11. ハロウィーン

 10月31日のハロウィーンは、べらの仲間たちの一番好きなイベントです。

 ハロウィーンの日は、アメリカでは大人おとなも子どもも思い思いの仮装かそうコスチュームをつけるので、人々からじろじろ見られることがないからです。

 

 べらの仲間は着替きがえなくてもそのままでよいのですが、べらだけは人間なので、コスチュームを作らなければなりません。ほんとうは白雪姫しらゆきひめになりたかったのですが、衣装いしょうを作っているさいちゅうなのに、みんながさけんでいます。

「べらちゃん、早く、早く。早く行こうよ」

 それで、べらは急いで白いシーツに穴をふたつあけて、それを頭からかぶって、階段階段をとんとんと下りていきました。

「べらちゃん、それなぁに」

「ゴーストの女王よ」

 べらはそう言って、おもちゃのかんむりをかぶりました。

 ゴーストとはお化けのことなので、ハロウィーンにはぴったりです。


 みんなはメトロにのって、ダウンタウンまで行きました。たくさんの人がいるので、みんなわくわくです。パウェル通りにならんでケーブルカーに乗って、坂道をのぼったり、下ったりしました。ちょっとさむいですが、風を感じて気持きもちがよいです。

  ケーブルカーをおりて、ピア39のKドックというところに行きました。そこには、アシカがたくさんいます。夏は少ないですが、冬になると、何百ものアシカが集まってきます。トットはオットセイですが、アシカと同じ海洋かいようほにゅう類なので、しんせきみたいなものです。

 

「こんにちは、オウーン」

 とトットが元気にあいさつをしました。

「ウオッ、ウオッ、ウオッ、オッス」

 という大きな声がかえってきました。アシカたちが声をそろえて鳴くと、迫力はくりょくがあります。

 べらちゃんチームも、「オウーン、みんなで来たよー」と声をそろえて、負けずに大きな声を出しました。

「しばらくぶりだね。げんきだったかい」

 とアシカのボスが言いました。

「げんきげんき。ことしはあたらしいメンバーをつれてきた。スカンクのマリンだよ」


 まりんは小さいので、べらがきかかえて、手すりにのせました。

「ぼくがまりんでちゅ」 

 マリンは赤いゴールデンゲートのゆびをゆびさしました。

「ぼく、あそこからきたんでちゅ。よろしくおねがいいたしまちゅ」

「マリンは、みどりがたくさんあるよいところからきたんだね」

「はい。あそこで、生まれたんでちゅ」

「マリンヘッドランズのおくには、ママル・センターというのがあって、けがをしたぼくたちの仲間なかまを助けている、ときいたことがあるよ」

 とアシカが言いました。

「ぼくは行ったことがないでちゅ」

「わたし、そこにガイドとして行ったことがあるわ。ボランティアがはたらいていて、すばらしいセンターよ」

 とべらが言いました。

「ぼく、行きたい」

 とトットが言いました。

「ぼくも行きたいでちゅ」

「こんど、みんなで行きましょう。わたしがくるま運転うんてんするから」


 久しぶりに、夜のサンフランシスコで楽しく遊んで、すっかりねむたくなって、フォーレストヒルの家に帰ってきました。

 べらはさっきからだれかにつけられている気がして、何度なんどもふりかえったのですが、だれのすがたも見えません。

 べらが家にはいろうとすると、木の後ろにだれかいるようです。


「そこに、だれかいる?」

 だれも答えません。

 でもべらは何かを感じたので、木にちかづいて行きました。

「だれか、いますか」

 すると、木のかげから、ひよっこりと白いゴーストのコスチュームをた小さな子どもがあらわれました。

「あらあら、あなただったのね。みんなからはぐれて、まよい子になってしまったのね。こちらにいらっしゃい」

 その子がのこのこ歩いてきました。


「ぼくのママをさがして」

 とその子が言いました。


 かわいそうに。ママからはぐれてしまったのね。

「きんじょに住んでいるの?」

 「ちがうよ」

 とその子が首をよこにふりました。

 いいわよ、まかせておいて。わたしがあなたのママをさがしてあげます。べらが手を出すと、その子がべらの手をつかみました。


「わたしはべらよ。あなたのお名まえは」

「プリンス・ゴーちゃんだよ」

「ゴーちゃん、おうちの電話番号でんわばんごうは知っている?」

「知らない」

「おうちはどこ?」

 その子がだまって上をゆびさしました。

「空からきたの?」

 その子がうんとうなずきました。

        

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