8. 白クマのクマハチ

 きょうは、クマハチの紹介しょうかいです。

 クマハチはすらりとしたイケメンの白クマなのですが、かれにも問題もんだいがひとつ。それは自分がシロクマではなくて、「ハチ」だと思いたいのです。だから、いつもハチのかっこうをしてます。


 クマハチの初恋の相手は、花畑で会ったミツバチのエンジェルちゃんでした。

 バチは幸せな春を運んでくるすばらしい昆虫こんちゅうです。

 ハチは美しい花畑にやってきて、花から花へと花粉かふんを運びます。花粉がなければ、植物しょくぶつは実をつけることができません。

 ハチってなんてすごいんだろう、とクマハチは感動かんどうしました。

 その中でも、すき通ったはねをふるわせて、だれよりも美しくぶのが、ハチのエンジェルちゃんでした。


「エンジェルちゃん、あそびましょ」

「いそがしいから、ちょっとだけよ」

 エンジェルちゃんは時々、ブンブンブーンとちょっとだけ耳のところでおどってくれました。

「わたし、おしごとがあるから、もう行かなくっちゃ」

「ぼくも行ってもいい?おしごとを手伝うから」

「それはだめよ」

 エンジェルはかなしいかおをしました。

「あなたはしんせつな白クマさんだけど、ざんねんながらハチじゃないもの。手伝うことはできないわ」

 そう言って、ハチのエンジェルはいなくなりました。


 ブ―ンという音が消えたら、世界せかいがとてもさみしく見えました。

 エンジェルちゃんに、どこに行ったのかな。

 どこに行ったら会えるのだろうか。

 自分がハチになったら、ハチの仲間なかまにいれてもらえて、またエンジェルちゃんに会えるかもしれない。白クマはそう考えて、ハチのかっこうをするようになったのです。


 シロクマがべらの家でくらし始めたとき、トットにいじめられることがありました。トットはずけずけというタイプなのです。あたまにかんだことをストレートに言っているだけで、相手あいてがそれほどパンチを受けているとは思ってはいません。こういう人って、いますよね。でも、言われたほうは、きずついちゃいます。


「おまえはシロクマなのに、そんなハチのふくなんかきて、はずかしいと思わないのか」

「ぼくはハチです」

「おまえはシロクマだ」

「ぼくはハチです」

 シロクマはなみだぐんでもゆずりません。がんばれ。

 

 そんなある夜、ふたりがこう思いました。

「そうだ、べらちゃんの意見いけんをきこう」

 その時、べらはツアーガイドのお仕事から「極限きょくげん」とさけんでかえったばかりでした。極限というのは、ひどく腹ペコだというべら語です。ふたりがキッチンに行くと、べらはテーブルで、ミートソースのスパゲッティをおいしそうに食べていました。

「ためしてガッテンはすごいわ。1分でヌードルがゆであがるのよ。ノーベルしょう

 と上きげんでした。

 ノーベル賞というのはとてもおいしいということ。べらの顔にトマトソースがついていました。

「やり方、知りたい?まずね、ヌードルを水につけておくの」

 ふたりとも、スパゲッティのゆで方にはきょうみがありません。そんなのんびりしている場合ばあいではないのです。それにしても、トマトソースがびちったべらの顔はかわいいけれど、ちょっとまぬけでした。

 ふたりはこの大問題だいもんだいを、べらちゃんが解決かいけつできるのかなと思いました。


「トラブルって、なぁに」

「シロクマは、シロクマ以外いがいのナニモノでもない。ハチではない」

「ノー、ぼくはハチです」

  ?

 べらの口にはスパゲッティがはいっていてもぐもぐもぐもぐ、目だけ大きくしています。


「ああ、そんなこと」

 べらはまたスパゲッティをつるつる。そして、言いました。

「He is a bear, who wants to be a bee. Any problem? 」

 その意味は、「かれはハチになりたがっているクマよ。そのどこがもんだい?」


 その時、[ああ、そうなんだ。そうだった」

 とトットがとつぜん、納得なっとくしました。

 部屋へやにあった風船ふうせんが大きくふくらみすぎて、スペースがなくなっていたのに、それがパチンとれてらくになった、そんな感じです。

「そうなんだ。ハチになりたいシロクマなんだ」

 トットがそう言った時、シロクマがうぉーっと、うち中にひびく大声おおごえき出しました。これまでは泣きそうになってもこらえていたのですが、ようやくわかってもらたと思ったら、泣いてしまいました。

 シロクマがかたをふるわせて泣くのを見て、トットはこんなにまできずつけることを言ってきたのだと気がついて、身体からだつめたくなりました。自分だっておよげないとばかにされてくやしい思いをしてきたのに、相手に同じようなことをしてしまいました。

「ごめん」

 とトットが言いました。


「自分が言われたくないと思うことは、言わないでね」

 とべらがトットに言いました。そして、シロクマのほうを向いて、ガッツポーズをしました。

「強くなるしかないんじゃない?」


以上いじょう。では、そういうことで」

 とべらが言って、みんなでにこにこしました。

 その日から、シロクマ名前が「クマハチ」になったのです。


「ありがとう」

 クマハチが、ナプキンでべらの顔のトマトソースを拭いて、チュッとありがとうのキスをしたら、トットがぱちぱちと拍手はくしゅをしました。

 なぜ拍手はくしゅまでしてもりあがったのかわかりませんが、そんな時って、ありますよね。

 その時、ふたりはこう思ったのです。

 べらちゃんはおっちょこちょいが多いけれど、あたまと心は見かけよりずうっとよい人みたいだ。ぼくたちはよい家に住みついたね、って。


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