ子で、お兄さんが3人とお姉さんが3人います。

 ゴーちゃんは、ゴードン・ジョン・ヘンリー・トーマス・ハミルトンという長い名前のプリンスなのです。ちょっとやんちゃだけれど、かしこくて歌がうまいプリンス・ゴードンは、国王をはじめ、みんなからとても愛されていました。けれど、去年の8月、7才のバースディのパーティのあと、急に病気びょうきになったのでした。食中毒しょくちゅうどくだということです。


「ゴードン王子がプリンス・ゴーちゃん」

「王妃のエリザベートは、かわいいプリンスが死んでしまったがショックで、まだ立ち直れていないそうですよ」

「それは、よくわかります」

 べらが耳を《澄》ますと、キッチンのほうからゴーちゃんのたのしそうな声が聞こえました。

 

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