18. モッヒがうたう

 未来のラップスターのモッヒがうたってみせることになりました。

 モッヒはスペシャル・シャンプーでふくらませた頭の毛をかきあげて、「そうかい、おれの歌がききたいのかい」、という大きな態度たいどです。たのもしい。

 みんなはモッヒがひとりで歌うのを聞いたことがなかったので、とてもたのしみです。


「レッツゴー」

 モッヒはかたをゆらして、リビングの真ん中に出ていきました。

「トッ、トッ、トッ、」

 こしをかがめ、片手を伸ばして、口でリズムを取ります。

 こういうの、テレビで見たことあります。さすが、ラッパー!


「おれのフルサト、アフリカは、

遠い、遠い、タンザニア、ほら、タンザニア、

おれの名前を教えてやろうか、

モッヒ、モッヒ、ほら、もひとつモッヒ

住んでるところは、シスコ、シスコでサンフラン、

ほら、サンフランだぜ」


 部屋へやから音が消えました。

 だれからも、言葉ことばがありません。

 とても気まずいです。


 めったには聞こえない車の音、時計のはりのかちかちまで聞こえます。

 一番先に口をひらくのはだれなのか、それぞれがそう思っていて、目を合わせないようにしていますが、心はきょろきょろしています。

 べらは、もしかしてこういうのがラップというものかと思ってみましたが、それにしても、全部半音下がっていて、たとえるなら、ガイジンがきき手でないほうの手で、はしを使ってごはんを食べているような感じです。

 

「どうして、みんなだまっちゃったの?」

 とゴーちゃんが言いました。

「ねぇ、どうして」

「あのね、モッヒくん、考えてみて。お店に行って、あのふくがいいと思っても、自分ににあうというわけじゃないでしょ」

 とべらが言いました。

 つまり、ヘアが合っているからといって、ラップに合っているわけではないと言いたいのです。ラップシンガーになるのはやめたほうがいいと言いたいのです。


「どういうこと?」

 とモッヒです。

下手へただってことだよ。すごいオンチだった」

 とゴ―ちゃんがずばり。

 みんな、どっきり。


「でも、ぼくのラッパーの友達は、ぼくのラップはうまいとすごくほめてくれたんだぜ」

「ほめてくれたのはだれでちゅか。ジェフと犬のブルーノじゃないでちゅうか?」

「そうだけど」

「ぼくも、前に、だまされたんでちゅ」

「ほめたのは、うそだったていうのか」

「そうでちゅ。ふたりはうそつきのわるいやつでちゅ」


 モッヒの中に、はずかしさといかりがこみあげてきました。

「うるさい。スカンクのおまえが、何を知っているというんだ。だまっていろ」

 モッヒがマリンに手をあげようとしました。

「モッヒくん、ぼう力はだめ」

 とべらがその手をおさえました。


「からかわれていたことがわかんないの?どうすれば、あんなにへたにうたえるのかと思っちゃう」

 とまたまたゴーちゃんです。

「なんだと」

 モッヒがゴーちゃんをけとばそうとしましたが、ゴーちゃんはび上がれるます。

「やれるもんなら、やってもろ」

 

「さあ、おちついて。みなさん、キッチンで何かのみましょう」

 とべらがさそいました。

「ブルーノって、だれ」

 とゴーちゃんがききました。

「近くに住んでいる犬でちゅ。自分ではシバ犬だと言っているけど、うそなのでちゅ」

「ブルーは犬なのかぁ」

 ゴーちゃんがはははと笑いました。

「どうかした?」

 とべらがふしぎに思いました。

「なんか、その名まえ、知っている気がする」

「だれ。パパ?」

「ちがう。でも、わかんない」


 

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