15. いつか作家に?

 べらはゴーちゃんのママさがしのことを、おしんに相談そうだんしました。おしんはてんとう虫です。みんなは「おしんさん」と呼びますが、べらは「おばや」、おばやはべらを「ひめ」と呼んでいます。


 ふたりがどこでどのようにして知り合ったのか、だれも知りません。おしんはめったにしゃべることはありませんし、それもささやき声なので、だれもおしんの声らしい声を聞いたことがないのです。

 みんなはおしんがどの部屋へやのどこにいるのか、いったいどこで何をしているのか、わかりません。おしんは小さいし、んでどこかへ行ってしまうし、みんなの前にはほとんどすがたをあらわさないのです。


 でも、べらがおしんをたよりにし、おしんもべらを特別とくべつに思っているのはたしかです。 さいしょにマリンが姿すがたを消した時も、どのあたりにいて、どこでているなどは、おしんは知っていました。あちこちに部下ぶかがいて、広いネットワークをもっているからです。

 

 てんとう虫はふつうは1年の命ですが、おばやはもう何年も生きているレジェンド虫です。てんとう虫の世界せかいではインドのマリア・テレサのような存在なのです。おしんが声をかけると何10万という若いてんとう虫が応援おうえんにくるらしいといううわさがあります。


「これからさむくなります。私たちてんとう虫は冬になると冬眠とうみんしなくてはなりませんから、さがすのは春になると思います」

 とおしんが言いました。

「わかりました。おばや、ゆっくりお休みください。あたたかくなったら、よろしくおねがいね」

 

 その夜、マリンは遅(おそく》くまで起きていました。

 べらが夜中にのどがかわいてキッチンに行くためにリビングを通りかかると、マリンがひとり、窓際(まどぎわ》にちょこんとすわっていました。

 向いの家にはクリスマスのイルミネーションがかざられているので、そのちかちかしているのをながめているようです。


「マリンくん、ねむられないの?」

「あっ、べらちゃん」

「なにか、こまったことでもある?」

「ううん、ちがうよ。今日はたのしすぎたから、ねむられないでちゅ」

 

 マリンは、スラッカーヒルからよくほしのようにかがやくサンフランシスコの町をながめていましたが、きらきらかがやくクレスマスツリーやデコレーションを見たは初めてでした。

「おどろきばかりでちゅ。すごかったでちゅ」

 マリンの目がまんまるです。

 なんてきれいな心のマリンくんなのでしょう。べらの胸がつーんとしました。

 どうしてこんなにピュアなスカンクが、あんなにくさいシャワーを出すのかしら。

きっと、そんな自分の小さなからだを守るために、かみさまがそう考えてくれのだわ、とべらは思いました。


「マリンには、これからもっといろいろなものを見せてあげるわね。この世界せかいには、たくさんきれいなものがあるから」

「ありがとう、べらちゃん。うれしいなぁ。ぼくは何も知らないから」

「マリンはとくべつにお利口りこうだから、すぐに何でもわかるようになるわよ」

「あのう、べらちゃん、ぼくはサンタクローチュがサンフランシコに住んでいるなんて、知らなかったでちゅ。北のほうに住んでいると思ったいたでちゅ」

 えっ。べらが目をぱちくりとしました。何のこと?

「それから、サンタクローチュがひとりではなくてたくさんいて、若いサンタさん、女の人サンタさんがいるなんて、知らなかったでちゅ」

「ちょっとって。どういうことかな」

 べらはちょっとねむたかったのですが、完全に目がさめました。

 

 そして、この週末しゅうまつがどんな日なのか思いだしました。

 今日はサンフランシスコでは、人々がサンタクロースのコスチュームをつけて歩く日なのでした。

「あれは本当のサンタクロースじゃないの。今日はね、若い人がサンタクロースのかっこうをして、バーやクラブを回ったりしてたのしむ日なのよ」

 とべらが説明せつめいしました。

「ああ、そうか。ぼく、まちがっちゃった」

 マリンが頭をかきました。

 そのしぐさがあまりにかわいらししくて、べらがつよくハグしました。

「マリンくんがわたしをさがして、とおいところから来てくれて、本当にうれしいわ」

「ぼくも、べらちゃんとくらせて、うれしいでちゅ」

 マリンがひっしになってマリンヘッドランズからわたしをさがしてくれたように、わたしもゴーちゃんのママをさがそう、べらはそう思いました。

      

 ゴーちゃんは人間のママに会いたくて、ゴーストワールドからこの地球ちきゅうにやってきたのでした。

 では、ゴーちゃんはいつからゴーストワールドに住むようになったのでしょうか。

 考えてみれば、ゴーちゃんが生きている人でないということはショック、かわいそうでなりません。べらはなんとかしてゴーちゃんママを見つけて、会わせてあげたいと思いました。

 

 大好きな人に再会さいかいできたら、どんなに大かんげきするでしょうね。

 べらの目には、そのときのようすが目に浮かんで、なみだが出そうです。

 だって、べらは・・・・・、べらにもゴーストワールドに会いたい人はいるのです。だから、ゴーちゃんママも、どんなにかゴーちゃんに会いたいと思っているか、よくわかります。


 ところが、ゴーちゃんが自分の名前なまえも、住んでいた場所ばしょも知らないので、どこからさがせばよいのかわかりません。

 ゴーストになると人間でいた時の思い出が全部ぜんぶえてしまうのでしょうか。それとも、ゴーちゃんが子どもだったからおぼえていないのでしょうか。


 おばやも春になればがんばってくれることだし、そのうちに、思いがけないことから、何かきっかけが見つかるかもしれない。そういうことって、よくあるから、とべらは前向まえむきです。

 とにかく、今は「ハッピー・ファミリー・コンテスト」に向けて集中しゅうちゅうすることにしました。

 来年のハロウィーンにはゴーちゃんがかえってしまうのですから、今は、みんなと大事だいじな思い出作りをしようとべらは思いました。

 それに、もし優勝ゆうしょうできたらニュースになって、ゴーちゃんのママが気がついてくれるかもしれません。


 一次予選いちじよせんは「ファミリー・ルール」つまり「家族かぞく規則きそく」という作文と、「ハッピー・ファミリー」のビデオです。

「作文のほうはべらちゃんにおねがいして、ビデオ制作せいさくはぼくが担当たんとうします」

 とクマハチがはり切っています。

「わたしが作文? 家族かぞく規則きそくといっても、うちにはルールはないわね」

 べらは、だれかほかにやりたい人はいないですか?とたのむような顔をしました。

れていなくても、そこは一応いちおうはライターなんだから、そこはうまくいてくださいよ」

 とトットです。

れていなくてもとか、一応いちおうとか、べらちゃんに失礼でちゅ」

「あっ、ごめん。本当ほんとうのことが口から出てしまっちゃった」

 めずらしく、トットがあやまりました。

 本当のことが口からというのに、かえってきずついたなぁ、とべらは思いましたが、こんな時は、わらうしかないですよね。

 はははは。

 でも、すぐに、わらわなければよかったと後悔こうかいして、足下あしもとを見つめました。堂々どうどうとしていればよかったなぁ。

 

 マリンが下から見上げていました。

「べらちゃんはこれからでちゅ。大作家だいさっかになりまちゅ」

「マリンくん、いつもありがとう」

 べらがしゃがんで、マリンをやさしくなでました。


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