12. ゴーストのゴーちゃん

「もしかして、ゴーちゃんは、ゴースト?」

 とべらがあせっています。

「ゴーちゃん、わたしに会いにきてくれたの?」

 ゴーちゃんがきょとんとしています。


「べらちゃんもゴースト?」

「ううん、ちがうけど」

 べらがゴーストのコスチュームをぬいで、ジーパンとセーター姿すがたになりました。べらは人間です。


 今度こんどはゴーちゃんが白いふくをぬぎました。すると、何も見えなくなりました。 

 ええっ、ゴーちゃんの姿すがたが見えません。

「消えた」

 とみんな大さわぎです。

「ゴーちゃん、どこ。見えないから、ふくをきてちょうだい」

 とべらがさけびました。

「やだよ」

 声だけは聞こえます。ゴーちゃんは笑いながら、へやをかけ回っています。

 みんながつかまえようとしますが、なかなかつかまりません。

「ゴーちゃん、ふくをきて、おねがい」

「わかったよ」

 ゴーちゃんのふくがゆらゆらとうごいて、ようやく姿すがたが見えました。本当に、ゴーちゃんはゴーストでした。


「ゴーストって、妖怪ようかいとはちがうのかい」

 とクマハチがききました。

「ゴーストはゆうれいで、ようかいはおばけだろ。いい年して、そんなことも知らないのか」

 ゴーちゃんの言い方は上から目線めせん、たいども生意気なまいきなので、みんながおどきました。とても子供とは思えません。


「ゴーちゃんは、何才なの?」

 とべらです。

「ぼく、こどもだよ。たぶん、7才くらい。だれかが、バースデイパーティをしくれた気がする」

「どこで、だれが」

「わからない」

「ゴーストワールドには何人くらい住んでいて、せいりょく争いとか、あるのか?」

 とモッヒです。

「そんなこと知るか」

「なんだ。知らないのかい」

 あはは、とモッヒが笑いました。

「じゃ、おまえは世界中せかいじゅう何頭なんとうのライオンがいて、どこではだれがつよいとか、全部ぜんぶ知っているのか。言ってみろ」

 こうげきされて、モッヒが目をぱちぱちさせました。

「わかったか。ライオンに生まれたからって、ライオンのことを何でも知っているわけじゃないだろ。ゴーストも同じだ」

 ゴ―ちゃんのこたえにはむっとしながらも、なるほどとなっとくするモッヒでした。


「ことばには気をつけろ。こっちはせんぱいなんだからな」

 とトットが意見いけんしました。

「じゃ、ここではだれが一番、年寄としよりなんだ?」

 とゴーちゃん。

 みんながべらを見ました。

「じゃ、みんなは、べらちゃんに、よいことばを使っているのか」

 モッヒとトットがモジモジしました。

「いいから、いいから。ここは自由じゆうの家なの」

 とべらが言いました。


「ゴ―ちゃんはアメリカのゴーストなの?」

 とクマハチです。

「そんなの、わからない」

「あのう、ゴーストワールドには、においとかあるのでちゅか」

 マリンはやはりにおいが気になるようです。

「そんなの、あるわけないよ」

「ゴーストワールドにはロックグルーブとかあって、スーパースターとかいるわけ?」

 とモッヒです。

「ロックグループはないけど、すごい人気者にんきものがひとりいる。イケメンだ」

「えっ、それってだれ?」

 とべらがききました。

「それは・・・・・」

 みんなの目がゴ―ちゃんに集まります。

「それは、・・・・・・ぼく、プリンス・ゴ―ちゃんだ」

 ああ、なーんだ。

 ジョークだったとわかって、とくに、べらはがっかりしたようすです。


「ゴーストワールドとヘブンのちがいはなんでちゅか。生きものはんだらまずゴーストワールドに行って、そこからヘブンに行くのでちゅか」  

 そのことはべらも知りたいと思っていたので、耳をかたむけました。

「ぼくはまだこどもだよ。そんなことは知るわけないだろ」

「ゴーストワールドには、かみさまとかいるのでちゅか」

「ぼくはこどもだって言っているだろ。知らないよ」

「ゴーストって、みんなそれぞれちがう顔をしていて、そのかおを見れば、だれかってわかるの?」

 これは、べらの質問です。

「わかるよ。ぼくたちゴーストは、ゴーストのカンでわかるけど、でも、生きている人間にんげんにはわからないだろうな」

「そうなのね」

 べらはゴーストワールドに、とても興味きょうみがあるようです。


「子どものゴーストが、どうして、ここにいるんだ」

 とトットがききました。

「ゴーストワールドにかえるトレーンにのりおくれたんだ」

「次のトレーンはいつでちゅか」

「らい年のハロウィーンだよ」

「そのトレーンにはだれでものれるのか」

 とモッヒです。

「おまえ、のりたいのか」

「うん。トレーンはすきなんだ」

「こうえんのトレーンじゃないんだぞ。ゴーストしかのれないに決まっているだろ。すこしはかんがえてからいな」

「なんだと」

「やる気か」


「あらあら、けんかはやめましょう。じゃ、1年またなければならないのね。じゃ、それまで、うちでらすというのはどう?」

 とべらが言いました。

「いいけど。この家にはバトラーとかいるの?」

 バトラーというのは、あるじのお世話せわをする人です。

「いないわ。ここでは、みんな、じぶんのことはじぶんでするのよ。できる?」

「しかたないなぁ」

 というわけで、その夜から、ゴーストのゴーちゃんも、べらのうちに住むようになったのでした。


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