箱庭2
1時間ぐらいうずくまっていたのだろうか・・・。やっと頭痛が治まったので、俺はゆっくりと2階の自室に戻りベッドに腰かけた
「だから言ったでしょ。外は危険だって・・・。」
壁に掛けてあった時計が、俺にそう話しかける。
「中沢さんちの秋人くんって引きこもりらしいわよ。」
「えーお母さんかわいそうね。旦那さんは立派な会社に勤めてるって話だったのに。」
貯金箱と掃除機が俺を見ながらひそひそと内緒話をしている・・・。陰口は陰でやってくれよ。
俺はチクタクとうるさい壁掛け時計を、くぎで打ちつけると窓から放り投げた。ついでに貯金箱と掃除機も窓から捨ててやった。仕事を終えて帰ってくるお袋は、この庭の惨状を見てさぞかし驚くんだろうな。自分が驚くべき悪漢にでもなったような気持ちをかみしめながら俺はPCの前に座りなおした。そうだ、そろそろ日課のSWをしなきゃ。
SWにログインすると、珍しくギルメンが話しかけてきた。
「おはよう!今日はどこの狩場に行く?私は今日も黄泉の森に行きたいな~」
ログインのタイミングが合わないので、なかなかチャットする機会がないが、この少女シルカはいつもやかましく話しかけてくる。
「幸せの靴が欲しいんだよね。一緒に狩りに行かない?」
俺が返信しないでいると一方的に反し続けている。このまま一人で話しを続けさせるのも面白いな、と意地悪を考えたりしたがさすがにそれは性格が悪すぎだろうと思いなおして一緒に狩りに行くことにした。
黄泉の森は、ワールドマップの北側に位置した竜の泉村にあるダンジョンだ。中国的な独特な世界観のバイオームである。レベルもカンストして、最高難易度のレアをそろえてしまった廃人の俺には、幸せの靴もこの黄泉の森でドロップするレアもすべてに興味が持てない。誘われるがままにやってきたのだが、さすがに緊張感が保てず眠くなってしまった。
「だめだよ、寝ちゃだめだよ。寝ちゃうとこの世界が終わっちゃうよ。」
ベッドと壁のすきまで眠っているはずのシルカの声で、はっと目を覚ました。言っている意味は理解できないが、眠ってしまうと、意識を保っていないとこの世界が終わってしまうことが何となくわかった。そう、またあのベッドであの朝からやり直すことになる・・・何となくそんな風に納得してしまった。
一緒に狩りをしながら寝落ちしそうになっていたことを詫びようと、狩場を見渡してみたがシルカはログアウトしてしまったようだ。挨拶もせずに困ったやつだ。次にログインしてきたらきつくしかりつけてやろう、そんな風に思いながらギルメンに挨拶をして俺もログアウトした。昨日、一日中頑張ったせいか、今日はもうSWを継続する気力がなかった。俺ももう年を取ったんだよな、意外と歳くった自分をみじめに思いながらも生きてきた道のりを思い返してみた。
「だめだよ。この世界では。すべてを思い出しちゃいけないんだよ。」
再びベッドと壁のすきまで眠っているだろうシルカに声をかけられた・・・。確かに俺の人生は高校を卒業したと同時に幕を下ろしている。閉店ガラガラだ(笑)
それでも思い出せる程度には記憶があるはずだ。親父に旅行へ連れて行ってもらった記憶とか、お袋に勉強を見てもらった記憶とか、シルカと公園を駆け回った記憶とか・・・。そのぐらいは思い出せる。
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