13. ゴーちゃんのママ

 べらのファミリーのニュー・メンバーになったゴーちゃんは、いたずら好きのゴーストでした。

 ドアやかいだんのうしろにかくれていて、「わっ」とおどろかすのが大好だいすききです。おかげで、マリンはにおいスプレーを3回も出して、そのたびに、エアークリーナーをかけなければなりませんでした。

「おどろかすのはやめてね。マリンくんの命にかかわることだから」

 とべらが言いました。

「うん。もうしない」

 ゴーちゃんは、べらにだけはすなおです。


 クリスマスが近くなってきたので、クリスマスのかざりを見に、みんなでダウンタウンに行くことになりました。

 でも、ゴーちゃんはいたずらがぎたので、外出がいしゅつ禁止きんしです。今度こんどはクマハチをおどろかせてしまったのです。

「ぼくはからだは大きいけど、びびりなんだよぉ」

 とクマハチがきました。


「ゴーちゃん、おどろかさないと、約束やくそくしたでしょ」

 とべらがしかりました。

「ぼく、マリンをおどろかさなかったよ」

「だれも、おどろかしてはだめ。しんぞうにわるいでしょ」

「ごめんなさい。ほんとうはだめだってわかっていたんだけど、大きなクマハチをみたら、おどろかしたくなっちやったんだ」

 でも、ゴーちゃんをひとりにするのはかわいそうなので、べらがいっしょに残ることにしました。サンフランシスコにくわしいべらが、みんなのために、歩き方の案内あんないメモを作ってあげました。


 みんなが出かけた後、ゴーちゃんがべらの部屋へやにすうっとはいってきました。

「べらちゃん、まだおこっている?」

「おこっていないわよ」

 べらはなんだかとてもうれしそうに、コンピュータの画面がめんを見つめています。

「べらちゃん、何をしているの?」

「スイスにいるベストフレンドのカレンからクリスマスのビデオがとどいたので、見ているところ。いっしょに見る?とてもきれいよ」

「ぼく、見たい」

「きのうね、カレンのハズバンドが車をうんてんして出かけて、カレンがビデオをとったのよ。わたしのために」

 べらはゴーちゃんのためにいすを用意よういして、ふたりでなかよくビデオを見ました。


「みずうみがきらきらしていて、きれいだね」

 とゴーちゃんです。「これ、どこ?見たことがある気がする」

「スイスよ。行ったことあるの?」

「わかんない」

「ここはルツェルンというみずうみがあるきれいな町よ。ここのホテルには、思い出があるのよ」

「どんな」

「カレンがここでけっこんしたのよ。ホテルには船着きふなつきばがあってね、カレンは船の上で式をして、そのあと、このホテルでパーティをしたのよ。夜中よなかまでおどってたのしかったわ」

「べらちゃんは、ダンスがすきなの?」

「すきよ」

 べらがしおくを見つめる目をしました。

「そのパーティは、いつ?」

「5年前になるわ。ああ、もう5年前になっちゃったんだわ」

 べらはさみしい目をして天井てんじょうを見上げ、ため息をつきました。

「時間はながれるもんだよ」

 とゴーちゃんです。子供なのに、哲学者てつがくしゃのようです。

「そうなのよね」


 べらはマウスでクリックして、別の画面がめんを出しました。

 カレンが赤ちゃんをひざの上でだいています。

「これが今のカレン。赤ちゃんは長男ちょうなんのジャックくん。3才よ。かわいいでしょ」

 うん、とゴーちゃんはじっと画面がめんを見つめていました。じっと、じっと。そして、小さな声で、「ママ」と言いました。


 べらがおどろいてゴ―ちゃんを見ました。

 ゴ―ちゃんの目は、ペットの金魚きんぎょくなった時みたいな悲しい目でした

 ここにおいでなさい。

 べらが自分のひざをたたくと、ゴーちゃんはぴよこんとひざにのりました。

 べらがぎゆっとだきしめました。ゴーちゃんもべらをだきしめました。

 なみだもののドラマのクライマックスのようなシーンです。


「ゴーちゃんのママって、ゴーストよね?」

「ちがうよ。ぼくのママは、にんげんだよ」

「そうなの!」

 ゴーちゃんは会った時、「ママをさがして」って言っていました。それで、べらはあの日、ゴーストのコスチュームをきていたから、ママとまちがえられちゃったのかと思っていたのです。

 でも、ゴーちゃんのママは人間でした。

 ゴーちゃんはこの地球ちきゅうに、ママをさがしにきたのです。


「ゴ―ちゃんはかえりのトレーンにのりおくれたって言っていたけど、のりおくれたゴーストはほかにもいるのかな?」

「いない」

「ゴーちゃんは、わざとトレーンにりおくれたんじゃない? ママをさがそうとして」

わない」

「そういうことって、ぜったいに、あると思っていたわ。あるのね、あるのね」

 べらのほおが、ピンク色になりました。

「べらちゃん、あるあるって、何があると思っているの?」

「ゴーストワールドの人が、地球ちきゅうに来れるってことよ」


「いたいよ、べらちゃん」

 べらがこうんふしすぎて、ゴーちゃんをしめつけていました。

「おっと、いけない」

 べらが手をはなしました。

「わたし、ゴーちゃんのママをさがしてみせるから、ゴーストワールドのことをいろいろおしえてね」

 べらはかみとペンを用意よういしました。

「それでは、名前なまえは?」

「プリンス・ゴーちゃん」

「ちがう。今の名前じゃなくて、前に、地球ちきゅうにいた時の名前なまえ。イチローとか、ケネディとかあるでしょ」

「わかんない」

「なんか、おぼえていること、ない?ひとつでもいいんだけど、ない?」

 うーん、うーん、とゴーちゃんか考えています。

「ぼくがわかっているのは、ママのおひざのかんじ。ぼくはよくだっこされていたんだ。ママのおひざはあったかくて、やわらかかった。ちょっとこの感じとはちがう」

 とべらのひざを指さしました。

「すみませんね。やわらかくなくて」

「もういちど、ママのおひざにのってみたいよ、ぼく」

 ゴーちゃんが、わっと泣き出しました。つもっていた思いが、き出たようです。

「わかるよ。その気持きもち、すごくわかるから」

 べらがまたゴーちゃんをきしめました。


「でも、何かもっと情報じょうほうがほしいわ。しらべる糸口いとぐちがほしいのよね。何でもいいから」

「ぼくにあるのはママに会いたい気もちと、ママのおひざのかんじだけなんだ。でも、ママに会ったら、この人はぼくのママだってすぐにわかるよ。ぼく、ぜったいにわかるよ」


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